僕の婚約者 そんな時代のとるにたらない恋愛物語

松本 せりか

第1話

 サヴォライン王国は、先の国王時代にあった革命で王族・貴族の権力が根こそぎ奪われてしまっていた。

 それでも、国外向けに王族は残され、貴族も名ばかりというものも多いとはいえ、上位貴族はまだまだ体面を保ててる。

 困っているのはもっぱら下位貴族で一部の家を除いては、財力面で言うと平民の上流階級、事業家や銀行に借金を重ねるものも多くいた。

 そう、この国は近隣諸国より早く貴族社会が崩壊しつつあるのだ。

 そして、その一端を担ったのは、革命の時に王族貴族で独占していた、魔道具の流出であろう。

 今では、それらはこちらの世界でいう、携帯電話やGPSの役割を果たしている。頭の硬い貴族連中が、独占するより余程有効利用出来ているといえる。

 明かりを持続できる魔道具で、ランプがいらなくなり。火災の被害も激減。

 平民の暮らしは安定し、豊かになりつつあった。


 このお話は、そんな時代の取るに足らない恋愛物語である。




 それは、突然訪れた。

「マルセル。この子が貴方の婚約者よ」

 そういうセリフとともに、母がいきなり連れてきて、置いていった女の子は、リビングのソファーにちょこんと座っている。


 確かに婚約者はいた。

 生まれてこの方一度も会ったことは無かったが。

 それも、親同士が決めただけで、拒否権は双方にあるはずだった。多分だが。

 俺の方が10数年も早く生まれていて、相手がほんの子どもだったので、正式なことはまだまだ先の話だったはずだ。

 俺が今年28歳。実家の財閥から独立部門として始めた事業も、軌道に乗って、やっと一息ついたところだ。

 結婚なんて、まだまだ考えれるはずが無い。

 相手に至っては、まだ学生のはず。14~15歳くらいだろうか。

 普通に考えて、何かしたら犯罪ではないか?

 しかも、本宅なら広い屋敷の中で、使用人に囲まれているから気にはならないだろうが。ここは職場に近いという理由から借りている、アパートメントだぞ。

 普通に台所とこのリビングを除いて、3部屋しか無い。

 しかも、そのうち1部屋は何かあったときのゲストルームにしている。

 ……とりあえず、目の前にいる女の子の処理だ。

「その……母が強引に連れてきてしまって…すまなかったね。

 君…とりあえず、家はどこかな?」

「……家?」

 どこか、うつろな目をして俺の方を見た。

「いきなりここに住むわけにもいかないだろう?

 送っていくから、お家を教えてくれないかな」

 怖がらせないように、出来るだけ優しい口調で言う。

「帰る家は…ありません」

「………は?」

 いや、まて帰る家が無いって。

「両親は、亡くなりました。

 行くところがないのを、おばさまが、婚約の約束を理由に引き取って下さったんです」

 はぁっ~~~??

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