第17話 逃避行の果てに

少年は工場の入り口はないか仮囲いの周囲を調べる。

仮囲いにはスプレーで落書きがされており、不良が出入りしていたような痕跡がある。

仮囲いが蹴破られた箇所を発見した。

少年は身を屈めながら仮囲いの内部へ足を進める。

「大きいな」

少年はそうつぶやくと工場を見渡す。

コンクリート造3階建ての古びた建物が鎮座している。

窓枠と窓硝子は撤去されており窓だった箇所はぽっかり穴が開いている。

少年は窓から工場内へ侵入した。


工場内の空調や給排水衛生などの設備が撤去されており空虚な箱となっている。

内部を少年が探索していると宿直室と書かれた部屋を見つけた。

中は6畳程度の和室だ。恐らく警備員の仮眠室として機能していたのだろう。

「次はここだな。唯一畳だし」

少年は語気を強めて自分に言い聞かせると工場を後にした。


少年は夕方まで図書館で過ごした後、友人と合流し夕食を摂る。

次の拠点先と人目のつかない深夜に移動する事を共有した。


友人と別れた後、少年は深夜になるまで近所の人気がない神社の境内で待った。


深夜0時に少年は神社から河川敷のシェルターへ向かった。

何者かわからない存在がシェルターを監視している可能性がある事に不安を覚えながら向かう。


シェルターへ到着した。

誰もいない。

少年は安堵のため息をつくと汗を拭う。

素早く荷作りに入った。まるで夜逃げのようだ。

エナメルバックに荷物を手早く詰める。10分程度で完了した。

「ここともおさらばか」

愛着あるシェルターを放棄する事に悲哀を感じながら後にした。


橋の下を這い出ると同時に夜目慣れしている少年の目が眩む。

懐中電灯だ。3つの人工灯が少年を襲う。

「見つけたぞ」

灯から聴き覚えのある声が聞こえる。児童相談所の職員だ。

「なぜ居所が割れた?」

少年は職員に問う。

「市役所に住民から通報が入った為、調査をしていた。今なら前歴に傷もつかないから安心しろ。元の施設には戻さないと約束する。だから大人しく来るんだ」

職員は少年に詰め寄る。

どうやら昼間の男性達は誤認がないよう裏取り調査をしていた児童相談所の覆面職員らしい。

少年は怒声をあげた。

「俺は社会の枠から外れても自由に生きる。俺が信じた者以外に身辺を委ねるつもりは毛頭ない。」


「それがお前の答えか?」

職員は少年に問う

少年は鋭い眼光を向け無言で頷く。

職員は腕時計に目を落とした後、声を張り上げる。


「0時53分 強制保護執行」


その言葉を合図にもう2つの灯が消え少年の自由を奪う。

「放せ、俺の人生を奪うな。俺が何をしたってんだクソッタレ」

少年は抗うが成人男性2名には敵わない。取り押さえられた後、市役所の名前が入った公用車後部座席に押し込まれ、車は走り出した。


少年の一時の自由は線香花火の火球が落ちるように終焉を迎えた。

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