勇者小隊4「叔父さんはどこ!?」
「いない…いない…いない、いない、いないいないいないいないいないいないいないいない!!!!」
ギャーギャーと黄色い声で騒ぐ少女に皆呆気に取られる。
その背後では、魔力を失った
もとをただせば魔力の塊だ。
それを魔法陣で強制的に練成し、流星の形に仕上げているだけ。
魔力を注ぐ器たる流星が切り裂かれれば当然のことだ。
人類最高峰の戦力である勇者小隊をもってしても数時間しか
彼の者はあろうことか、一刀のもとに霧散して見せた…事もなく。
まるで
それを成し遂げたのは、
さぞかし勇壮なる鍛え上げられた勇士がやったのかというと…そうではない。
それは少女───
美しく愛らしくはあるが…まだ少女。
田舎臭さを感じさせる
とてもではないが、
大きな黒い瞳は美しいが、今は泣きはらしたのか…白目の部分が真っ赤に染まっている。
輝く白銀の軽鎧は、高貴なものが
サイズに見合ったそれは彼女専用に
それは年齢に見合わない重厚な装備と相まって、どこか
両の手に持つ剣は
どちらも
装備も雰囲気も───
一目見て、並大抵の強さではないことが分かるのだが…やはり容姿は幼く──少女と言っても、
エグエグッとしゃくりあげる顔は、「勇者」と呼ぶにはあまりにも悲痛で心を
精一杯のオシャレであるツインポニーテールの毛先はボロボロになり、洗っていないであろうことは明白だ。
しかし、それすらも構わずとばかりに泣きはらした顔で周囲を回し見る。
近くにいたクリスに気付くと、
「ねぇ!? 叔父さんは? 帰ってきた? ねぇ叔父さんは? 叔父さんはぁぁぁ!!? ねぇぇ!」
ボロボロのクリスをガックンガックンと揺さぶるエリン。
「エ、エリン…何を言ってる?」
困惑顔のクリス。
エリンはそれを見て
「お、叔父さんは?」
ポカンとした勇者小隊の面々に向かって問いかけるが───
誰一人として答えない。
と、言うより事態についていけない。
ほぼ全員…
はぁ? と言った顔だ。
その表情に気付くと、エリンはみるみるウチに顔を
ガタガタと震えだす。
「そ、そんな…」
ブルブルと震える声で問うのは、肉親の行方のみ。
ペタンと女の子座りでへたり込む彼女の目には、叔父の姿がここにないことを一目で看破できてしまったのだろう。
カランと乾いた音を立てるクレイモアと、
ベチャっと湿った音を立てる細剣───
ベチャ…??
呆気に取られて、
急に動きを止めてしゃくりあげるエリンを心配したのか───
「エ、エリン!?」
暗殺者ミーナが少女に駆け寄り、
そして、細剣に深々と突き刺さっている…それに気づいた
「ひぃぃ!!??」
エリンの肩に手を置こうとしたミーナは飛び上がって物陰に身を隠す。
ガクガクと震える目には…異物が。
「チ…チーインバーゥ」
エルランがボソリと零したのは…覇王軍の八家将の一人の半欠けになった…顔。
その八家将の一人が細剣の
「エ、エリン…お、おかえりなさいなのです」
オズオズと物陰から顔を出したシャンティが、エリンに近づき水筒を差し出す。
泣きはらした顔でエリンは受け取り、
軽く一口含むと───
「ああああああああああああああああああ!!!!!!!」
ガキィィンと、水筒を床に叩きつけ(床にはヒビ…水筒は底が抜けた)叫ぶ。
ビクリとして後ずさるシャンティを
「勇者殿…よくぞ戻ってくれた」
ガンと片膝をつき、勇者の前に
その様子など目に入らんとばかりに、エリンは頭を掻きむしる。
「ああああああ、あああああああ、ああああああああ!!!」
そっと、その肩に手を置くゴドワン。
「勇者殿、落ち着かれよ…ここは味方陣営。もう安心です」
穏やかな声で話しかけるゴドワンに、エリンの声も次第に小さくなる。
……
「ひょほほ…流石は2児の親じゃの~」
「お、おい──」
何か言いたそうなエルランを、ガシリと掴んで引き止めるのはクリス。
ボロボロの体で殆ど半裸───
汗だくでドロドロ…髪がべったりと貼り付いた顔───しかし、そこには強い意志の光がある。
「貴様は黙っていろ」
グググと肩に籠められる力に本気を感じたエルランは、舌打ち一つ、そっぽを向く。
「アァァァ…うわわわあああああん!!! 叔父さんが、叔父さんがいないんだよぉぉぉ!!」
バンバンと床を叩きつつエリンが訴える(床がちょっとヤバイ…)。
「叔父さん? バズゥ殿のことですな」
ゴドワンの声に、エリンはグワバッと顔をあげる。
「な、なにか知ってるの!!」
勢い込んで尋ねるエリンにゴドワンは
「知っているも何も…」
チラっと、エルランに視線を寄越すと…
「バズゥ殿は先日付けで除籍…王国へ帰還されましたが…」
……
…
「え?」
ポケーとした表情になったエリン。
「え? だって? え?」
突然、しどろもどろになりキョロキョロと視線を泳がせる。
「エルラン殿から聞いてはおられないのですかな?」
ジロっと
知ったことかと言わんばかりに、そっぽを向いたままだ。
「エルラン…貴様?」
グリリとさらに力を籠めるクリス。
「言ったさ…ココにはいないと、な」
何でもないとばかりに言うエルラン。
「バズゥの奴と勇者どのは、
それがどうした? とゴドワンにクリス。
…家族が一緒に寝ているだけだろうに──
「叔父さんとやらが、夜になっても姿がないっ…て、勇者殿が
もちろん、エルランにどこまで悪意や、思わせぶりなセリフがあったかは知らない。
「それで?」
クリスの視線に怒りはない。
ただただ、
感情の抜け落ちたような、ただ冷たい目があった。
そこにあるのは呆れだ。
エルランは元より…勇者に対しても──
「どうもしないよ。
───港へ行ったってな
…港?
「あ、あぁ…たしかに間違ってはいないが」
ゴドワンは、ふと嫌な気配を感じる。
勇者の行動に思いが至ったようだ。
「そしたら、このガ…勇者殿が突然走り出してね…」
あとはみんな知ってるだろ?
数日間、行方不明となった勇者…
そして、始まった覇王軍の反撃。
勇者を欠いた勇者軍は、覇王軍の猛攻に
そして、遠距離魔法の集中射撃を受け、部隊は壊滅状態。
勇者小隊も打ち取られる寸前だった。
──実際、あと何分もったことだろうか。
あのまま、勇者が戻らなければ…
今こうやって
「む…エリン、本当か?」
クリスはエリンに視線を向ける。その目はやはり冷め切っている。
「う…うん…でも、でもぉぉ! いなかった! いなかったんだよぉぉ!」
また、ワッと泣きだすエリンに、
チィと聞こえよがしの舌打ち、エルランは怒気を
──この男は本当に感情の制御が下手だ。
クリスは冷め切った顔、
ゴドワンはただ
シャンティはオドオドとし、
ミーナは
ファマックはいつも通り面白がる。
「その…エリン…」
エグエグと泣きじゃくる勇者エリンに対し、クリスは聞く。
「どこの港に行ったんだ?」
え???
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