第136話ーーやらかしちゃった気がします
名古屋に戻って来て、また次元世界の中で修行中だ。
野沢温泉に行く前と変わった事といえば、師匠とハゲヤクザに鬼畜治療師が時折修行に参加するようになった事くらいだろうか。ただ3人同時ではない、それぞれが合間合間に来るといった様子だ。更に修行ではなく明らかにストレス発散といった模様で、柳生夫妻と暴れ回ったりしている。
その野沢温泉からの帰り道が酷かった……いや、もう本当に酷かった。
ダンジョンを出てすぐに協会職員の制止を振り切って近衛の人の運転するワゴン車に乗ったんだ。その直後から何度も鳴るスマホ。もちろんそれは協会の偉い人からだったんだけど、近衛の人が「どういったご要件で?」と聞くも全てが「師匠に代わってくれ」の一点張りだったようだ。でも師匠は出ずに切る事を指示し続けていた。10回以上その繰り返しをした後、ようやく「またの機会がありましたら」的な話で終わったようだ。
で、何が酷かったかと言うとだ、その事でまた師匠のストレスが急激に増えたらしくて……
「横川、次元世界を開いてくれ」
スマホとか通じない世界に行きたいのかな〜なんて当初の俺は考えていたんだけど、入るや否や分身を全て出せと仰る。理由は手合わせを行うって事なんだけど、ここまでだったらまだいつもの事だ。でも違ったんだよね。
「あぁお前は来なくていいぞ、今日は少々手加減が難しいからな」
とか言い出したわけですよ。
そして分身150体と森へ消えて行き……お代わりの命令は延々と、それは俺の魔力がカラッカラになるまで続いた。
何度か分身を通して師匠との手合わせの様子を見たけれど、それは酷いものだった。見た事もないような満面の笑みを浮かべ、まるで全身を凶器のようにして蹴散らしていたよ、分身たちを。
柳生さんに教えを請うようになってからというもの、ただ目で見たり気配察知したりするのではなく、常時そのモノや周りを魔力で見るようになったんだ。で、師匠を見ていたんだけれど全身だけではなく刀にも濃密な魔力を纏っていた。どうやら濃密な魔力は強度や威力、鋭利さを増したりもするようだ。しかも常に纏うのではなく、インパクトの瞬間だけ纏うという器用さ……それにより魔力が尽きる事もなく永遠と作用させていられるという事がわかった。あとは……よく「精神統一しろ」とか「精神を乱すな」って言われてたんだけど、その意味もよーくわかった。さすがの師匠もストレスのせいで乱しているようで、時折纏う魔力が必要以上に大きくなったりするのだ。その事により、たった一振で分身数十体が真っ二つになったりしてたし……あれが理由なんだろうね、「手加減出来ないかも」ってやつは。
あんな姿を見せられたらね、俺も修行に力が入るってもんですよ。だって先はまだまだ遠いってわかっちゃったしね。あと毎回軽く見られるのも腹がたつし。まずは威圧出来る程度には魔力を纏いたい。
ちなみに魔力を纏ったり押さえ込んだりするのは、うどんたち召喚獣にはお手の物だった。本人たち曰く「そもそも我らは魔力体ですので……変化も魔力の特性を活かしての事ですし」って事だ。なので召喚獣たちは戦い方をメインに鍛えている、獣・人型形態の両方で。
香織さんは俺と仲良く並んで坐禅を組んでの修行です。ただ俺は体内魔力を感じるのに苦労したけれど、香織さんはすぐに理解出来ていた。なぜなら他人に魔力譲渡を行う際に、魔力の流れを感じていたかららしい。
そもそもあらゆるスキルは魔力を元に行われているようだ。例えば魔法使い系の人たちは杖を用いて行使する。杖の役割は魔力を1点に集中させる事を容易くするためだ。1点に集中させる事により魔力を効率よく使用出来るらしい。で、俺はというと魔法使い系でもないから杖などは使用せずに、当初は腕を前方に突き出して発動させていた……当初はってのは、段々なんか恥ずかしい感じがして腕を突き出したりしなくなっていたからだ。だがこれがいけなかったらしい……腕を突き出すだけでもそこに集中させて発動を楽にさせていたのに、しない事で魔力使用に関して大きな無駄を生みまくっていたようだ。また強い術を繰り出せば出すほど体内の魔力移動を感じる事が出来たはずなのに、それをしなかった事により魔力というものに対して鈍感になってしまっていたらしい。
まぁこの辺りはうどんたちに聞いたんだけれどさ、それがわかっているならもっと早くに教えて欲しかった……少なくともこの修行のほんの少し前でも。そしたら柳生砲なんてものを2度もこの身に受ける必要もなかった気がするしね。
まぁそんなわけだから香織さんは早々に感じる事が出来て、しかも既についこの前の俺程度に若木を揺らすほどの放出を行えてたりもするのだ。
そんなわけだから、今の俺はめちゃくちゃ焦ってる。
追いつかれるのは恥ずかしい……いや、全く同じ修行をするのもそれはそれでいいと思うんだけど、なんかね。
そんな俺の今の課題は、魔力を練りながら圧縮する事も追加されている。
誰もが魔力を体内に収めている訳だが、それには限度がある。俺と香織さんは普通の人とは違い、もう1つ魔力庫を抱えている訳だが、それでも限界が存在する。練り続ける事により体内魔力庫の器も少しづつ拡がっていくようなのだが、そこで更に圧縮をする事によりこれまで以上に貯め込めるって話だ。圧縮しまくれば、それ即ち魔力も濃密になる。濃密になると各スキルも強化されるから都合がいい。例えば分身も明らかに打たれ強くなっていたしね。
さて、魔力を圧縮する修行なわけだけど……これがまた難しい。イメージは簡単なんだけどなかなか出来ない……いや、圧縮そのものは出来るんだけど、普通に何かを押さえ付けて圧縮しようとすれば反発があると思う、魔力もそれは一緒でボンッと反発して、それを上手く抑えきれなくて……行き場を失った魔力が体外に出てしまったりする。それが身体のどこから出るかが問題だったりする……
「一太くん……お腹の調子悪いの?」
お尻から出たら大変なわけですよ。
ハッキリとオナラと言わない香織さんは優しいけれど、心做しか少し離れていませんか??
「ちが、違うんですっ!!決してオナラじゃないんですっ!!」
「……大丈夫だよ、人間だもんね。うどんちゃんたちみたいに食べた物も飲んだ物も全部魔力に変換出来たらいいんだけど、私たちは違うもんね」
そうなんです、召喚獣たちの飲食物はどこに消えるのか不思議に思っていたら、全て魔力に変換して吸収していたらしいのです。だからトイレとか必要ないらしい……羨ましい身体の仕組みだよね。
って、違う!!今はそんな事どうでもいい!!
「違うんです!!これはですね……」
「大丈夫大丈夫、調子が悪いなら柳生さんたちに言おっ?ねっ?」
「ちょっと香織さん聞いてくれますか!?」
私は全部わかっているみたいに頷きながら、少しづつさりげなく離れないでっ!!
息を止めたり、口呼吸しなくて大丈夫ですからっ!!
だいたい音も匂いもするはずないでしょ!?魔力を視ているからオナラのように見えるだけで、普通にいたら何が出てるかもわからないはずなんだから!!
「…………というわけなんですよ」
「……それ本当?」
「本当です本当ですっ!」
「……わたし向こうで修行するね」
「なん……あっ!俺は気にしないですよ?むしろ本当にして貰っても大丈夫「向こう行く!!」で……」
しまったーー!!
やらかした!!
香織さんも自分の身にも起きる事だと思ったらしく離れようとするから、つい本音を言ったらドン引きされた気がする!!
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