第107話ーー嬉しいけれど嬉しくない望み

 1日あたり1〜2階層づつだが、着実にゆっくりと攻略は進んでいる。


 相変わらずだが、基本的な戦闘は全て俺と先輩、うどんたち召喚獣だけだ。階層内を走り回りながら延々と戦い続けている、師匠たちと東さんたちパーティーに見守られながらね。東さんたちも役者だよね、俺たちが後ろにモンスターを行かせてしまった際には、「うわあっ」とか「き、来たぞっ!」なんて悲鳴まであげるんだから。近くで守りながら一緒に進むのが1番楽なような気もするけれど、それでは追い詰められて敵の得意な戦場となってしまうためという事で、積極的に前へと出て逆にモンスターを追い詰めていくように戦っているんだ。


 キツい……

 ドロップを拾うのは分身に任せているんだが、ドロップを餌にしたり、仲間であるはずのモンスターを半死半生にしておいて、近寄ってきたところを襲うといった罠をはるモンスターまでいるのが厄介なんだ。戦っていて思う……俺って結構素直な人間なんだなって。それほどまでに卑怯で残忍な罠が多い。

 更には、相変わらず砂袋人形を背負わされているんだけれど、明らかに日に日に重く大きくなっているんだよね。最初の頃は、確かに砂袋だったはずなのに、今や頭の部分は鉄のような重い塊に変わっているし、手足の所々にも鉄があり増えていっている。しかも俺より小さかったはずの袋は、今や引き摺るしかないような大きさだしね。もちろんさすがに苦情を言ったけれども、「気のせいだ」しか言わないから諦めた。


 そんなのでも何とか目標の150階層まで来れた俺と先輩は、かなり頑張ったと思う。


「とりあえず、今回の探索はここまでとする。疲労回復のために、2日ほどここで休んでから100階層まで戻る」


 良かった……

 キツい事はキツかったけれど、大きな怪我もなく来れたから、魔法陣使用するために200階層まで行くとか言われたらどうしようかと思っていたんだよね。


「一太くん、お疲れさま」

「香織さんもです」


 聞きました?

 遂に下の名前で呼んでくれるようになったんですよ!!

 しかも俺も先輩呼びではなく、下の名前で呼ぶようになったんです!!

 これは戦闘中に召喚獣たちが「香織」と呼ぶのに、俺だけ先輩なのが違和感があるという事で、先輩から「同じように呼んでくれる?」だなんて言われたんです!!でも突然「香織」だなんて呼び捨てに出来る訳もなく、「香織さん」と付けで呼ぶ事になったんだよね。

 そこで、では召喚獣たちが「主様」だなんて呼ぶけれど、そちらに統一して先輩が俺の事を「主様」呼びするかって話になったんだけど……それはそれでなんかそそられるけれど、当然問題なので、同じように下の名前で呼んで欲しいとお願いしたら、OKしてくれたんだ。

 名前繋がりでついでに聞いてみた、未来のお義母さんのモフ川呼ばわりの事。「お母さんさんが勝手に言ってるのっ、ごめんね」って言ってたよ。お義母さんが勝手になら仕方ないよね!えっ?そうなった原因があるはずだ?そんな事は気にしちゃいけない、気にしない。現在、「一太くん」と呼んでくれているんだから、それでいいのです。

 

 これって確実に、確実に距離近くなってるよね!? もしかしたら次のデートは2人っきりも有り得ますか!?

 この事だけでも、今回の探索の成果ってもんだよね。


 あと、召喚獣たちは俺と香織さんのダンジョンデートを邪魔していただけじゃない。3匹は嗅覚なのか、ここまでに5つの宝箱を拾ってきたんだ。中身は炎の短剣、麻痺の短剣、毒の短剣、エリクサー、鑑定のスキルスクロールだ。短剣シリーズを開けたのは俺で、エリクサーとスクロールを引き当てたのは香織さんだ……俺が引きが弱いのか、それとも先輩が強過ぎるだけなのか……是非後者だと思いたい。

 師匠に確認したところ、短剣シリーズは各20〜40万円前後、鑑定のスクロールは50万円前後で売れるだろうとの事だ。エリクサーに関しては、万が一のために取っておいた方がいいだろうという事で、香織さんのアイテムボックスへと放り込まれる事となった。

 ちなみに鑑定のスクロールを俺が使う事を香織さんからお勧めされたんだけとれど、使用出来なかった……どうやら適合しないらしい。まぁ今は鑑定出来る香織さんも一緒に行動しているし、うどんたちも物が何かわかるようだから、別に問題はないんだけどね。


 ここまでの階層での休憩は、陣地を土壁を二重にして囲み、更にはその前に堀を作り、またその向こう側に氷壁や炎壁を建て、また堀を作ってと厳重な守りとしていた。ただ隙間なく建ててしまうと、向こう側でモンスターが何をしているかわからず、却って危険であるという事で所々に人一人通れるほどの隙間が設けてある。そして最後……つまりテント近くの所で、俺と先輩が分身と召喚獣たちと共に交互に見張るという形だった。

 だがこの階層に多くいるゴーレムたちは、それほど狡猾でも攻撃的でもないために、同じように壁は作るものの、分身だけでの見張りで寝ていいという事なので、久しぶりにじっくりゆっくり寝れた。


 それにしても、東さんたちパーティーに拠点士や拠点結界士がいない事にビックリしたよ。以前読んだ雑誌には、連れて行くとか書いてあったと思ったんだけど、記憶違いだったのかな?もしくは俺たちを鍛えるためか……うん、多分こっちだよね。じゃなきゃ、俺たちが壁を建てている時に、さっさとテント張って休憩に入るなんて出来ないだろうしね。ただ俺たちや師匠たちが近くにテントを張っているせいか、想像したような男女のイチャイチャだけは我慢しているようだけれど。

 ただ気になる事もある、イチャイチャするのを邪魔してやろうと影の中に分身を何体か仕込んで置いたんだけれどさ、何かまるで師匠たちが俺たちを無理矢理シゴいているかのように……いや、まぁそれは確かなんだけれど、まるで悪者で、俺たちが可哀想だなんて事を話し合っているんだけれど、どうしたんだろうか?しかも東さんや瓦崎さんという一全の人までもが同じ事を口にしているんだけど……まぁ金山さん田中さん秋田さんが、友人である香織さんの事を心配するのはわかるけれど、それにしても少し言い過ぎなんじゃないのかな?なんでこんな事になっているのか……うーん、気になるけれど、どうやって聞いたか問題になるから言えないしな……とりあえず、もうしばらく影には分身を仕込んでおこう。


 ちなみに、ここに到るまでの休憩時だけは、ハゲヤクザと鬼畜治療師は師匠の所に来ていた。そんなわけで、あれほどに詰め込んできたお酒の数々が既に3分の1程度にまで減っている……東さんたちに渡している様子もないから、3人で消費しているという事だ。そして先日手に入れたワインが無限に出てくる革袋を掲げて「これはやはりありがたいな」だなんて言ってるし、更には「小僧、次はウィスキーとか日本酒が湧き出る革袋を出せ」だなんて言い出す始末だ。アレでアル中じゃないって言うんだから、酒とは恐ろしい。


「横川、あの金のゴーレムだがな。何十万分の一の確率だが、あの形そのままの金が出てくる事がある」


 寝起きにハゲヤクザの作った美味しい料理をたらふく食ってたら、師匠が凄い情報を教えてくれた。


「アレって何kgくらいあるんですか?」

「kgどころじゃない、あれは一体で3トンは下らないな」

「凄いですね!」

「だろう、どうせ背負うならそちらの方が嬉しいだろうから頑張れ」


 えっ?

 今なんて言いました?

 3トンもある金の塊を背負えと??

 それを俺が嬉しく思うと??

 全く理解出来ないんだけど!!

 金塊は出て欲しいけれど、出て欲しくないっ!そんな事になったら地獄じゃないですか!


「ほれ、狩って来い。この階層は東たちも金稼ぎに狩るそうだから、早い者勝ちだぞ」


 金儲けになるのは嬉しいけれど、嬉しいけれど……

 ちくしょうっ!!

 どうせ金塊が出ても、砂袋に詰められるんだろう事が想像できちゃったよ。



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