23話3Part Wolkenkratzer Fantasie③
「き、昨日はごめんね!」
翌朝、ホームルーム前の登校ラッシュの2年B組にて、
......先日の夜、バスを待っているところで何気なく始まった比較的"重い"話から、色々あって鐘音が倒れた。
その事故が起こった際の色々の鍵を握るのは、鐘音と共にいた帝亜羅だと必然的に思われることは当たり前の事である。なにせ、周囲に他に人は居なかったし、何かに襲われたとしても帝亜羅がそれを誰にも言わないはずがない。
そしてそのごく"あたりまえ"な仮定により、母親から"何があったかは知らないけど、謝っておきなさい"と意味ありげな謝罪命令が下った。まあそれがなくとも、初めから帝亜羅は謝るつもりだったけれど。
「え、あ、別にいいけど......帝亜羅のせいかどうかも、分かんないし」
倒れてから、というより倒れる少し前から記憶が曖昧な鐘音は、とりあえず"帝亜羅が悪いわけではないはず"と、きまりが悪そうに目を逸らしながら言葉を返した。
「そ、か......あ、そろそろだね」
そんな鐘音の様子にどこか申し訳なさげにしていた帝亜羅は、ふいと見た時計がホームルーム開始2分を指していることに気づいた。
「そういえば梓は?」
「ち、遅刻かな?珍しいね」
「そうだね」
チャイムがなる直前に帝亜羅は席に着いた。チャイムが鳴り終わってから数秒後に、廊下からぱたぱたと誰かが走ってくる音がした。
ガラガラガラッ
「皆すまない、少し遅れてしまった」
大きな音を立てて開かれたドアの向こうから、流れるような黒髪を揺らしながら少し大柄な女性が入ってきた。
......私立聖ヶ丘學園2年B組担任、
そのしっかり者な二伊妻が慌てている姿は、生徒達にとっては新鮮であり少しの不安を煽るものであった。
「それで、皆に伝えたいことがある」
いつになく真剣なその表情に、生徒の数人がごくりと息を飲んだ。
「......
「っ!!」「っ!?」
そして、二伊妻からの悪報に鐘音と帝亜羅は驚き、お互いに目を見合わせた。
「先日ピアノのレッスンに行ったきり、自宅に戻っていないらしい。何か知っていることがあれば......」
『......帝亜羅、梓が行方不明って......』
『うん、どうしたんだろう......?』
二伊妻の話も聞きつつ、テレパシーで声を発さずに意識だけで会話する。
────『また明日の土曜補習でね〜!!』
そう言って闇の中に消えていった背が、2人が最後に目撃した梓の最後の姿だ。特に変わった事も様子もなく、いつも通り、また明日会うのだろうと思っていた。
ところが......
「......とめ、早乙女!!話、ちゃんと聞いてるか?」
「え、あ、はい!」
テレパシーで一言だけ帝亜羅と言葉を交わした後、いつのまにか鐘音は周りが見えなくなるほどに考え込んでしまっていた。二伊妻からの呼び掛けが荒々しいものに変わったと同時にはっとして、慌てて返事をした。
その後、一瞬ちらっと帝亜羅の方を見てみると、まだ悲しみより戸惑いが勝っているようで、目が泳いでいた。
「で、これから雅の両親が雇った探偵が、学校内で聞き込み等色々な調査を行うらしい。......入ってきてくれ」
そう言って、二伊妻が呼び込んだのは、
ガラガラ......
「失礼致します」
「......え?」
明るい茶髪をおさげにした上から、ツインテールにした髪型。髪と同じ色の瞳はどこか白い。純白のワイシャツの上から黒のチェック柄のマントを羽織っている姿は、まさに探偵だ。
「え、奈津生知り合いかよ?」
入ってきた探偵の姿を見た瞬間、帝亜羅は思わず声を上げてしまった。その声が聞こえたのか斜め後ろの席の男児生徒·
「う、うん。し、注連野くんも見たことあるんじゃないかな。ほら、き、
「あー!!あの猫カフェの店員か!!へー!!」
小声で軽く答えてやると、注連野も音を控えめにしつつ大きく手を打ってニコッと笑った。
「隣りの芦屋市で私立探偵をやっております。
冬萌は自己紹介をしつつぺこりと頭を下げた。帝亜羅にとっては行きつけとなっているMelty♛HoneyCatsの店員という点で顔は覚えているが、生徒達の大多数は店員の顔を覚えるほど行ってはいない。
そのため、冬萌が入ってきた時点で「あー!」なり「しってる!」なり声を上げたのは数人である。
「このクラスの生徒、
さらさら、と流れるように説明されているはずなのに、冬萌の声は大きくはきはきとしていて、とても聞き取りやすかった。そんな説明の最後に、冬萌はぺこりと頭を下げた。
「ということで、この世羅さんが校舎内にいることがある。もしかしたら話しかけられることもあるから、その際は逃げたり邪険にしたりすることがないように」
「「はい!」」
そして二伊妻の呼び掛けに生徒達が元気よく返事して、その他色々を済ませた後朝のホームルームは終了したのだった。
「......なーつきっ!!」
「わあっ!!」
「あ、ごめんごめんww」
その直後に割と大声で後ろから注連野に話しかけられ、帝亜羅はびくっ!!と飛び上がって驚いた。
「俺さ、あの店の店員っつったら超美人な店員と、威勢がいい兄ちゃんしか印象ないんだよねww」
「そ、そうなんだ」
恐らく、いや、確実に
「あの美人な人、彼氏いんのかな〜。いや、まあ付き合いたいとかじゃねえけどww」
「あ、あはは......」
あの人は男の人だよ、という言葉を帝亜羅は寸でのところで飲み込んだ。そういえば、帝亜羅や梓はパッと見から"男の人だ"と思ったが、注連野は"女の人だ"と思ったらしい。そういう所でも性別の差が出るのだろうか。別にどうでもいいが。
「帝亜羅!」
帝亜羅が注連野と話しているところに、少々苛ついてみえる鐘音がやってきた。
「お、早乙女〜!!......あ、そういや梓......大丈夫、だといいな」
そこで、ふと注連野が"梓が行方不明"という事を妙に意識し始め、ぼそりと呟いた。"仲良しグループ"の
「......!うん。コンクールが近いって言ってて、それでいっぱい練習してた矢先に......っく、ひぐっ、ぐすっ......」
そして、そんな注連野の呟きで今まで押さえ込んでいた"何か"が帝亜羅の中で決壊した。ぽたり、ぽたりと涙を零しつつ梓の姿を思い返しては、また涙を流す。その姿に、
「っ、てぃ、帝亜羅?大丈夫だよ、大丈夫、な、はず......」
鐘音の中でなにか温かいものが生まれ、そのよく分からない"気持ち"から帝亜羅を励ましてやろうとするも、自身も猛烈な不安に襲われて尻すぼみになってしまう。
「奈津生、補習受けられるか?」
「は、い......なんとか......っく、ぐすっ、うえ、ええ......」
「......無理はしなくてもいいぞ、なにも受けなきゃならんわけではないしな。奈津生は成績も普通に良いし、補習といっても主に自学だ」
二伊妻に訊ねられ咄嗟に涙を拭って返事をするも、涙は止まる事を知らなかった。とめどなく溢れる涙に、二伊妻は"これは休ませた方がいいのでは"と判断したらしい。
「で、も......」
「なにも冬休み期間中の補習まで授業を進めたりはしない。なんなら、奈津生の都合がいい日に解説なりなんなりしてやってもいい」
「......わかり、ました......っぐすっ」
「1人で帰れるか?」
「はい、そのくらい、なら......」
「......すまないな、本当ならついて行きたいところなんだが......」
「大丈夫、です」
そんな二伊妻に気圧されて、帝亜羅は荷物を軽くまとめ帰宅の用意をし始めた。そして、
「......大丈夫かな」
という、鐘音の小さなぼやきを耳で何とか拾って、帝亜羅は高校棟の階段を下りて昨日のバス停からタクシーで帰っていった。
─────────────To Be Continued───────────────
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