17話2Part 働く勇者と暗殺事案②
「え、あの......」
「ええっとお......」
「......何よ」
......場所は移り、兵庫県神戸市本町。
各々が神妙な面を浮べる中で、望桜と葵雲が自分たちの真正面に正座して座っている聖弓勇者に向かっておずおずと声をかけた。そして聖火崎はその声を軽くあしらった。
「いや、なんでいるのかなって......」
「だから何よ」
「何よって......お前この間帰ったばっかじゃねえか!!なんでまたいるんだよ!?」
「この間帰ったばっかって言ったって、もう2週間よ!?ていうか第1に、なにもまたこの間みたいに長期間居座るために来たわけじゃないのよ!!2日、フレアリカを預けに来ただけ!!」
さらに畳み掛けるように口から出された葵雲の質問に、もはや答えるのも億劫だというふうに冷たく返す聖火崎。かれこれ5分ほどこの状態が続き、痺れを切らした望桜が強く言い返すと、それに対抗するかのように聖火崎も大声を出す。
......聖火崎の元にシメオンから届いた勇者軍元帥·アヴィスフィアの訃報。それの真相を確かめるのと、単純に用事に関する経過報告も兼ねて、聖火崎は1度ラグナロクに帰還することに決めたのだ。
しかしそれにフレアリカを連れていく訳にはいかない。日本ではただのキャリアウーマンでも、下界に戻れば立派な"聖弓勇者"という立場のある聖火崎だ。......もし仮にフレアリカを共に連れていったら、"聖弓勇者には隠し子がいた"などという妙な噂を立てられてしまうかもしれない。
......歴代勇者の中で唯一の"貧民街出身勇者"である聖火崎は、政治的にも経済的にも変な噂1つ立てられたらすぐに潰されてしまうだろう。それほど権力も財力もないのだ、今の下界の勇者には。それに、臆病だと馬鹿にされるくらいには慎重に行動すべきだと聖火崎も自身の中で戒めている。......まあ聖火崎は、こんなこと目の前の奴らに言うつもりは無い、という心持ちなのだが。
とにかく、だからこそ今日、東京からわざわざ神戸まで足を運んだのだ。
「はあああ!?うちにそんな余剰資金はねえっ!!」
「なんでよ!?月40万+αは金が入ってきてんでしょう!?それなのになんで?」
「ねえもんはねえんだっ!!!」
「望桜、しっかり説明してやらないとこの野蛮な聖弓勇者には伝わらないよ」
「後で覚えておきなさい鐘音」
しかしそんな聖火崎の願いは望桜達の"経済難"という問題の前に一蹴されてしまった。鐘音は口不足な君主に聖火崎の神経を逆撫でしながら、説明をしてやれと遠回しに伝えた。
「はあ......2週間前に俺の事呼び出した奴のこと、覚えてるか?」
「ファフニールね、覚えてるわ」
......2週間前、望桜のスマホに謎のメールを送り付け、聖ヶ丘學園屋上に呼び出した飛龍の子供がいた。それが魔王軍幹部·ウァプラことファフニールだった。
あの日、ファフニールが望桜を呼び出したのには2つの理由があり、1つは自身にかけられたリストレイント·コントローラーの解除。そしてもう1つは望桜の憶測なのだが、メールの内容に書いてあった"今まで汝やそのかたへを襲ひし明日裳提宇子や依舞、聖香愛琉や雅舞罹依瑠がなんの脈絡もなしに襲ひ来たりと思へり?それぞれの襲ひしゆゑや個人情報などを辿りゆかば、1つの真相に辿り着くるぞ!"という本文の中にあると考えた。
適当に訳すとそこには"アスモデウスやイヴ(手紙にはなかったため仮足しで 一会、ラファエル、アリエル)、ミカエル、ガブリエル等が望桜達や聖火崎達を襲うことになった所以を辿ると、すべて1つの真相に繋がっている"、ということが書いてあった。
下界
勇者軍で最も強い元帥と噂され、勇者と同じ軍の総大将でありその強さと軍指揮能力の高さから"総帥"と呼ばれる勇者軍元帥·イヴ。
7大天使であり現天界で最も尊い天使とされ、全ての天使で編成される天軍の将軍"
7大天使であり天軍の武力派兵を纏められるほどの武力を持ち、ミカエルの直属の配下、神の力"の役目を負う大天使聖·ガブリエル。
大まかに言ってこの4人が日本で望桜達、もしくは聖火崎達を襲ってきたメンバーだ。なんでファフニールが知っているのか、そもそも生きてたのかとかはここでは無視し、まずはこの4人の襲ってきた所以について考えるとしよう。
「待って、短めでお願い。急いでるの」
「これでも端々のどうでもいい所を端折ってる方なんだが......」
望桜の憶測持論を聞きながら、ふと聖火崎が時計を見やって声をかけた。1時中断されたが、とりあえずと望桜は持論の説明を続けた。
......アスモデウスは、人間界で更に権力を強いものにするために聖火崎達勇者の暗殺を目論むイヴや一会、ヘルメスらの駒として日本に送り込まれた暗殺者だ。......まあ計画は失敗し、今や1日中寝るかパソコン弄るかお菓子食べるか位しか動かない少し
イヴもアスモデウスと同じ目的だったが、本気は出してないように思えた。そもそも望桜達とは傀儡を通して戦ったので、直接刃を交えることもなかったので実力がどれほどのものか分からないから厄介と言える。
ミカエル、ガブリエルは共に聖火崎と帝亜羅、フレアリカを襲った。ガブリエル曰く"聖剣などの元である枝を回収する"目的だったが、どういうわけかミカエルが途中でガブリエルを連れて引き返したため、今は5唯聖武器は1つも奪われていない。今後も襲ってくる可能性が高く、さらに他の天使も引連れてくる可能性もあり極めて危険だ。
......ここまでで大量の疑問が考察を繰り広げる望桜と聖火崎の頭に生まれた。......結局これだけしか分からないのだ、だから現状は考察を繰り広げるというよりかは確定している少しの事実を確認しているといった方が正しいだろう。
しかしそれと一通のメールだけからすべての事実の大元を推測するのには、決してそういった分野のプロではないし、しかも近くでその事情を見てきていない2人だけでは限界がある。
なのでまずは、その憶測が合っているかを確かめるのにファフニールに話を聞こうと思っていたのだ。そう言って望桜は自身の部屋に聖火崎と鐘音、葵雲を通した。
「でもな、その当人がこの有様じゃあな......」
「な、何よこれ......」
その部屋の奥に鎮座する檜でできた温かみのあるシングルサイズのチェストベッドの上の毛布から、微かに覗く上質な生地でできた黒のコート。近づいてみると、そこには生気が殆ど感じられないほどに衰弱しきったファフニールが横たわっている。
軍服に包まれた薄い胸板を荒く上下させながら、身体の奥深くまで染み付いてしまったリストレイント·コントローラーに最後まで抗っている。......望桜によってなされた
最早対処することも出来ず、望桜の魔力と、イヴと戦った時から葵雲の体に僅かに残されていた魔力で鐘音が遅延魔法をかけることでなんとか命を繋いでいる状態だ。ファフニールの状態はここまで悪化していたのに、何故あそこまで元気なふうを装えていたのか望桜達には不思議でならなかった。
それを見て思わず眉をひそめた聖火崎の横で、望桜は大きく溜息をつきながら深刻そうに一言呟いた。
「俺にも分からん」
「......リストレイント·コントローラーによって与えられてた命令を、耐性やらなんやらで強引に無視し続けた末路だと思うけど」
「ひええ......よ、良かった〜、早いうちに望桜に解いてもらってて......」
「それの分と日々の扶養してやってる分、後できっちり返してもらうからな」
「ええ!?」
望桜の呟きに対して鐘音が思ったことを言い、前まで同じ魔法をかけられていた葵雲は早くに望桜に自身の魔法を解いてもらったことに心から安堵し、望桜の嫌味たらしい言葉に場に合わない声を上げた。
「......とにかく、こいつがここを占領してるせいで的李がバイト先に住み込みで働きに行っちまってて、店長に"同居人がずっと寝込んでる"って相談したら有給扱いにすっから休めって。本当に大丈夫なのかあの店......ってなったけど、比較的店舗内の人数は多いし、結構人気店だから客もいっぱい来るけど最悪2階に送っときゃ何とかなるしってさ」
「確かにね......ていうか、なんでファフニールが望桜のベッドを占領したぐらいで的李が出てくのよ」
「望桜と同じソファで寝たくないんだって!」
「っぐ、そ、そう言われたんだよ......」
「本当に望桜の側近なのかしら、あいつ......」
葵雲がさらりと突きつけたはっきりとした"的李の望桜拒絶"の事実にかなりのダメージを受けながらも、聖火崎に何とか返事する望桜。
......望桜のベッドにファフニールが居ると望桜はほぼ必然的にリビングにあるソファベッドに仮寝床を移す。そうなると普段そこで寝ている的李と鐘音に望桜が加わり狭くなる。それに"望桜と同じソファで寝る"という現象が起こるため、的李が出ていったという説明に若干頭の痛くなる聖火崎。
もしそれを意地でも止めていた場合の望桜の横で嫌々眠る的李の図が想像できて、望桜にとってはなんとも遺憾である。......なぜなら的李を側近にしたのは実力はもちろんだが、見た目が好みだったのも理由の1つだからだ。黒髪美青年は最高......それが望桜から見た的李の第一印象と今の印象である。
「......どうしようかしら......」
「まあどうしてもって言うんなら、師匠に掛け合ってみようか?」
「それはもう試した......」
「あらま......」
ピンポーン
「え、誰だろう?こんな時間に......」
ファフニールの居るベッドの方を見ながら、各々何かしらやっている。望桜と聖火崎はフレアリカをどうするかとファフニールの今後をどうするかについて話し合い、鐘音は一応瑠凪にフレアリカを預かれるかどうかの確認を取っている。
葵雲は自身のノートパソコンのネットニュースの中にある、"謎の白い光の目撃情報が後を絶たず──東京都目黒、東京都渋谷、兵庫県神戸、福岡県天神"の記事と"日本中で大人気の歌い手·葛飾まつり電撃引退──Yafooニュース"の2つの記事に目を留めている。
そんな中、午前0時という時刻にも関わらず望桜宅のインターホンが鳴った。
「あら、もう12時?ちょっと、フレアリカはどうすればいいのよ?」
「とりあえず葵雲、行ってこい」
「え、なんでえ!?」
そしてそのインターホンを鳴らした客への応対に、望桜は葵雲に適当に指示を出した。それを聞いた途端、思いっ切り不満を
「いーから」
「貴方どーせどうでもいい記事見てんでしょ?」
「どんだけ適当な奴だと思われてるの僕!?分かった!!行ってくるから!!行けばいいんでしょ!?もー!!............はーい!どちらさまで......すか......」
「汝ら......この時刻にあの騒ぎようは近所迷惑じゃろうが......」
「え、え、え......?」
「葵雲、どした?」
「いきなり元気無くなると逆に不安になるんだけど」
そしていきなり勢いがなくなった葵雲の声に、望桜と聖火崎も玄関に向かった。そして開いたドアの向こうに立つ2人の姿を見て、望桜と聖火崎は葵雲と同じようにその場に立ち尽くした。
「......久しぶりじゃの、アスモデウス」
「ま、マモン!?」
「うちの馬鹿兵士長が御迷惑をお掛けしました」
「ダンタリオンじゃないの!!貴方も何でここに居るのよ!!」
「ダン、お前も無事だったんだな!!南方軍は群島軍と同じように、もう壊滅状態だって聞いてたから」
「自分にはヴァルハラ使用人長という役目もあります故、意地でも生き残らせて頂きました」
......ドアの向こう側には2人の人物が立っていた。
ど真ん中に立っている年齢的には小学4年生?ほどの少年(のように見える)人物は......下界"7罪"の一角であり、下界一の大富豪の大悪魔·マモン。外ハネの紫色の髪をひょこひょこ揺らしているところは可愛らしいのだが、見た目に反してその身に宿る貫禄だけはかなりのもので、それに比例して面と向かっているだけでもかなりの重圧がくる。
そしてその少年の傍らに控えているのが南方攻略軍の準頭領の大悪魔·ダンタリオンだ。悪魔らしからぬ純白の髪と紅蓮の瞳が中古マンションの廊下に設置された地味に温かみのある色の蛍光灯の光に照らされて、
その2人の言葉の中で、聖火崎の耳にはひとつの言葉が引っかかった。
「へえー......ん?ちょっと待って、ヴァルハラって......」
「ああ、ウィズオート皇国の東方にあるヴァルハラ·グラン·ギニョルの事じゃ。吾輩はそこの主じゃからの。よろしく頼む」
「では私も......改めて、ヴァルハラ·グラン·ギニョルの使用人長を務めさせて頂いている、ダンタリオンと申します。今後ともご
そしてそれを聞くなり大声を上げて膝から崩れ落ちた。
──────────────To Be Continued─────────────
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