第168話ーー断固抗議します

 300階層に到達したわけだが、とりあえずまずは迅雷の面々を出す事となったのだが……めちゃくちゃ苦労した。

 何が苦労したかっていうと、詰め込む時に俺がテトリス気分で楽しんだのがいけなかったらしい……

 よくさ、綺麗に詰まっていた箱から物を出したはいいけれど、仕舞う時にはなぜか同じ量なのに入らないってよくあるよね?それの逆バージョンみたいな感じ。

 なんか変な風に足とか装備が絡み合っていて……結局ごちゃってなったまま取り出す事になった。


「私たちは確か100階層を抜けたはずで……ここはどこでしょうか?」


 意識を取り戻した面々が戸惑いながら質問してきたので、師匠から300階層だと説明したのだが、当初は全く信用しようとしなかった。

 だが彼らの知っているどのボス部屋でもない事や、既に3ヶ月半ほど経っている事から少しづつ現実だと悟る者が現れた感じだった。


 ではどうやって知らぬ間にここに運ばれたのかと誰もが疑問に思うのは当たり前の事だろう。俺がもし迅雷の面々の立場だったら同じ事を思うだろうし。


「お主らが知る必要は無い」


 なんて説明するんだろうって思っていたら、威圧と共に一言で終わらせるという力技だったよ。


「そんな事よりもお主らはこれを読め、ここで20日ほど時間を与える故にしっかりと暗記しろ」


 12人それぞれに渡されたのは、ここまでの階層の内容やモンスターの特性を記した台本だ。

 師匠が次元世界に入る度に分身たちを使って書き上げた力作……階層の内容は結構楽にしてあるけどね。

 ここで思ったんだけど、中国は最低でも300階層まで来ているんだから、各階層内容から嘘ってバレるんじゃないのか?という疑問だ。

 この疑問の答えはうどんから説明を受けた。それによると似ているダンジョンはあるが、1つとして同じダンジョンはこの世の中に存在しないらしい。名古屋西ダンジョンと北ダンジョンはモンスターの配置が似ていると言われているけれど、現在わかっているところまでという話で、開拓を進めれば違う事は明白になるだろうとの事だった。


 ちなみに290階層の河童戦の事も書いてある。しかも結構詳細に……

 対戦相手としたのは柴田にしておいた、身体もデカいしね。俺としてはナル森を推したんだけど、スポーツ刈りだけど髪の毛がある程度生え揃っちゃっているので「同じ皿を持つ……」云々は無理があるって却下されてしまった、残念!!


 ついでにここまでのモンスターのドロップを全て渡した。魔晶石だけでも7万個近いし、他の物も山ほどあるので膨大な量だ。更に公式階層記録以降にあった、未発見鉱物や薬草を初めとした採取物のサンプルがこれまた大量にあり、それの説明書も渡す事になった。

 ただここまでに見つけたボス部屋を含めた宝箱から発見された物や、スクロールなどの希少ドロップは渡していない。

 魔晶石やドロップ、採取物と同額の金額が別途協会から俺たちに支払われるらしいんだけど、それでも希少ドロップなどの役得くらいないとやってられないって事らしい。


 多大な量の事を覚えるのはめちゃくちゃ大変な作業だと思うけれど、無事地上へと帰還出来たなら、それ以降彼らは一気に世界的TOPシーカーへと躍り出る事になるんだから、それくらいは頑張って欲しいところだ。


 迅雷たちがお勉強している間、俺たちは何をするかといえば当然修行なんだけど、俺と香織さんは迅雷の装備を身に着けて師匠たちとの手合わせだ。ブカブカだったりキツかったりするんだけど、それでも無理やり着用してである。理由は1つ、今のままだと明らかに戦闘痕が少なすぎて怪しいからだ……実験体との戦闘で大穴が空いた盾以外ね。

 モンスターとの激戦があったように見せかけるわけなので、うどんたちも混ざって色々な魔法を放ってくるのを受け止めたりしつつ、でもあくまでも手合わせなので攻撃もしなければ怒られるので、着慣れないフルプレートの鎧を着込んで飛び回ったりしていた。


 ここはボスがサンドゴーレムだった事からわかるように、砂漠が広がる部屋でそれなりの暑さが篭っている。まだ日本のようなジメッとした暑さでないところが救いだけれど、それでも辛いものは辛い。そんな中で俺たちだけが次元世界に入って温泉でサッパリする訳にもいかなくて、迅雷に付き合ってずっと簡単な水浴びしか出来ていないのがツラかったよ。


 20日の予定が10日延びて30日経過した所で、ようやく迅雷の面々が台本や説明書を全て覚え終わったので、また気絶させて時空間庫に収納した。

 その後すぐに俺たちがした事が次元世界でのお風呂タイムだったのはしょうがない事だと思う。


 そしてサッパリしたところで、これからどうするかではある。

 更に進むか戻るかの2択なんだけど、戻るにあたってあの極寒の水中進行は嫌だった俺が思いついたのは、全員を次元世界へと入れた状態でまず本部の部屋に残してある苦無目掛けて転移する。その後近衛の人にダンジョンにある程度潜って貰ってから、目隠しの壁など出したところで次元世界から師匠たちや迅雷を出す案だ。

 この案は近衛の人だけが面倒だろうけど、危険も少ないしwin-winって事で採用となった……助かったよ、もう水中進行ツラい。


 で、戻るのは苦もなく簡単に行えるのであれば、もう少し探索を続けようということになった。次にいつ来る事になるかはわからないけれど、いちいち300階層まで1階層から順に攻略してくるのは時間が掛かるというのが大きな理由だ。


 そんな事を話し合っていた際に、何やらうどんたちが頭を寄せ合わせてコソコソし出した。

 そして意を決したかのような顔をして、うどんがやって来た。


「主様、皆様お話があります……」

「何?」


 話ってのも気になるが、他の召喚獣たちのうどんを見る目が可哀想なものを見る目なのも気になるところだ……一体なんなんだろうか。


「実はですね、主様の転移スキルに関してなんですが……現状、何かに印を付けて置いておいても、しばらくするとダンジョンに吸収されてしまう事はご存知かと思います」


 えっ……?

 この流れはもしかしてそうならない手段があるって事かな?


「回収した宝箱自体に印を付けて置いておけば、ダンジョンには吸収される事はありません……ボスが落とす宝箱以外という制約はありますが」

「ほう、それはありがたい話だが……何故そのように怯えておる」

「それがすっかり忘れておりました……」

「ふむ……まぁ主が主だからな、その下僕しもべであるお前たちが忘れていても仕方ない事かもしれんな」


 どうせ忘れていたとかそんなオチだと思っていたら……まさかの俺に飛び火したよっ!!

 って、なんでみんな納得してるの!?

 召喚獣たちも、チラリと俺を見てからしょんぼりとするんじゃないよ!!

 そこは否定するところでしょうが!!

 納得いかないんだけどっ!?


「ではここからは宝箱を探しながら参るか」


 俺の抗議はサラッとスルーされてしまった……ツラい。





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