28話5Part 異世界生物達の冬休み⑤

 瑠凪が別の部屋に移動して電話している間、望桜はその声をBGMにTnitterつにったーでも見ようかなとスマホを取りだした。


 年明けすぐなので、新年1発目の推しの動画が......だとか、新しい1年の始まり!だとかそういったツニートを何となく眺めていると、手元がすっと暗くなる。



「望桜さん」



 そして、頭上で名前を呼ばれたので、ぱっと顔を上げると、



「ん?梓ちゃん、どした?」



 珍しく(望桜はそんなによく会うわけじゃないからそう言えるのかは分からないが)神妙な面持ちで望桜の方を見据えて、佇んでいた。


 玄関の方で或斗が誰かと話しているのが見えるので、恐らく鐘音と帝亜羅はまだ帰ってはいないのだろう。


 そういえば......鐘音が今日は帝亜羅の家に梓と泊まる、と言っていたのを望桜は思い出し、待っているのはそういう理由かと自分の中で静かに納得した。



「この間は、ありがとう」



 初対面でも割と距離が近いのが彼女なので勿論敬語ではないが、望桜には梓が真剣に礼を言っているのが十二分に伝わってきている。



「あたし、悪魔だとか天使だとか勇者だとかまだよく分かってないとこあるけど......それでも、皆があたしや街の人達、それと仲間のことを本心から助けようとしてくれる優しい人達だってことはよく分かった。......本当に、ありがと」



 つらつらと、けれどもしっかりと紡がれる感謝の言詞げんしに、望桜は反射的に、



「ど、どういたしまして」



 と、口に出していた。若干の戸惑いから来るどもりは、一瞬で消える。



「別に固くならなくてもいいよ。困ってる人がいたら助ける、なんて、当たり前のことだろ。ってゆーか梓ちゃんの方こそ、俺達みたいな訳分からん異世界の生命体相手に、よく普通に話しかけられるな」



 望桜が笑いながら、そして感心しながら話しかけると、



「え、それこそ当たり前でしょ?」


「え?」



 そう直ぐに梓は返事をしてきたので、望桜は思わず目を丸くしてしまった。



「人に何かしてもらったら、ありがとうって言うこと。あたし、日本も外国も異世界も、これだけはきっと変わらないと思う」


「おぉ......ん、はは、そうだな!確かにそうだ」



 梓の持論に、望桜は破顔したまま肯首する。梓も、それにつられていつの間にか笑っていた。



「望桜〜、タクシー5分後くらいに来るって」


「分かった!ありがとな」



 そこにタクシー呼び出しの電話を済ませた瑠凪がやって来たので、望桜はその頭に手をぽんっと乗せて感謝を述べる。


 ふわふわとした感触が心地よくて、暫し撫でた後、



「っしし、」


「むー......」



 にやつきをわざとらしい笑い声で誤魔化すと、瑠凪は不満げだが満更でもなさそうな含羞はにかみ顔で密かな講義の声を上げた。



「それじゃ、あたし下でお母さん待たせてるし、てぃあとべるねっちもいるから、そろそろ帰るね!」


「うん、ばいばい」


「また今度な!」



 梓が踵を返して颯爽と去っていくのを瑠凪と2人で見届け、望桜は未だに夢の中にいる的李の方に向き直る。



「お酒って飲みすぎるとこうなるんだ!いつも物音1つでも立てればすぐ起きるのに」



 すると、何をやっても起きない的李の頬をぷにっと指で何回も押してみて、そう感心したように言う葵雲が妙に悪戯っぽい笑みを浮かべていた。



「改めて、酒の力も凄いな」


「それも、覚えておくと強いね」



 1時間ほど前に話した事ともう一度照らし合わせながら望桜がそう言うと、瑠凪は笑って頷いた。


 その後、望桜は5分後に来たタクシーに的李と葵雲と共に乗り込んで、家に着く頃には葵雲が眠気のせいで不機嫌になっていてとてつもなく面倒くさい事になったのはまた別の話だ。



「んがっ、はっ!!朝だ......頭いた......ってかここ、まだ瑠凪の家じゃない......」



 そして、翌朝になってようやく起きた聖火崎が、自分を放置して寝ている桃塚家の3人組が起きる前に水を1杯飲んで急いでゲートで家に帰ったのも、また前述の通りである。




 ──────────────To Be Continued────────────



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