第4話 酒の席で

 二人で食器を片付け終えると、キシャナは秘蔵の葡萄酒ぶどうしゅを取り出してグラスに注ぐ。


「食後はメインの酒だ」

「俺達は十八歳で未成年……って異世界で前世の法律を気にするのは野暮か」

「そういうことだ。再会を記念して乾杯しよう! 夜は長いし、付き合ってもらうからなぁ」


 キシャナは乾杯の音頭を取ると、葡萄酒の上品な香りが鼻孔をくすぐる。

 酒は騎士団の先輩と飲み交わすことはあったが、シェーナは酒に弱かったので敬遠していた。

 折角の友人から勧められた酒なのだから、今夜はとことん付き合おうとシェーナは思う。


「良い飲みっぷりだねぇ。あの時できなかった修学旅行の続きでもしようか。私は……いや俺はあの時、同級生だった福原静江ふくはらしずえが好きだったんだぜ」


 突然のカミングアウトにシェーナは目を丸くして驚く。

 福原静江は前世で浩太と康弘が通っていた高校の女子生徒だ。

 物静かな子で目立たない子だったと記憶しているが、まさかこんな形で名前を聞くことになるとは思わなかった。前世の康弘は当時付き合っていた高城咲たかじょうさきがいたので彼女の名前が上がらなかったのは意外だった。


「咲とは修学旅行の前に別れてたんだ。告白されて付き合ってみたけど、考え方が合わなかった。福原さんとは話したこともなかったけど、遠目から素敵な人だと眺める日々だったよ」

「そんな恥ずかしがる性格じゃないだろうに。告白できなかったことに後悔はしているの?」

「……少ししているかな。本当に好きだと思った子に告白するのは意外と勇気がいるんだぞ? 結局は躊躇してこのざまさ。この姿で告白されたら福原さんもびっくりするだろうね」


 グラスに映る女ダークエルフはどこか遠くを眺めるようにして寂し気な表情を浮かべる。

 キシャナは葡萄酒を一気に飲み干すと、火照った顔をしながら意地悪な笑みでシェーナの膝に座る。


「今度はシェーナの番だぜ! 俺はここまで話したんだから、『いない』なんて回答はなし」

「……飲み過ぎだぞ」

「はぐらかすなよ。それとも今から私がシェーナを『好き』にさせてもいいんだぜ?」


 妖艶な女ダークエルフは女騎士に顎クイをする。

 唇を近付けようとするキシャナに、シェーナは降参する。


「言うよ! 同級生だった樫山円かしやままどかだ」

「樫山……あの樫山円か! たしかに美人だったけど、かなりの変人だったよな」


 樫山円は才色兼備の持ち主だったが、授業中にスマホで株やFX取引、生理だからと言う理由で体育は一度も参加しなかったこと等を先生に厳重注意された問題児だった。

 前世の浩太は樫山円に一度だけ、どうしてそんな態度を取り続けるのか問い質したことがある。彼女は「金になることはするし、それ以外はしない」と平然に答えたのを覚えている。


「俺には彼女がその行動を取るのに何か使命感みたいな物があると思ったよ。修学旅行には不参加で事故には巻き込まれていないから、前世で元気に暮らしているのかな」

「……それって好きになったと言うのか?」

「好きだから聞いてみたんだ! 単純に彼女の容姿に惹かれて、ベッドで寝ていても彼女の事を忘れられなかった。これでいいだろ!」


 これにはキシャナの酔いも完全に冷めて、「どんまい!」とシェーナは謎の励ましを受ける。

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