第13話 いきなり謁見

宿に戻り、ファイナに

バムがセメカなので、出国許可を取るために

料理大会に参加していたと告げると

「従者バムは、セメカだったのですか……」

ファイナは愕然とした顔をする。


そして少し考えて

「ふむ、それで料理大会での

 特例で、国外へと行こうとしていたのですね」

バムと俺が黙って頷くと

「分かりました。わたくしが

 お父様とお母さまにお話をつけてあげます」

自信満々に言ってきた。


多少、不安はあるがこうなったら

もうファイナに頼るしかない。

「一応訊きますが、ファイナさんは

 王家で言えば、どのような……」

バムがおずおずと尋ねると


「私は、エルディーン王家の七女ですわ。

 ですので、バムさんが

 ご存じないのも無理はないかと」

「す、すいません。勉強不足でして……」

ファイナは謝ろうとするバムを手で止めて


「私はどうしても、食王従者という栄誉を

 自力で勝ち取らねばなりません。

 そのためには、何だって致します」

同行自体はかなり不安だが

今はファイナのやる気に任せようと俺は思う。


三人で宿で支払いを済ませて

もう戻らない決意で、エルディーナの街の

王宮へと向かう。緊張するが

もはやそんなことは言っていられない。

バムが居ないと俺は、この世界では赤子のようなものである。


あっさりと屈強な重鎧を着こんだ門番に門を開けさせて

ファイナは王宮の中へと、俺たちを招き入れる。

門から中庭、そして豪華な宮殿内を

ひたすらまっすぐに進んで行くと

真っ赤な絨毯が敷かれた大広間へ辿り着く。


「この先の部屋に謁見の間がありますわ。

 たぶん、夕方の今の時間なら、お父様……いえ、国王様が

 家臣たちと会議をしているはずです」

「そっ、そんな時に乗り込んで行って

 大丈夫なんですか?」

ファイナは自信満々に頷いた。


やばい臭いしかしないがもう信じるしかない。

三人で奥の飾り扉を押し開けると、

部屋のど真ん中に敷かれた絨毯を隔てて

奥まで延々と左右に立って並んでいる

恐ろし気な大人たちが、こちらを一斉に見てくる。


エルフらしき美中年から、太って禿げた人間の老人まで

様々な見た目だが、みんな一様にただ者でない雰囲気だ。

間違いなく、この国の高官たちの会議に

入り込んでしまったようだ。バムと固まっていると

ツカツカと前へと進み出たファイナが


「ファイナです!国王様にご用件があって

 参りました!」

天井に顔を向けて、大きく言い放った。

左右に居並ぶ重臣たちは一斉に

またか……と呆れた顔をする。


何か空気が変だな。と思っていると

部屋の最奥の玉座から

「がっはっはっは!」

という豪快な笑い声がして

「良い!来なさい!」

低く威厳のある声が俺たちを呼んだ。


胸を張って絨毯を進むファイナの後ろを二人で

猫背気味に、目立たないように進んで行く。

左右には恐ろし気な高官たちが居並んで

俺たちをその鋭い眼光で見ている。

最奥の高い位置にある玉座の五メートルほど手前に行くと


ファイナが膝を立てて、頭を下げしゃがんだので

とっさに俺とバムはその後ろで真似をする。同時に

「どうした!?エルディーンの問題児は

 今度はどんな難題を、ワシに吹っかける気かね?」

玉座の上から、威厳があるが温かい声が響く。


「国王様!ファイナはこの方達と

 食王への道を進みたいと思います!

 外の世界へと旅立つ許可をください」

「がっはっは!」

という大きな笑い声が頭の上から響いて

「見た所。その女子は、セメカじゃな。

 つまり、セメカに国外脱出を認めよと」


実に楽しそうなその声の主にファイナは臆せずに

「そうです!許していただけますか!?」

「ふーむ。ダメじゃ。と言いたいところじゃが

 かわいいファイナの頼みでもあるしなぁ」

声の主は迷っているようだ。頭を上げられないので

表情はまったくわからない。


俺の左から男が玉座へと歩み寄り

何かを耳打ちする。

「ふむふむ。料理大会のなんと決勝で不正をしたのか。

 それはまたファイナ、大きなことをしたのう」

「あれはファイナのせいではありません!

 ファイナたちを陥れた、ルールが悪いのです!」


はっきりと言い返すファイナに、玉座の主は

また大きな声を立ててしばらく笑い

「分かった。ならば、明日から始まる魔法大会で

 優勝……と言いたいところじゃが

 三回戦まで勝ち抜けば、特例で国外へでるのを

 許してやろう。以上じゃ。去れ」


え……あれ……魔法大会って……あれー?

いや、それは……出場は……。

俺が心の中で全力で戸惑っていると

ファイナが立ちあがって深く礼をした。

俺とバムも慌てて立ち上がって、頭を下げる。


髭もじゃで巨体の優しそうな国王が

こちらを見て微笑んでいるのが一瞬だけ見えた。

衛兵たちに連れ出されるように

会議場、そして大広間から出されると

扉を閉じられ、締め出された。


バムが絶望的な顔で

「魔法大会で……三回戦ですか……」

ファイナは余裕綽々で

「私に任せてください!」

そう言い放つ。完全に今後に不安しかない。

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