記憶を探す旅 ~異世界放浪記~

くろたまご。

記憶を探す旅 ~異世界放浪記~

第0話 プロローグ

 目の前が真っ白だった。


 何故かは分からない。


 ただ真っ白で、何も見えなかった。


 何も感じなかった。


 何も分からなかった。


 ただ、いつもと違うことが起きている。


 それだけは薄れる意識の中で感じ取ることは出来た。



――――――――――



「……ぁ?」



 まず第一声、俺は声を漏らしながら身体を起こそうとする。


 やけに身体が重い、まるで長期間身体を動かさなかったり同じ姿勢で作業し終えた後のような気だるさが全身を包み込んでいた。



「……は?」



 これが第二声、理解出来ない。とでも言いたげな声であった。



 それもそのはずだった。重い体を起こして辺りを見渡せばあたり一面の草原だったからだ。少なくとも俺の住んでいた場所ではこんな開けた土地どころか自然も少なかったような気がする、驚くのも当然と言った所である。


 そして驚いたポイントはこれだけじゃない、まず服装。身に覚えのないコスプレのような服装をしている。まるで始めたてのゲームキャラのような簡素な服……お洒落に気を配ってなかった俺でさえ「何かこんな感じの服装、ゲームとかで見たことある初期のアバター付いてない装備みたいだ」とか思ってしまうほどに見た目がよろしくない。イメージとしては灰色のシャツとズボンをボロくしたような服を着ている初期装備、そんな感じだ。



「いや、これ、どういう事だ……?確か前が真っ白になって、そこからの記憶が全くないぞ。それ以前にそもそもここはどこだ」



 意識がはっきりして来たのか思考を巡らせる方に脳のリソースの大半を割いて現状を理解するのに努めようとする。「予期せぬ出来事が起こった場合はまず考える事」それが俺の数少ない信念だからだ。だからこそ現状把握に全力を尽くす。



「息は吸える、って事は酸素はある。軽く飛んでもいつもと変わらない、重力に恐らく変化はない。言葉……は誰とも話してないから分からんが、独り言が理解出来るって事は同じ言語で話せてる。となると、俺は夢でも見てたのか?いや、だとしてもこんな場所は俺は知らない。目の前が真っ白になって……でもあの時は間違いなくビルに囲まれて……?」



 そこまで言ってまた考え込む。



「……ビルって何だ?」



 分からない。何故『ビル』と言う単語が出てきたのか。だからこそ混乱する。



「ビル?に囲まれて……いや、だからそのビルは何だ。サラッと出てきたんだからきっと思い出すようなことじゃないはずなんだ。なのに、名前しか分からない?」



 理解が出来なかった。口に出してアウトプットしながら現状把握している最中に出てきた「ビル」という単語が言葉は分かっていても意味が説明できなかったからだ。しかし「ゲーム」と言う単語が何を示すのかは分かる、と言う事はカタカナが理解出来ないわけではない。今まさにカタカナが何か理解出来ている事がその証明になっているのだ。

 ビルが何かは分からないが、それに囲まれて暮らしていたことだけは覚えている。これだけは間違いないはず。それを信じることで強引に納得させ、次にどうするかを考えねばならない。いつまでも突っ立っているわけにはいかないのだから。



「取り敢えず人がいる所を探そう。こんなだだっ広い所に一人で立ってたら目立ってしょうがない。分からなければ人に聞け、だ」



 言葉が通じる相手ならな、そう呟きながら俺は一歩を踏み出したのだった。




――――――――――




 そして、その一歩は新たな世界への第一歩となるだろう

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