Ep.23 誘拐事件、終幕
昼間の賑わいはどこへやら。すっかり祭りの名残も消えて、眠りについた王都の一角。
身寄りの無いながら魔法の才覚ある子ども達のみを集めた養護施設がそこにあった。通常と違い魔法に長けた子どもばかりの為、定期的に魔法を用いた演劇や音楽演奏等の催し物をしていることもありかなり裕福な環境と言えるだろう。
海に面している建物の為、夜にはさざ波が子守唄になる。しかし、今夜は違った。潮風に交じり微かな笛の音が怪しく響き、施設の南側に位置する一番幼い子ども達の寝室の扉が不意に開く。その中から、子ども達が列をなして歩き出した。しっかりと目は閉じたまま。
「よーしよし、良い子だ。さぁおいで。これに着替えた子から船に乗るんだ」
紫色のローブに身を包んだ男が、浜に出てきた子ども達を先導するように再び笛に唇を当てる。その音色に誘われ昼間使用した劇の衣装に着替えさせられた子ども達が船に乗り込んだ瞬間、彼らの身につけた誘拐防止の魔導具がけたたましい警告音を鳴らす。
「何だ、どうなってる!アンクレットの効果は衣装の布地に掛けた魔術で遮断されてるはずだ!」
「やっぱり、そうだったんですね」
不意に響いたその声にうろたえる誘拐犯達に、高台に立ったセレスティアが淡々と続けた。
「その衣装の布地にかかっていた魔術は無効化させて頂きました、もうその子達を無音で港外に連れ出す事は不可能ですよ!」
昨日知り合った親子からこれまで拐われた人間は皆何らかの理由でギルド経由の衣服を注文していたと聞き、もしかしたらその服に何か仕掛けられているんじゃないかと思ったのだ。
「この小娘が……!仕方ねぇ、ガキは諦めるが……この場を見た嬢ちゃんには消えてもらうぜ!」
駆け上がってきた男が魔力の塊をセレスティアに向けたが、同時に
「俺の妻に危害を加えようとは、とんだ命知らずだな。さぁ、顔を見せて貰おうか」
「アストライアの、黒の騎士……!」
正面に降り立ったガイアスの気迫に歯噛みして後退った男の首筋に、白銀の刃が突きつけられる。
「よくも我が国の民を駒にしてくれたね、ただで済むとは思わないことだ」
一瞬は怯んだ男の表情が、向けられた剣の主を確かめて嫌らしい笑みに変わる。
「これはこれは、オルテンシアの白髪王子殿じゃないか。ろくな魔力も持たない落ちこぼれ如きに誰が捕まるものか!」
男はそう叫びながら振り返り電撃魔法を放ったが、それを剣で受け流し大地に流したヴァイスに瞬く間に組伏せられた。その男の後ろ手に、ガイアスがセレスティアお手製の魔術無効が付与された手錠をかける。
「この若造共が……!たとえここで今俺だけ捕らえたとしても、これまでに“教育”した駒たちがまだこちらにはいくらでも居るのだぞ。勝ったなどと思い上がらない事だな!」
「うーわ、典型的な負け犬根性。いっそ感心しちゃうね」
「レイジか、他の被害者はどうだ?」
「ヴァイスとガイアスの読み通り、少し先の昔からある難破船の内側を改造して拠点にしてたみたいだね。そっちも無事にお片付け完了だよ」
「何だと……!」
「人が訪れないとあそこを選んだんだろうが、あぁも頻繁に台風が難破船周辺を避けていたら天災回避の結界が施されていることくらいすぐにわかる。詰めが甘かったな」
「既に洗脳されてしまった方々も、私が必ず治療します。あなた達の計画はここまでです」
最後のセレスティアの言葉に止めを刺された犯人たちがうなだれる。
こうして、長い間オルテンシアの民を苦しめていた誘拐事件は、わずか数十分の攻防にて人知れず幕を閉じたのであった。
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それから、事件の後処理も大方済ませ、改めて設けられた会食の席にて。怒り狂ったリアーナが両手で思い切りテーブルを叩いた。
「どうしてわたくしには何の役割も与えて下さらなかったんですの!!?」
「リアはまだ先日の密輸犯達に浴びせられた毒霧で本調子ではなかったろう、王女たろう者がそう頻繁に危険な場に身を投じるものじゃない」
「だっ、だったら、その余所者ふたりはどうなるんですの!?」
「リアーナ!」
鋭い声音で妹を諫めてから、ヴァイスがガイアスとセレスティアに頭を下げる。
「妹がすまない。今回の事件、彼女の無効化能力が無ければここまで迅速な解決は出来なかった。他国の事にも関わらず我が国の民のため心を砕いてくれたこと、心より感謝するよ」
「無効化だかなんだか知りませんけれど、お兄様はあの娘に肩入れしすぎですわ」
ヴァイスの謝罪を受け入れて今後の話し合いをする彼等を遠目に睨みつけ、小さく呟いた。
〜Ep.23 誘拐事件、終幕〜
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