第143話ーー目的が変わってませんか?

 結局全部捨てました。

 だって師匠が2人で先行して潜ったのはこの為だったという配慮もわかったからね。あとは……まぁさすがにしんどかったんだ。

 襲い来るモンスターの口に放り込む形でサヨナラする事にしたんだ。ただ捨ててしまう事に少し心が傷んだ結果なんだけど……まさか放り込んだモンスターが悶絶しながら死んだ事には驚いたよ……特に俺の胃の強さに。

 印象的だったのは師匠が初めて怯えた表情を見せていた事だね、しかも俺を見て。挙句に「お前は人間を超越しているな」とか言われたよ……それは戦闘面で俺が師匠たちに思っている事なんだけど!?心外ですっ!!


 2日後、香織さんたちが合流した。香織さんの顔を見るのは少し心が傷んだのは事実だ。事実だけど……しょうがないよね、うん。それに俺は師匠に捨てろと言われたから捨てただけだし?モンスター討伐の役にも立ったしね。


「一太くん……これ作ったから良かったら食べて」

「えっ……?」


 捨てたのに、捨てたはずなのにまた新たなモノを渡されただと!?

 俺上手く笑えているかな?引き攣っていないよね?


「これはおにぎり?」

「うん、中にはカメ肉の佃煮が入ってるよ」


 恐る恐る包み紙を開けると、そこにはちゃんと白い米粒がハッキリと見える、海苔が巻かれたおにぎりがあった。


「あっ、ついさっき……1時間くらい前に握ったばかりだから大丈夫だからね!」


 ちゃんとしたおにぎりに衝撃を受けて固まっていたら、焦ったように香織さんが調理時間を説明しだした。


「ちょっと香織に料理を教えているんだよ。で、とりあえずそれは第1弾だ」

「なんかこれまでのは少しマズかったみたいで……ゴメンね」


 少し?

 少しって言った?

 アレは少しなんてもんじゃないよ?なんたって91階層のモンスターが悶絶して死ぬくらいなんだから。

 いや、まぁそれはいいや……マシになった事を喜ぼう。そしてビバまともな料理!!


「とんでもないですよ!美味しかったですしねっ!!頂きますっ!!」


 かぶりついたおにぎりは……米粒に見えたのは全て塩なんじゃないか?って思えるほどしょっぱかったけど、微かにだが米の味もしたし、中の佃煮はちゃんとした味がした。

 トータルで言うと、かなりの進化で驚くほどだ!!


「ど、どうかな?」

「美味しいですっ!」

「よかった〜」


 ばあちゃんの手腕恐るべし!!

 どうやったらあの物体Xからここまで進化させる事ができたのか?今度こっそり聞いてみよう。


 3日ほど経った時、ようやく迅雷の人たちが合流した。彼らがテントをはったりと拠点作成に勤しむのを横目にこちらへとやってきた2人の顔は、疲労と苛立ちの色が強いのが気になる。何かあったのだろうか。


「どうした?」

「どうしたもこうしたもありませぬ、アレらの武力ではせいぜい80階層までが限界ですよ」

「チームワークはなっていない上に、柳生の2人を目の前に言いたくはないがあの孫2人と森の奴が目立とうとする。だがそのくせ1人では倒しきれずに迷惑を掛けるといった具合じゃ」

「で?如何したらいいと思う?」

「最善の手としては、広告塔としての役目だけをさせる事ですな。小僧の世界に突っ込んでおいて、目的階層で外に1度出す程度でしょう」

「ふむ……」


 ありゃりゃ……そんな感じだったのか、そりゃあ2人ともあんな顔になるよね。そしてそれがまるで伝染したかのように、師匠たち全員の顔が同じようになっちゃってるし。


「爺さん婆さんがいる事だし、我らもいるわけだ。いっそあの3人の参加はやめるというのも手か……いや、そうなると柳生の武具を着ける者がいないか」

「あぁ、お前たちは面倒くさい話に参加せずとも良い。その辺で修練でもしておれ」


 確かに。俺たちが参加してもしょうがないよね。あんな風に言われないように修行しないとだ。人の振り見て我が振り直せだっけ?


 話し合いは2日ほど続いた。途中から東雲さんを入れて、そして迅雷メンバー全員を参加させてと。で、結局は当面101階層で鍛え直す事となったらしい。指導役はハゲヤクザと鬼畜治療師だ。2人はめちゃくちゃ嫌々みたいだけどね。


「では101階層へと移動する」

「小僧、悪いが分身を3体ほど貸してくれ

 、ボス部屋を抜ける間だけでいい」

「あっ、はいっ」


 サクッと俺たちは101階層へと移動した後に、分身を通じて様子を見させて貰ったけど、それはそれは酷いものだった。盾職よりすぐに前に出ようとする柳生の2人とナル森。で、押し込まれて結局怪我をしまくって治療師の手を煩わせる。他の者がどれだけ頑張っても攻撃職が3人抜けている事からどんどん押し込まれてしまい、盾に隠れるばかりといった感じだ。本当に癌3人だ。ゴリ田はナル森とつるんでいたとは思えないほどに、必死に盾でみんなを守っていたので見直したよ。

 最終的にハゲヤクザと鬼畜治療師から分身に殲滅命令が出て、分身たちだけで攻略し終わったんだけど……3体だけって事でまた癌3人がしゃしゃり出て来ようとしていたよ。「アレに任せるくらいなら我らの方が!!」とか言いながら。まぁそこは一瞬にしてハゲヤクザが3人の足腰を折ったので、実際には出てこなかったんだけどね。そしてもうこの100階層は慣れた所でもあるからなんなくクリア出来た。その時に魔法も使用したんだけど、ようやく自分たちが俺に手加減されていた事に気が付いたらしい。魔法どころか分身も出していなかった事にも。それでやっと少し静かになった……ブツブツと「ズルがあるはずだ」とかナル森は呟いていたけれど。うん、なんか若狭を彷彿とさせるよね。あいつ今頃は秋田さんとラブラブで過ごしてんのかな?俺の事とか日本の事とかは忘れて、勝手に幸せにして暮らしてくれているといいなって思うよ。


「では山岡と近松、その者らを頼む。余りにも聞き分けがない時は……まぁその時は仕方がない事としてくれて構わん」

「「御意」」

「では俺たちは行くぞ、とりあえず目標は150階層だ」

「「はいっ」」

「おっ!御館様っ!隠し部屋が見つかった時はお願いしますぞ」

「忘れておらぬ、ではなっ」


 その時は仕方がないって一体どういう事かと一瞬考えちゃったけど、あの癌3人をじっと冷たい目で見ていた事でわかったよ。ハッキリと口にしないけど、殺してしまってもって事なんだろうね。柳生の2人はじいちゃんばあちゃんにどこか救いを求める目をしていたけれど、じいちゃんばあちゃんは見向きもしようとしていなかった。

 後ほどじいちゃんばあちゃんに玄孫さん2人の事を聞いてみたんだよね、一応血は繋がっているんだよね?って。そしたら玄孫と言われてもかなり遠くて、2人の5男の6女が産んだ双子らしく、本来は柳生の名ではなかったのだがそれぞれが柳生の分家に婿入りした事で柳生の名を持っているとの事だ。そもそも血にこだわっていない上に、これまでに数度しか話した事もないために情が湧く事もないらしい。「一太たちの方が可愛いわ」と言われて、少し照れてしまったよ。

 それにしても隠し部屋の事を必死に言うのに笑った。どうやら先日の八岐大蛇の酒の泉が恋しいらしい。そしてどうやらじいちゃんばあちゃんも隠し部屋がないか心待ちにしている節がある。こちらは強敵と戦いたいだけみたいだけどね。


 そして30日間、基本的には俺と香織さんと召喚獣たちだけで、スキル使用は禁止されながら延々と戦いと修行を併せて行いながら地道に階層を重ね続けて行った。

 ようやく師匠たち待望の隠し部屋が見つかったのは163階層だった。


 あれ?

 探索の目的って、深層を開拓する事じゃなかったっけ!?

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