第39話ーーカポーンッ
授業はスムーズに進んだ。
これは知力が上がったせいかもしれない、以前より理解出来る気がしないでもない。
正確なところはわからないけれどね。
だがそうであって欲しい、いやそうあるべきだっ!
あの苦痛と苦難の成果は、ステータスの上昇だけではないと思いたい!
そして放課後、久しぶりに3人で訓練施設へと向かう。
「なぁヨコさぁ、ID交換してなかった?」
「うむ、溢れ出る魅力に気付いたらしい」
「師匠さんに身辺気をつけろと色々言われてるのに大丈夫か?」
「悔しいのか?んっ?俺が先に大人になってしまうのが」
「ないな、それはない。それにどうせキムに近付くためだったっていうオチだろ」
そんな気がしないでもない……
いや、知力も上がったおかげで知的な雰囲気が醸し出しているに違いない。
このメガネに負けないほどの!
「いや、マジでハニトラとか気を付けろよ?」
「トラップでもいい、ハニーな目に会いたいっ!高校2年生を青春したいと思わないのかっ!?」
俺は思うね、ステータスチェック以降全く高校2年生って感じがないし。
jobが出たのは嬉しかったけど、こんなまるでどこかの少年誌より激しい修行生活になるとは思ってもいなかったんだっ!
「まぁそう思わないこともない」
「確かに」
「いや、キムは選ばなきゃすぐだろ?」
「不倫はちょっと……」
あぁそうだった……
こいつは熟女好きだった。
ってか、「すぐ」ってところは否定しないところに腹が立つ。
俺もそんな事を言ってみたい!
青春を夢見つつ、現実である訓練施設へと着いた。
そこにいたのは教官と高木さんだった。
「なぁヨコ、あの教官の横の人見た事ないか?」
「俺は知らん」
アマは何となく覚えていたらしい。
さすが俺に次ぐ知力を持つだけある、うん。
「キムも会ったことあるぞ」
「どこで?」
「ステータスチェックした時、栄ダンジョンにいた人だ」
「あー確かに」
「うむ、そしてあの人が、俺たちの青春を奪った元凶でもある」
「「はっ?」」
ちょうどその話をしていたせいか、2人の反応が顕著だ。
そこで渥美の旅館で本人から聞いた話を説明したところ……
「あいつのせいで……」
「あいつさえいなければ今頃どこかのお姉さまと……」
ちょっと前までなら、「「あの人のお陰で師匠たちに出会えた」」とか目を輝かせていたと思うけど、恨めしく思えるという事はやはり洗脳は解け始めているようだ。
いい傾向である。
ただキムよ、お姉さまって歳か?お前の好みは……ちょっとそこの所が気になる。
「やあ横川くん久しぶり」
俺たちの恨めしい視線に気付いているのか気付いていないのか、呑気に声を掛けてきた高木さん。
「何でいるんです?」
「あぁ横川くんの鑑定阻害のスキルレベルを上げるためにね、今日はずっと鑑定し続けに来たよ」
「あぁ……」
「そんな事よりも高木さんっ!あなたのせいで僕たちの貴重な青春がっ!」
天野くん、そんな事とはなんだね……
そしてキャラがブレてるぞ?
やはり俺がID交換した事が悔しいに違いない。
「青春?……あー今日訓練後に良かったら3人に食事奢るよ」
「食事とは?」
「焼肉は?」
「食い放題以外で手を打ちましょう」
えっ?
俺が口を挟む前に纏まってるんだけど?
ねぇ、俺の意見はよ!
なに焼肉とかで手を売っちゃってるんだよ!
ここは綺麗なお姉さんがいる店に連れて行ってくれとかじゃないの?……俺たちの年齢で行けるかどうかは知らないけどさ。
「遅いっ!」
あっ、そういやここは訓練施設で教官もいるんだった。
そういえば教官との手合わせなんてかなり久しぶりだ。約3ヶ月ぶりくらいかな。
「ではスキル使用での手合わせするぞ」
この3ヶ月だけで、かなりステータスもスキルも上がったし、新しいのも生えた。だから、勝てなくとも互角程度に戦えるかと思ってたけど……ボコボコにされた。ただ1、2本はいれれたので成長はしてるとは思う。
そしてその後、高木さんと焼肉に行ったんだけど、めちゃくちゃ食ってやったよ!!
最初は余裕そうな顔していたけど、お会計の時には少し半泣きになっていたので、ちょっとスッとしたのは言うまでもないだろう。
翌日、まぁ問題の昨日なわけだが、土曜日という事もあり朝から訓練となった。
クラスのビッチからLINEで「今日一緒にダンジョンとかどうかな?」って、可愛いスタンプと共にお誘いが着たというのに、泣く泣く断る事となったのだが……その訓練がなぜか午前中で終わった時には、スマホに飛びつきそうになったね、午後からデートのチャンスがやって来たって。
まぁそんな上手く行くことも無く……というか、午前中だけで素直に訓練が終わるわけないよね、冷静になって考えれば。
教官に車に押し込まれ……着いたのは高級住宅地だった。
教官が駐車場に車を停めてから歩いたんだけど、ずっと続く白い塀……終わらない高い壁。それは約200mほど続いていた。教官に後から聞いたところ、数千坪の敷地をぐるっと囲んでいるそうだ。
名古屋でも有名な高級住宅地を数千坪……儲かってるんだなぁという感情しか浮かばなかった。
ようやく玄関に辿り着いたのだが、またここでビックリ。何でかといったら、時代劇に出てくるような、城前にあるような観音開きの木製の大きな門だったからだ。
ちょんまげ姿の侍が番をしていても、全く違和感ない感じ。
そう、ここは一全流本部であり、織田家本家らしい。
「今日は何ですか?」
「知らん、俺は連れてこいと命じられただけだ」
でかい門の横にある、小さな入口から入って、左右に日本庭園を見ながら歩いている時に聞いてみた。
全く役に立たない教官。
不安しかない。
……今回は切腹案件はないはずだ。
それに本家なら、ダンジョンが生まれたとかもなさそうだし、歩いて行ける距離にもダンジョンはない事は知っている。
うん、わからん。
門から数分歩いたところで、ようやく屋敷が見えた。
それは巨大な日本家屋。
テレビや映画で見るような、ししおどし?竹がカポーンっと鳴るやつ、圧倒されている中つい「あれって大雨の時とかうるさそう」なんて意味のわからない事を考えてしまうほどに呆然としてしまった。
いや、小学生の頃にカポーンに憧れて、七夕で使用した竹を再利用して作ったはいいものの、常時水が流れている場所なんて孤児院にあるはずもなく……雨樋の下に設置したところ、雨の日にカポーンカポーン絶え間なく鳴り響いてうるさかったんだよね……先生たちにめちゃくちゃ怒られたし。
「こっちだ」
案内されたのは、大きな日本家屋の方ではなく、隣にある少し小さめ……小さめといってもまぁ大きいわけなんだけど、そんな屋敷の方だった。
戸惑いながら着いていくと、開け放たれた玄関があり、その前に着物姿の壮年の男性が立っていた。
「若の命により、横川を連れて参りました」
「ご苦労さまです、ここからは私が案内致します」
「はっ、よろしくお願い致します」
教官に背中を押される俺……まるで荷物の受け渡しだ。
「ではな横川、粗相のないようにな」
「えっ?帰っちゃうんです?」
「あぁ、俺はここまでだ」
マジかよ……
不安しかないんだけど。
「私の名は近衛班の山岡誠三です、あのハゲの三男ですので気軽にして下さい」
「あのハ……組長の?」
「そうですそうです」
危ねー
どこで聞いてるかわからんから、下手にここでのってハゲとか言って後でボコられるのは勘弁して欲しいところだ。
って、山岡さんは全員武術班かと思っていたけど、そうでもないんだね。
「ではこちらへどうぞ」
靴を下駄箱にしまい、木張りの廊下を歩いていく。
何度も曲がったりしていて、まるで迷路のようだ。今ここから玄関に1人で戻れと言われても、帰れる自信がない。
「こちらで待っていて下さい、後でまた呼びに参りますので。それと武器などは持ち込み禁止ですので、そちらの魔法袋はお預かりしますね」
そう言って、俺の魔法袋を持って戻っていく誠三さん。
俺は指示された部屋に入ろうと襖を開けると、そこは広間で、10人ほどの若い男女が緊張した面持ちで正座していた。
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