7話3Part Aftertalk in Sakai AONmall③
そして翌朝、望桜はバイトや朝食の準備もあるので1番早く起きる。そして用意するためにリビング兼キッチンに入ろうとした時。
まだ半分未覚醒の望桜は、誰も居ないはずの入ろうとした部屋から、軽快なタイプ音が聞こえてきたが、気にせず挨拶をして入っていった。
カタカタカタカタカタカタカタカタカタ......
「おはよーお......」
カタカタカタカタカタカタカタカタカタ......
「え、は、晴瑠陽!?」
「ん......おはよう......」
リビング兼キッチンには、後ろ姿はそのまんま、それこそ昨日の元気いっぱいな彼に変わりはないのだが......瞳は蒼色で。
「お前......蒼色のっ......!!」
「うん......」
「ちなみに今はパソコンで何を......?」
「え......と......ハッキング......?」
「俺に聞くなよ......」
紛れもなく蒼色の、天才的な頭脳を持つとみなが口を揃えて言う彼。
その噂は本当なのだろう。4、5万円で買えるほどの旧型パソコンの画面には、びっっっ......っしりと理解が到底追いつかないほどの文字列が。
その画面と文字の数とを見て、望桜の頭はすぐに考えを放棄を選択した。とりあえず......
......さっさと朝飯作って、バイト行くか。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ピンポーン
「今日も鐘音くんお休みだった......プリント持ってきたんだけど、今日は確か望桜さんも的李さんもバイトだったはず......誰も居ないのかな?」
最近、ズル休みが板に付いてきはじめている鐘音。
もはや先生公認で鐘音にプリントを届ける係に任命されている帝亜羅は、鐘音に学校で会えなかった憂いと、鐘音の自宅を伺える喜ばしさで、かえって無表情を決め込んでいた。
......それなのに、何度インターホンを鳴らせど、中から人が出てくる気配はない。
ピンポーン
「......やっぱり居ない......?」
「はーい......」
「え、い、居た......鐘音くん?」
「どちら様......あれ、どこかで見たことある......?」
「え、え、あ......」
「え、と......鐘音のお友達?......」
「え、あ、はいっ!!」
晴瑠陽にとっては初めて会うのにも等しい帝亜羅。だが、帝亜羅にとってはトラウマレベルの出来事の、主犯格なのだ。
でも、帝亜羅にとってどこか腑に落ちない終わり方をしたあの戦闘、帝亜羅は聞きたいこともあったので、会ってしまったことに対して素直に恐怖できない部分もあった。
そしてどぎまぎしてる間にも、会話はとんとん拍子で進む。
「まあ......あがって......今は僕しかいないから」
「あ、はい......お邪魔します」
ミシッ、ミシッ、ミシッ、
歩く度に軋む床。比較的良い物件、と望桜さんたちは言ってたけど......と頭の中で考える帝亜羅。まあ、築10年は余裕で越しているであろうマンションは、決して悪い訳では無い。でも、良いかと言われたら......って感じだ。
コンクリートには所々ヒビが入ってる部分もあるし、部屋のフローリングには不自然に浮き上がっているところが。これは......良く、はないな。悪くもないけど。
そしてその普通の物件の中で、下界の大悪魔と日本の女子高生との間に、微妙な空気が流れている。無音、ではない。ただ晴瑠陽が操作し続けているパソコンのタイプ音が、沈黙の中に響いていた。
「あの、えっと......?」
「......なに?」
「何されてるんですか......?」
「記録を......見て、る......?」
「記録?」
「うん......」
「なんの、記録ですか......?」
「......こっちの世界の人間に、話すことではない、と思う......」
「それは......下界の、記録ってことですか......?それも大事な方の......み、見せてもらっても......?」
「うん......まあ、僕は君に聞かれても......困ること、ないから、見せてあげる......これなら大丈夫そう......」
「え、大丈夫なんですか?」
「......まあ、誰にも言わないなら......?」
「わ、わかりました......見たいって言ったのは私ですし、言いません。約束します」
「そ......ありがと......はい、これ......」
そう言ってパソコンを帝亜羅の前に差し出す晴瑠陽。画面には1つの文章が映されていた。
『南方人柱黙示録
南方、悪魔の子を人工的に生成した村があった。その子は純粋で、活発で、我儘
であった。
そしてその子の親はその子のことを嫌っていた。天使族が欲しかったその親は、
その子を閉じ込め、我儘を言う度暴行を加え続け、その子の様子を記録した日記
を作り、日頃の鬱憤を発散し記録しては楽しんでいた。
はじめは元気だったその子もいつしか大人しくなり、紫色の瞳には光がなくなっ
た。希望など見ていなかった。
しかし、人間が10000年かけて造り上げた文化を、街を全て破壊し尽くすほど
の世界大戦が起こり、空が赤く染った。その空に当てられたのか、はたまた大
気中 の魔力濃度が濃くなったことに当てられたのか、その子は今までの恨みを
一気に晴らすかのように、村を壊し、街を壊し、いつしか下界全土に名を轟かせ
るほどの大悪魔となった。
その惨劇が起こった際は、村人達はその子を神に捧げる供養物として生き埋めに
しようとしていたという。
村の惨劇の唯一の生存者の証言
「彼は、高らかに笑いながら、自身の角を折り、翼と尻尾を千切り、血を滴らせ
ながら村を壊していった。......報いだと思った、その子のことを知っていながら
可哀想だと思いながらも、その子の親に加わって憂さ晴らしに暴行を加えたか
ら。」
この黙示録は、その惨劇を二度と繰り返さないための記録書としてここに祀 る。 』
「これ......アスモデウスさんの......」
「晴瑠陽でいいよ......そう、僕達の......事件の記録」
「生贄......それって、殺すってことじゃないですか......なんでそんなこと......!!」
困惑と怒りの混じりに混じった色を、目にうかべる帝亜羅。そこに晴瑠陽が、中和程度の説明を足した。
「......仕方がない......悪魔と人間は、元々仲が悪い......悪魔と天使の間の種族、それが人間......元々は仲がよかった......そして天界と魔界、人間界は力が釣り合っていた。けど、天界......唯一神と堕天使の対戦、そして人間界の人間の魔界侵攻、魔界の悪魔の人間界襲撃......それが理由で、仲が悪くなった......勇者も魔王も、それが根底にあるからずっと戦争している......」
「そんな......」
「......全く関係ない世界の人間である、帝亜羅が気に病むことではない......」
「でも、望桜さんも的李さんも鐘音くんも、瑠凪さんも或斗さんも太鳳先輩も、聖火崎さんやルイーズさんだって、私の大事な人達なんです!!そんな大事な人達が仲悪いなんて、嫌です!!それに、お互いがお互いのことをよく知らないままに、過去の出来事に動かされるままに嫌いあっているのは、お互いのことを知って、本当はこんな人達なんだよって、知る機会ですら壊してる......そのままじゃまたこの惨劇みたいなことが起こるんじゃないですか......!!」
しかし、中和どころか火に油を注いだようだ、激化はすぐに治まったが。
そしてこの間の屋上での弁論にも負けず劣らず、内容は綺麗事だが立派なことを言っている、と感心する晴瑠陽。
「......そっか。彼も、君には心を開いた理由が......よくわかる気がする......」
「彼?」
「......君は、風の吹き荒れる高い場所で、彼と2人きりで話したはず......」
「......あ、あの人......でも、だってっ......え、わっ!!!」
グラグラグラグラ、ガタ、ガタガタガタガタ......
......刹那、地面がグラりとし、揺れ始めた。......地震だろうか。
「......地震......?」
「まあ、日本は地震大国ですから......机の下にっ............っ?これ、地震じゃないです!!」
「そうなの......?」
「なんか、違う気が......」
ガタガタガタ......
「あれ?止んだ......「っだめ!」
「え?」
外の様子を伺おうと、帝亜羅が窓を開けようとした時だった。
晴瑠陽が、今まで無表情とは打って変わって少し焦った顔で、帝亜羅をとめた。
「......開けちゃだめ、何か、来る......!!」
「あす......晴瑠陽さん......?」
「......7......6......」
「?」
「......4......3......2......1......」
ドドドッ、ドッ......ガガガガっ!!!............パラパラッ、ガララッ......
「......なに、が......」
「しっ!......」
驚きと不安で思わず声を上げた帝亜羅に、人差し指を口に当てて"静かに"と口話で伝えてきた。カツ、カツ、と靴で廊下を歩く音が複数聞こえてきて、この部屋へだんだんと近づいてくる。
魔力が少ししか残っていない晴瑠陽と、普通の日本の人間である帝亜羅には、3階からの逃亡は無理だ。完全に袋のねずみ状態である。
カツ、カツ、カツ、
「......ここか」
「そうなのじゃあ〜!!13代目魔王の家は、間違いなくこのマンションじゃ!!」
マンション3階の部屋の中で震える帝亜羅と、物音を立てないようこっそり移動して、応急処置程度に鍵とチェーンをかける晴瑠陽。幸いにも、表の駐車場では現在工事が行われており、晴瑠陽の立てた微かな音は聞こえなかったようだ。
晴瑠陽には誰が来たのかの大体の検討はついてるようで、見つかるかもという恐怖より、万が一にも帝亜羅を巻き込んでしまった場合の、恐らくあびせられるであろう他方からの非難轟々への不安がつのっていた。
「......誰、なんだろ......怖い......」
「......何となく何が来たのかはわかった......」
「......何、なんですか?」
帝亜羅が恐る恐る小声で尋ねた。自身が間近で見た、堺市役所屋上で見た、あの火力。その火力の持ち主......まあ、少なくとも帝亜羅から見たらそうである晴瑠陽が、これは敵わないと部屋の隅で、パソコンを抱えて、無表情ながら立ち尽くすほどの相手。
流石にただ恐怖に震えるしかなかった。
カツ、カツ、カツ、
「331......331......あ、あったぞ!この部屋じゃ」
「ふむ、鍵がかかっている。まあ関係はないが」
キィーーン、ガチャ、チャリ......
「......奈都生」
「......え?は、はい......」
ギィー......ミシッ、ミシッ、ミシッ......
「......っはっは〜!!おるぞおるぞ!!我々に敵うはずもない小悪魔と、人間じゃ!!......人間の方は神気耐性がある、厄介じゃのお〜!!」
「そうか......お?」
部屋に入ってきた謎の2人組の前に、帝亜羅と晴瑠陽は出て言った。
「「......今、13代目はいません」」
「......ほほう、余たちがあやつだけを標的としてきているかどうかも、分からぬというのに......全く、最近の下界人は......」
先までの雰囲気とは裏腹に、2人の決断と言ったことに対して、何やらぶつぶつと呟き続ける2人組のうちの1人。横髪と横髪の間に、つむじあたりで三つ編みの橋がかかっている。
帝亜羅は何となく、その2人が部屋に入ってきてから何となく、もにゅっとするような、なんかむず痒いような、それでいて気持ち悪い感覚がしていたが、無視してそのまま立っていた。
『......帝亜羅、5秒後に1歩後ろに下がって、その後3秒後に頭を下げて、9秒後に急いで走って部屋から出て、廊下の突き当たりに逃げるよ』
「え?でもそれじゃ......え?」
......刹那、帝亜羅の頭の中に、晴瑠陽の声が直接響いてきた。口が開いてなかったから、普通に話したわけではなさそうだ。そのままその声に答えようとして、あれ?と思わず声を上げた。
『......2......1......下がって』
「は、はい!」
ドバキッ......パラパラ......
「おい、愛!!」
「うーむ、不意打ちならしとめられると思ったのだ、がっ!!」
『頭下げて』
「わっ!!」
ヒュンッ
『次......9......8......7......6......5......』
「全く愛は......一撃で仕留めろと言っただろう......」
「はは、すまんの!!」
晴瑠陽のカウントが進むにつれ、部屋が何故か少しずつ暗くなり始めた。
『2......1......』
「さて......今度こそ仕留め......あれ?」
「これは......闇魔法じゃな、小悪魔め、姑息なことをしおって」
「......ん?とはいっても、あまり遠くには逃げてはいないらしいぞ、愛」
「......追い詰めて殺してやろうぞ、天界に楯突くであろうコソ泥鼠めが」
そう言って2人組は部屋から出て、帝亜羅達の行先へ真っ直ぐ進んで行った。
──────────────To Be Continued───────────────
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