第3話 美味い料理

「うまっ……ハフッ、ハフッ」

二人で熊を引きずって

村に辿り着いて、女の子の半裸みたいな恰好をした親族たちに

盛大に迎えられた俺は

"大熊殺し"という謎の異名を頂いた。


そして、今、その親族から囲まれて

縄文時代の竪穴式住居みたいな家の中で

めちゃくちゃ美味い食い物をふるまわれている。


しかし、意外とあの重そうな熊が

即席で造った縄一本で、華奢な女の子と俺で

村まで引きずって行けたのも驚きだが

それよりも、問題はこの目の前に並べられた

料理の数々である。


これがめちゃくちゃ美味い。コンビニの高級スイーツとか

スーパーの特上牛とかそんなの眼じゃないくらい美味い。

旨過ぎてさっきから、会話するのも忘れて

食べ続けている。


隣に座った、熊を殺していた皮のビキニ姿の女の子が

食べ続ける俺に、頬を染めながら

「ね。ねぇ……名前、名前教えてよ」

くっついてきて、せがむ。


一瞬考えて、直巳という嫌いな名前を教えるのも

癪だな。よし、偽名だ。偽名を使おう。

と思い立ち、まずは女の子に名前を尋ねる。

「わ、私?私はバム。バム・アー・ステッド」


耳まで赤面しているバムの顔を見て

顔立ちが日本人と違うと思ったら

やっぱり、そういうカナ文字系な名前なのか。よし。

と適当に、知っているゲームキャラで一番強そうな名前を

言ってみる。


「ゴルダブル・ベル・グルギザーナ。っていうんだ」


ちなみに俺が三年ダラダラとやっているマイナーソシャゲの

Cランクキャラの名前である。

クソみたいな性能で、かつ低ランクなので

ガチャを引くと山ほど出るムカつく外れキャラだが

名前だけは魔王級なので、そのソシャゲの話題がネットで出るとき

定番でネタにされるキャラである。


ああ、どうでもいいな今はそんなこと。

驚いているバムを無視して、旨い料理を食っていると、

鶏冠のような冠を被った、よく日に焼けた精悍な老人が

建物内に入ってくる。


食べ続ける俺を見た老人は頷いて

俺の並べられた料理の手前に座ると

「旨いですか?」

分かり切ったことを訊いてきた。


頷くと老人は何かを悟ったような顔をして

「我が村にこんな伝承があります。

 天界の支配者が、天啓として告げてくれたものです」

うわ、老人のどうでもいい長話来たよ。

聞きながそ。と食べることに集中していると


「長く虐げられた、我ら救うものあり、その者

 食王となりて、正しき、味覚を世に伝えん」

それだけを老人は言うと、黙り込んで

俺を見つめだした。


意味不明なので当然無視して食べる。

バムは真っ赤な顔をして

「長老……私、この人なら……全てを」

「うむ。明日、この方と旅立ちなさい」

二人は何かを話し合っていた。

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