第110話ーー何を知っているんですか?

 現在絶賛土下座中です。

 まるで五体投地のように、地面に頭を擦り付けての土下座。

 しかもそれをしているのが、師匠と香織さん、召喚獣たち以外の全員……つまり、俺とハゲヤクザに鬼畜治療師という訳だ。


「特にジジイと近松よ……お前たちがそれでどうする」

「面目ない……」

「返す言葉もございません」


 かれこれもう数時間説教されているんだけど……

 師匠、明らかに酔ってるっぽいから、延々と同じ説教を繰り返しているんだよね……

 香織さんはその後ろで、顔を真っ赤にしたまま獣姿の召喚獣たちに囲まれて、モフパラ中。


「コラ横川っ!何よそ見をしているっ!」


 これって本当にいつまで続くんだろうか?


 こうなった訳は、4日ほど前まで遡る。

 それは108階層を探索中の出来事だった、うどんが「隠し扉が出来ております」と報告してきた事から始まったのだ。


 通常10階層毎にボス部屋の扉が存在するが、その他の階層には出現する時は隠し部屋がある時以外ない。それは滅多に現れず、過去に発見し侵入し帰還した者たちは、一財産築けるほどのお宝を持ち帰った者も多いと噂される。それ故に、いやそんな事があるからだろう……シーカーに夢を見てしまう者が多いのだ。そして身の程を弁えずに無茶な探索に臨み、帰らぬ人となる事も少なくない。

 また隠し部屋の中はどうなっているのかわからないとされている。例えばスライム溢れる階層で見つけたにも拘わらず、中に入ってみたらオーガがひしめいていたなんて話や、ドラゴンに追われて見つけて入ったら、中には山ほどの宝と、1階層へと戻る転移陣しかなかったなんで話もあるくらいだ。

 そんな隠し扉が鬱蒼と繁った森林に隠れるようにあった。それは行きには見かけなかった物だ。


 うどんから報告を受けた俺は、もちろんすぐに師匠へと伝えた。そして協議となった、行くか行かないかである。

 全てのシーカーが発見を夢見る扉であるから入ってみたいが、未知の危険が存在し全滅する可能性も否めないためだ。ただ師匠たちも人の子……目を輝かせソワソワしていた。問題は俺と香織さんなのだ、まだまだ半人前で子供である俺たちを、連れて行っていいのかを悩んだ挙句……俺と香織さんは覚悟を問われ、何があっても恨まないというか己の責任において臨む事を決意した結果、隠し扉へと侵入する事となった。

 問題はもう1つあった、東さんたちをどうするかだ。で、師匠たちは連れて行かないと言うのだが……


「どんな危険があるかわからないですし、今回の探索では初心者シーカーの真似をさせているのかもしれませんが、隠し部屋内では真価を発揮して貰ってもいいんじゃないですか?」

「……お前は」

「小僧……」

「やれやれだね……」

「一太くん……」

「「「主様……」」」


 えっ?

 なんなの?

 師匠たちどころか、香織さん、そして召喚獣たちまでもが口を揃えて呆れた表情で俺を見てきたんだけど!!


「な、何なんですか!?」

「ふぅ……あのな、この際だからそろそろもう言っておくぞ?あれはフリではなく、真実の姿だ」

「……またまた、そんなわけないですよね?たった101階層のゴブリンに怯えて情けない声を出すとか」

「いや、真実だ。あれは本気で怯えているぞ?」


 まさかそんなわけないよね?

 だって世界的TOPパーティーだよ?今回の探索にしたって「軽く150階層まで行ってきますよ」だなんて、白い歯をキラリとさせて言っちゃってたくらいだよ?それが、それがそんなわけないって。


「主様、以前私が狐の姿で襲ったのを覚えておいでですか?」

「もちろん」

「その時亀のように盾に隠れるばかりでしたよ?それに少々漏らしている者もおりましたし」

「……うーん」

「一太くん、私は少しの間一緒に探索していたけれど、60階層まで行くのも12人で必死になってやっとだったからね?」

「そうなんですね……」


 香織さんが言うならそうなのかな……?でもなぁ、師匠たちと一緒だったとはいえ以前に170層近くまで行ったんだし、それから5年も経っているんだからそこまで弱いわけないと思うんだよね。


「ふむ、少し待っておれ」


 そう言って休憩地から森へと消えたハゲヤクザは、四肢を切り落としたゴブリンを2匹持ち帰って来ると、東さんたちのテントの前に放り投げた。


 四肢を切り落とされでもなお、戦意を失わず、醜悪な顔を更に歪め、その場の空気を揺るがすほどの咆哮をあげる。


「ひいっ!な、何だ!?」

「早く殺せよっ!」

「見張り何やってんだよ!」


 叫びはするが、テントから出てこないばかりか、テントの中で盾を必死に構えている姿がそこにあった……


「これでわかったか?」

「……はい」

「前はもう少しマシだったんだがな……まぁあの件もあるせいだろうがな」


 あの件って何かわからないけれど、言いたい事はよくわかった。


「でもあんな感じなのに、置いていく事に納得しますかね?それと、置いて行くのは置いて行くので危険では?」

「そのために壁はしっかりとして行くし、罠も仕掛けておく。それとな、まぁあんな姿ではあるが、ステータスやスキルなどを考えれば、冷静に対処すればそう簡単に死ぬ事はない……はずだ」

「ポーションも置いておくし、治療師が3人もいるんだ大丈夫だよ」


 東さんたちの事はわかったけれど、香織さんは友人である金山さんたちの事は心配じゃないのかなって思ったけれど、どうやら師匠たちを信頼……つまり師匠たちが大丈夫と言っているんだから大丈夫だと信じているようだ。


 そこからはより深く堀を張り巡らさせたり、壁を何重にも建てたりと忙しかった。東さんたち一行への説明は師匠がするらしい、その時に影に分身を潜ませるようにと命じられた。


「全員にでいいんですね?」

「うむ……ダメだ、男だけにしろ。お前は余計な事に注視しそうだからな」


 確認した俺がバカだった!!

 トイレとかは見る気はないけれど、着替えとか見ちゃってもしょうがないよね……なんて思っていたのがバレてしまったよ。


 仕掛けをしっかりとしたところで、香織さんと召喚獣たちだけ先に行かせる事となった。師匠たちは説明、俺は影へ分身を潜ませるために残ったという訳だ。


 その際の東さんたちの様子は見るに堪えないものだった。目を血ばらせて、自分たちの身の安全の確保を喚きまわる。そして隠し扉の先へ連れて行け、分け前を寄越せと騒ぐ者も少なくなかった。

 正直なところ幻滅だ……幻滅しかない。ただ俺はそれに目をつぶるようにして、命じられた仕事をこなしていく。


「喚き騒ぐとモンスターが美味しい餌を見つけたと寄ってくるぞ?」


 俺が仕込み終わった事を合図すると、師匠が顔をニヤリと歪めて笑うように言うと、騒いでいた人たちは揃ったように口を瞑り顔を青くした。


「まぁしっかりと守りやすいようにしてある、6人づつ交互に見張りに付けばなんとかなる。軽く150階層まで行ってくるなんていう言葉を吐くくらいだ、やってみせろ。あぁもう帰りたいなら、自力で帰って構わないぞ?我らも無事に戻れるかは保証出来ぬからな……行くぞっ」


 師匠の言葉と共に一気に4人で駆け出し、香織さんたちが待つ隠し扉前へと急ぐ。

 その際に分身を介して送られてきたのは、呪詛とも言えるほどの言葉を呟く東さんたちの姿だ。


「横川、何を誰が話していたかをしっかりとメモさせておけ」

「我らが居なくなれば、密談は密談ではなくなり、ハッキリと口にするだろうからな」

「はい」


 そうか、ここに置いて行くのにはそんな理由もあったんだね。


「それにしてもなんかガッカリしました」

「人というものはな、心の均衡が少しでも崩れると、一気に大きく崩れてゆく事がある」

「まぁ魅了によって、心の弱い所を突かれてしまったんじゃろうな」

「どんな甘美な言葉だったんだろうね〜あんたも気をつけるんだよ」


 甘美な言葉か……

 何がどう気を付ければいいのかわからないけれど、気を付けないとね。


「まぁアレだ、お前は気が多くて不安定に見えるが、何だかんだ如月くんにしゅうちゃ……夢中だからな、そのままで居ればいい」


 執着って言おうとしました!?

 俺の純愛を!!


「純愛と言えば何をやっても許される訳では無いからな?」


 えっ!?

 えっと……どこまで知ってるんですか!?

 何を知ってるんですかっ!!?


「よし着いたな、行くぞっ!」


 行くのはいいけど、先に教えて下さいっ!!







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