第49話 毒

そのまま俺たちは何故か屋敷に泊まることになった。

夕食をご馳走してくれるというので

ピグナとファイナが行くことになった。

俺たちは、宿泊室で待機である。


残った三人で作り置きを食べながら

テーブルを囲んでいると

「にゃ、にゃんか、大丈夫にゃのか?」

ペップが不安げに言ってくる。

「もう少し、様子を見ましょう」

「そうだな、何をピグナが企んでいるか

 まだわからないし」


雑談しながら待っていると

テカテカした顔のファイナと、ゲッソリしたピグナが

部屋へと戻ってきた。

「おいしかったですわ!熟した魚のさしみ!」

「いや、グロテスクな腐敗物の陳列だった……」

ピグナはそう言うとベッドに倒れ込む。


ファイナは嬉しそうに

「お風呂があるそうですわよ!」

とバムとペップを誘って出ていった。

ベッドからむくりと起き上がったファイナが

「で、私がした話なんだけど」

俺の方を見て言ってくる。


「バルナングス共和国の調査員を装って

 紛争をけしかけた」

「マジか……」

「で、たぶん、こっちとむこうのリーダーが対決するから

 どっちかに加勢したら、乗っ取るきっかけになるよ」


「……どっちかとか言ってるが、ペップは

 ミチャンポ王国側につくだろ?」

「うん、だからね、二手に別れたら面白いと思うんだ。

 ファイナはミチャンポ、あんたはこっち。

 そうすると、ファイナの恐ろしい魔法を容赦なく

 あんたに使うことが出来る」


「ああ……壮絶に戦うふりをしろと……」

「そういうこと、それで信頼を勝ち得て、両陣営に食い込んで

 上手い事コントロールできれば、両方を得ることも

 可能なわけ」

「あくどいことはやらないが、紛争解決になるなら

 それを試してみてもいいけどな」


ピグナは嬉しそうな顔をして

「やった!じゃあ、そういうことで!」

俺に抱きつこうとして、寸前でやめた。

「あぶないあぶない。悪魔が人に好意を抱いたらダメだ」

「……とりあえず、話しておいてくれ」

俺はベッドに横たわって寝ようとする。

ちょっと疲れた。

「うん。任せといて」

ピグナは微笑んだ。


翌日目を覚ますと、俺は何故か床で寝袋で寝ていた。

「あ、起きたにゃ。昨日は女子四人で色々濃い話したにゃよ」

テーブルに座って、漬物を齧っていたペップが声をかけてくる。

「そ、そう……」

とりあえず朝食にしようと、作り置きを食べていると

バム達が部屋に入ってきて、朝の挨拶を交わした後に

「ピグナさんから昨日聞きました。

 良い話だと思います」


「わたくしは反対したのですが……」

ファイナは俺を見て不満そうに言ってくる。

「ファイナちゃん、ゴルダブルと離れたくないにゃ」

ファイナは真っ赤になって俯く。

「まあ、でもこの話は、そこが核だからねー。

 あたしが説得しといたよ」


あとから入ってきたピグナが微笑む。

その後、全員で作戦を話合って

俺とピグナが漁師連合国について

ファイナとバムとペップはミチャンポ王国側と言うことになった。

というか、もうなっていた。俺は作戦を聞いただけである。


その後、衛兵たちに見送られながら

朝の光に照らされて

普通に屋敷から出ていった三人を見送る。

「やばくないか?」

いざ戦いが始まって向こう側に三人が居たら

俺たちの立場がヤバい気がする。

「ああ、記憶消すから大丈夫だよ」


「ミチャンポの王様とかは?記憶消したのか?」

「それについては作戦を伝えてあるし」

ニヤニヤしているピグナに

「……任すけど、人死にとか出ないようにしろよ」

「大丈夫だって」

かなり不安だが、俺はとりあえず黙っておくことにした。


その日は、俺たちは漁師連合国を見て回ることにする。

この街は、マサカというらしく

大まかに三つの部分に分かれていた。

建物が大量に並んでいる内陸に入り込んだ居住区と商業区

いわゆる、街と言った感じの場所と

そして砂浜に、木製の渡り橋が並ぶ港

そして、その砂浜と街を見下ろす高台のようになっている

街の左右を囲む山である。


山の頂上まで山道を使いピグナと登って、街を見下ろす。

「防衛には適してるんだけど、城壁を築く気もないかぁ」

「良いことじゃないか?」

「うーむ、それだと、あたしたちの国の首都としてなぁ」

「いや、待てよ。もう侵略した前提で話してるだろ」


「ここ良いんだよねぇ。バルナングスにも近いし

 ミチャンポを防衛都市として、この街を首都に定めれば

 結構、良い国になると思うんだ」

「国盗りをする気はないんだけど」

「絶好の機会だよー?力でねじ伏せて

 正しい食文化を広げない?」


「いや、なんかそれは違う気がする」

「そっかぁ。じゃあ、ここの魚を食べてみたら

 気が変わるかもなぁ」

ピグナはそう言いながら、俺と共に山から下りていき

港へと誘っていく。


そして砂浜近くに並んでいる

木造の蔵のような建物の一つに俺を連れて行き

人けの無い、その中へと易々と入り込むと

大量に並んでいる樽のうちの一つの蓋を取った。

途端に、嗅いだことのない腐敗臭のような

酷い臭いがしてくる。


ピグナは鼻を摘まみながら

「ひっどいよね……これを腹壊しながら

 喜んで食べてるんだよ?」

と中から、一匹の紫色に全体が腐敗した小魚を

取り出して、俺に渡してくる。嫌々受け取ると

「舐めてみてよ。ミチャンポ王が言う通りか」


たしか舐めたら、やばい味がするとか言っていたな。

いや、舐めなくても分かるが、ピグナがそこまで言うならと

ペロッと舐めてみた。臭いの割に味は無く

しばらくは身体にとくに異変は無かったが

すぐに舌に痺れが来て、猛烈な吐き気が襲ってくる。


ピグナはため息を吐きながら、樽の蓋を閉めて

俺を建物の裏へと連れて行く。

俺はそこでしばらく吐き続けた。

胃の中のものをあらかた出し尽くしたころに

ピグナが、水の入った革袋をもってきて

それで必死にうがいをする。


ようやく吐き気が収まると

「分かったでしょ?ミチャンポの王が心配するわけが」

「そ、そうだな……これは食べ物じゃないな。毒だ」

「そしてこんなものをこの街の住人は毎日食べてるんだよ?」

「何で元気なんだよ……」

街の住人たちは活気があって、皆健康的である。


「子供のころから食べて、毒に耐性がついてるからでしょ。

 でも、許容量越えたら死んじゃうけどね」

「もう何がなにやらわからんな……」

わざわざ毒を食べて、そして死んでいく。

味覚が狂っている弊害がこんなところにあるとは。


ようやく気分がマシになったので

屋敷へと戻ると、メイドが建物に入るなりに

焦った顔で

「ミチャンポとの紛争が始まりました!

 街の入口に、すでに戦闘員が待機しています。

 お二人も来て欲しいとの、親方様からのご要請です!」

ピグナはニヤリと笑ってすぐに頷いた。

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