第16話 魔法大会初日

いきなり相手チームの、先頭に立つ黒髪の女性が

ローブを脱ぎ捨てた。真黒の際どい黒ビキニと黒パンツ姿に

俺は一瞬で目を奪われる。同時に

「ボ・ギアナグル・メサ!」

とその女性の後ろに立つ、長い白髭で緑のローブ姿の老人が

こちらに向けて叫ぶと


火炎放射器で噴射したような

凄まじい炎が、俺目がけて襲い掛かってきた。

あ……死んだわ……無理無理。

一瞬で諦めて、目を瞑ったが、異常に気付く。

熱さも、痛みも何も感じない。


恐る恐る目を開けると、目の前のビキニ姿の

女性をバムが素手で殴り倒して

さらにその後ろの老人に殴りかかりに行く所だった。

もう一人の巨漢の男は、目を瞑って

一心不乱に何か、念仏のようなものを唱えている。


背中からも似たような念仏が聞こえてきて

振り返るとファイナが、巨漢と同じように

目を閉じて、一心不乱に何かを呟いている。

もしかして、呪文を詠唱してるのか?

とつい見つめていると


「勝者!チーム、ゴルダブル!」


と言う審判の声が不意に響いて、相手チームを驚いて

再び見ると、バムが舞台に倒れた巨漢の

近くで気持ちよさそうに背伸びしている所だった。

「あーいい運動になりました」

「全部……一人で?」

まさか殴り倒したのか。

いや確かに大熊も瞬殺してたが……こんなに強い子とは……。


「はい。魔法に頼り過ぎですね。身体も鍛えないと」

ウインクしてきたバムに、ファイナが不満そうに指をさし

「ちょっと!バムさん!私の見せ場が!詠唱してたのに!」

バムはこちらへと素早く駆けよってきて

「大魔道のファイナさんは、この程度の相手では物足りませんよね?」

「そ、そうですが……」


「あのーすいません。次の試合を開始するので

 退いてください」

審判員から促されて、俺たちは慌てて

控室へと戻っていく。


「しかし本当だったな。魔法が一切効かないとは……」

寒いので上着を羽織りながら言うと

バムとファイナは頷き合って

「食王様ですから!」「食王さまだからですわ!」

声を揃えて嬉しそうに言ってくる。

何かよくわからんがかわいい女子二人から

いきなり褒められるのは嬉しい。俺はニンマリする。


その後、二時間後に開始された二回戦でも

昼食休憩を挟んで、その三時間後の三回戦でも

前方で盾になった俺に魔法を撃たれた直後に

バムが強烈な物理攻撃で、相手三人を倒して

楽勝で突破してしまい、俺たちは国外脱出のための

条件をあっさりクリアした。


控室に戻って、服を着ながら

「よし、終わったな」

ホッとしながら言うと、ファイナが

「まだ……私の見せ場が……」

肩を落として、俯きながら言う。


バムと二人でどうしたもんかと

ファイナを見つめていると

「私って居る意味あるのでしょうか……」

バムと俺だけの活躍でここまで勝ってしまったので

ファイナは自信を喪失してしまったらしい。


バムが仕方なさそうな顔をしながら

「ゴルダブル様、明日も出場しますか?」

今日の試合は終わりで、四回戦は明日である。

「……しょうがないな……」

条件を突破した気楽さから、つい言ってしまうと

「ありがとうございます!!」

ファイナは俺に思いっきり抱きついてきた。


うん。何かパンツ一丁で魔法に焼かれたりとか

怖かったりしたけど、これで完全に報われたよね。

ニッコリしながら、柔らかい身体を抱きしめ返していると

バムが顔を真っ赤にしながら

「ファイナさん!!ゴルダブル様は神聖なる修行の

 最中なのです!!」

ファイナと俺を引き剥がした。


三人でコロシアムを出て

夕暮れの中、宮殿へと帰っていく。

今日もファイナの部屋へとタダで泊まるつもりである。

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