Ep.7 旦那様は心配性
前略、アイちゃん。唐突な事故の連絡で心配をかけてごめんなさい。私達はガイアの魔法のお陰で無傷ですが、異常気象である竜巻が収まらないと船が出せないと言うことで、帰れるのはまだ先になりそうです。
漂着した国の王家の皆様が大変良い方々で、あちらのご厚意で『魔法学園の視察』の為、私達は明後日からこちらの国立魔法学園に通わせて頂くことになりました。ガイアとは学生時代関わりが無かったので、本人には恥ずかしくて言えませんが一緒に学校に通えるのがちょっと楽しみです。
オルテンシア王国の皆さんはとても穏やかで、良くして頂いています。つきましては、旅立ち前にアイちゃんが何故この国に行ってはいけないと言っていたのかの理由を伺いたく……
「上がったぞ」
「ひゃっ……!」
あと少しで手紙が書き上がると言うタイミングで、背後から急に抱き締められた。お風呂から出てきたガイアの体温が温かくそのまま身を委ねていると、私の首筋に顔を埋めたまま更に力を強めるガイア。
空中庭園でヴァイス殿下達と分かれてからずっとこんな感じだ。
「ガイア、どうし……」
「それ、国宛の手紙か?」
「えっ?うん、そうよ。きっと心配してるだろうから、こっちは実家ので、今書いてたのはアイちゃん宛」
「そうか、そうだな。……お前は皆から愛されてるから」
ボソッと呟いたガイアに不意に名前を呼ばれ振り返ると、そのまま唇を塞がれる。驚いたのは一瞬で、数秒ですぐ離れたガイアの口が次に紡いだのは。
「……お前は俺の妻だろう」
との、一言だった。
数回まばたきを繰り返してから、ハッと府に落ちる。
「もしかして……、私がヴァイス殿下と2人だけで話してたから、やきもち妬いた?」
「ーっ!……当たり前だろ」
ガイアはバツが悪そうに呻いたけど。どうしよう、ガイアを不安にさせちゃった申し訳なさや軽率に男性と2人きりになった自分の軽率さの反省と同時に、ガイアからの独占欲に喜んでしまっている私が居る。
(確かに、初めて趣味が合う相手に会えたからって軽率だったわ。何で何の疑問もなく2人きりで話し込んでしまったのかしら……)
またぎゅうっと私を抱き締めているガイアの頭を撫でながら謝った。
「嫌な思いさせちゃってごめんなさい。でも、ヴァイス殿下の刺繍技術が気になってお話を伺ってただけなの」
「わかってるけど……相手は男だろ、惚れられたらどうするんだ」
「ふふ、馬鹿ね。相手は王子様よ?常に素敵な女性に囲まれて生きてきたでしょうし、私みたいな地味な子は気にも止めないわ。それに……」
ちゅっと軽い口づけを頬に落とすと、ガイアが深い藍色の瞳を見張った。
「私の愛する旦那様は、もちろん貴方だけだわ」
ぽすんとガイアの胸元に身を預ければ、彼は前髪をかき上げながら溜め息を溢した。
「ーっ、参ったな……」
「え?」
「……何でもない。セレン、好きだよ」
『私もよ』の返事は、再び落とされた口づけと真夜中の静寂に消えていった。
~Ep.7 旦那様は心配性~
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