四話 日常 氷華の場合

2019年 9月3日 火曜日 昼休み

 氷華が昼食を食べていると、超対課から連絡が来た。また手におえない魔術事件が発生したのか、あるいは報酬の一部として提供してもらっている海外での魔術事件の情報だろう。いずれにせよ氷華にとっては早急に解決すべき事件だ。

 ちなみにこの連絡は携帯電話に来るのではなく、魔術を使って彼女の脳内に直接送られてくる。その方が盗聴されにくいし、スマホを開けない状態でも直ぐに内容を把握できる。まあ氷華はその気になれば自分が携帯電話の代わりになる事が出来るのだが。

 内容を確認すると、某国で魔術を利用した人身売買が行われているという物だった。早急に対処しなければ被害が拡大する一方だろう。その為一刻も早く解決したいのだが、流石にいきなり特攻するなどと言う愚を犯す訳にもいかない。

 とりあえず情報の有った場所を左目の魔眼で観察する事にした。起動時の魔法陣を見られると不味いので手で隠しているが。


(うーん、詳しくは近くで見ないと分からないけど、魔術的記号がそこら中に有るし、そこそこ強い拠点だね。街中だし、人身売買組織なら中に被害者が居るだろうから纏めて吹き飛ばすのは無理かー。じゃあ結局特攻するしかないね)


 基本的に魔術戦は防衛側が有利だ。その為、普通は敵の拠点に一人で飛び込んだりしないし、やったらまず死ぬ。それをやって生き残っているのは氷華ぐらいだ。


(とりあえず決行は今夜かな。多分夜の方が構成員集まっているだろうしね)


 魔術師は行動を隠蔽しやすい夜に行動する事が多い。今回の場合は有象無象の寄せ集めで、昼間は普通に生活しているようなので夜の方が殲滅しやすいだろう。

 とりあえず授業が終わったら出発すれば間に合うだろう。


◇放課後

 氷華は授業が終わると一度家に戻り、準備を終えると犯行グループの拠点に向かう。目的地までは一時間程度だ。ちなみに彼女一人で移動する場合、飛行機を使うより自力で飛んだ方が早い。

 目的地が有る街に着くと、見られないように着地し、右目の魔眼を使って敵拠点を観察する。


「うーん、確かに防衛魔術の数は多いけど、数だけだね。相乗効果とかどこを強化すべきかを考えてない。別の魔術師が好き勝手に付けた感じかな。多分家とか流派が全然違う魔術師の寄せ集めなんだろうね」


 家の後を継げない等の理由で経済的に困窮する魔術師はそれなりに多く、そういう魔術師は犯罪に手を染める事が多い。たまに真っ当に生きる人も居るが、数は少ない。魔術研究に必要な資金を普通に稼ぐのは難しいのだ。

 恐らくそういった魔術師が集団で人身売買を行い、金を稼いでいるのだろう。

 日が暮れるまではまだ時間が有るので、その間に構造を詳しく調べ、侵入、殲滅の手順を決めておくことにした。

 数時間後、構成員が集まったようだ。これから取引や誘拐を行うらしい。被害者が増える前に殲滅するべきだろう。

 予め決めておいたルートに従い、氷華は建物内部に侵入する。統一感のない防衛設備である為、きちんと調べれば素通りも可能だ。

 中では人の争う声が聞こえる。


「どういう事だ、報酬は六万元と言う契約だっただろ!!」

「いや~ですが怪我をしているでは無いですか。これでは満額は出せません」


 どうやら上げ足を取って買いたたこうと考えているらしい。見た所買い手の男は魔術師では無いので、自殺行為でしか無いのだが。


「そういう事なら商品は引き渡せないな」

「ほう? そういう事なら皆さんやってしまいなさい」


 男がそう言うと、銃を持った男達が入ってくる。どうやら脅して無理やり要求を飲ませるか、無理やり目的の人間を強奪するつもりらしい。

 無論魔術師が銃を持った男程度に負ける筈が無く、数分後には全滅していた。魔術師を抱え込んでいない裏社会の組織なんてこんなものだ。


「さて、今回の商品はまた売り先を探すとして、とりあえずこいつらの有り金を奪うか。……足りねえじゃねえか。こいつら取引に来たのにこっちが提示した金額用意してないとかふざけてんのか」

「おい、早く俺たちの取り分をよこせ」

「はあ? 想定した収入が得られなかったんだから、お前らの分も減るに決まってるだろ」

「ふざけないで、契約違反よ」

「報酬の分配で揉める必要は有りませんよ。だって貴方達はこれから死ぬのですから」


 そう言って、氷華はまず二人の首を切断する。


(敵数、残り八)

「なッ!! 貴様まさか魔術師殺——」

「熱力学第二法則改変(MOTSLOT)、エントロピー減衰術式起動(AOED)、大気中の熱エネルギーを運動エネルギーに変換(CTEITAIKE)」


 まずリーダーと思われる男を切断し、エントロピー減衰魔術を使って残りの魔術師達を弾き飛ばす。吹き飛んだ魔術師達に一人一人止めを刺して殲滅完了だ。彼らの脳内の情報や置いてあった書類から他のメンバーの情報を調べ、彼らも殺した。後は遺体を回収して墓を作り終了だ。

 被害者に関しては当局に任せるべきだろう。この国の行政機関は余り信用できないので不安では有るが、彼女には誘拐された民間員を元の生活に戻すノウハウなど無いからやむを得ない。

 こうして、霧崎氷華はまたいくつもの死体を築き上げる。


 これが、彼女の日常だ。


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