バルナングス共和国編

第20話 新たな旅の始まりと今後の予定

かなり走って、エルディーナの城塞が見えなくなったころに

俺たちは夜景が一望できる低めの岩山の

大岩の陰にテントを張ってようやく一息つく。

ファイナはバムの背中で眠り込んでいたので

二人で寝袋に入れて、テントの中に放り込んだ。


火を炊くと、追手が居ると見つかるとバムが言ってきたので

二人で月夜に照らされて、サンドイッチを齧り

これからどうするのか話し合う。

「当初の予定通りに、バルナングス共和国に向かうべきです」

「国際指名手配とかないのか?」

「いえ、たぶん、まったく政治体制も違うはずなので

 ないかと」


バムになんでそんなに、色々と詳しいのかと尋ねると

「……村で色んなことを勉強させられました……いつか来る食王様のために」

「そうだったのか……」

「バルナングス共和国でも料理選手権があるので

 そこで優勝すれば、今度は海の向こうの

 ボースウェル帝国の、"ワールド料理カップ"に出られます」

「な、なあ……なんでそんなに料理選手権にばかり……」


バムは真面目な顔で

「ワールド料理カップに優勝すると

 いよいよ、伝説の前食王様がいらっしゃるとされる

 "ワールドイートタワー"に登る権利が与えられるのです」

「の、登ったら?」


「その、とても高い高い天を突くような塔の

 最上階にいらっしゃるはずの前食王様とお会いできれば

 ゴルダブル様が交代して、この世界の狂った味覚を……」

「やっと変えられるというわけか……」

気が遠くなるような話である。

あと二回も大会に優勝して、そしてやたら高い塔を登れと言われている。


「な、なあ、バム、自由になったんだし

 ファイナと俺と、どっかに身を落ち着けて暮らすとかは……」

ブラック企業とクソパワハラ上司が居ないっぽいこの世界で

死ぬまで暮らすのも、そう悪くは無いと思う。

「……ダメです。それでは、信じて送り出してくれた

 村の皆に顔向けができません」


俺たちは無言で月夜を見上げる。

バムの言う通りにするしかないらしい。

俺たちはそれぞれに寝袋に入って

テントの中で眠りにつく。


「うー汗臭いですわ!」

ファイナの叫び声で目覚める。

飛び起きると、下着姿のファイナが自分の匂いを嗅いでいた。

「あ、起きられましたか。

 あの、この近くにお風呂などは……」


バムも起きだしてきて、下着姿のファイナに気付くと

「……ゴルダブル様、一回出てください」

「はい……そうですよね」

俺は渋々とテントの外へと出て行く。

外で太陽の日差しを浴びながら待っていると


中から軽装に着替えたファイナと

そしてバムが出てきた。

「どうですか?バムさんが貸してくださりました」

バムは真面目な顔で

「とにかく西に向かって、まずはどこか

 町を見つけましょう」

俺も同意して、テントをバムと協力して

畳み始める。ファイナは手鏡で髪型を整えるのに余念がない。


その後、みんなで朝食を食べる。

ちなみにファイナには専用の不味い作り置きを

なんとバムが専用に用意してくれていた。

毎度のことながら、その手抜かりの無さには助かる。


大荷物をバムと分けて背負いつつ

周囲を警戒しつつ、西へと山道を進んで行く。

ファイナは、怪力のバムに肩車して貰い、楽しそうである。

「私、エルディーナの外に出るの初めてですの。

 良いものですね、旅とは」


いや君のせいで、俺たち逃亡犯になる羽目に

なったんですけど……とは言えない。

国王から土下座で頼まれた手前もある。

しかも荷物の中は、腐るほど金や金目のものが入っていた。

旅行の資金には困らなさそうである。

手切れ金なのかという疑念も過ぎるが、考えないことにする。


そうこうしているうちに小さな村が見えてきた。

そこに寄って、村人にバルナングス共和国への道を尋ねる。

このまま西へ進めば間違いないらしい。

俺たちは礼を言って、さらに西へと進んで行く。

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