第28話百合(百合編)
「俺はこいつの彼氏だ!」
私の目の前に立ち、高津を寄せ付けようとさせない姿に私は鶴見恭吾の手を握り、高津と対面していた。
鶴見恭吾、彼の力強い心意気を高津の前で私は一心に受け取ることで彼に安堵感が生まれた。
この人なら私にまっすぐに向かい合ってくれると信じた。
店長のおかげでもあり、高津を店から帰らせることが出来た。その夜私は恭吾に抱かれた。
その夜、恭吾のぬくもりを感じ朝まで抱き合った。それからというもの、私は彼を恭吾と呼び、彼は私を百合と名前で呼ぶ。それがとても心地よい。
私は毎晩のように恭吾に電話や会いにいきたくなり、私は非番の日にも店に駆けつけ、恭吾の仕事終わりに食事に誘う。京都タワーのスカイラウンジ
黒のバンが彼、恭吾の前に止まり、黒ずくめの男連中が恭吾の頭から布をいきなり被せ連れ去った。
私は叫んだ。
「恭吾、だっ誰か、助けて!」
しかし黒のバンは勢いを増して走り去った。
私は動揺してその場に崩れ去った。その時だった。私の携帯が突然深夜の四条通りに鳴り響く。スマホの画面をみると非通知。いつもなら出ないが、その時は動揺しながら電話に出た。
「もしもし…」
「ちょっと彼氏を借りるぞ。すぐに返してやる。その代わり警察に電話した時点で終わりだ」
「なっ何が目的なのよぉ!」
「詮索した時点で終わりだからな。朝になるまでだ。朝働いてる店に行け、そうすればわかる」
男はそう言うと電話は切れた。
私は警察に飛び込もうかと思ったが、恭吾にもしものことがあると怖くなり、勝田店長に電話を入れていた。店長はすぐに車で迎えにきてくれた。勝田店長の車でとにかく京都中を走り、黒のバンを探すが見つかるわけもなく、明け方、店に到着した。すると店のポストに新聞や雑誌とともに一緒に手紙が紛れ込んでいた。封を開けるとそこにはある工場のマップにバツ印だけされて、ココにいると書かれてあった。店長と私はまた車を飛ばし山間の道を通り、ある工場跡に到着する。
そこで恭吾が柱にくくりつけられて眠っていた。私と店長の声に気づき笑顔になる恭吾だった。私は彼の縄をほどき解放する。
「大丈夫!? 何かひどいことされてない?」
「大丈夫やで、ありがとう」
「警察、警察行こう!」
「いや、ダメだ!」
「なっ何でぇ!」
「鶴見くん行った方がよくないかい?」
店長も恭吾を説得するが、恭吾は頑なにそれを拒んだ。
私だけでもその時、警察に駆け込んでいれば、あとあとの対応は変わっただろうか。だけどその時も私は、恭吾の意思に従うしかなかった。恭吾が心配だったため、その日、マンションに誘ったが、彼はそれを断った。
それからは何事もなく数週間が過ぎたある早朝のことだった。
シャワーを浴びて、浴室から出て髪を乾かしている時だった。自宅の電話が部屋に鳴り響く。昨夜の恭吾の件もあり、動揺しながらも電話に出た。
「百合?」
「お母さん」
「お父さんが倒れたらしいの」
「えっ、どこで……」
「モンテロンダの本社で、先ほど高津さんから連絡を受けてね」
「えっ、どっどういこと?」
「今日一緒に仕事をしているときに体調を崩し、病院に運ばれたらしいのよ。百合、お父さんに会ってあげて」
神戸メリケンオリエンタルホテルでの合同パーティ以来、父とは会っていない。それ以来疎遠にしていた。何度も連絡はあったが無視をしていた。父は私を自分自身で見つけに来るわけでもなく、高津を私の元へと寄こした。そんなお父様を私は軽蔑する。だからその母の言葉にも断った。
「父がどうなろうと、私の知ったことではありません」
「百合、そんなこと言わないで。お父さんね、百合のことが心配で仕方なかったよの。これから私と蓮は新幹線で東京に向かいます。あなたも準備できたら来てちょうだい。そしてちゃんとお父様に自分の意思を伝えて。そうするだけで何か解決の
「お母さん……」
「待ってるわね、百合」
私は、受話器を置いた。しばらく呆然とドレッサーの鏡に映る自分の顔を惚けながら見ていた。整理がつかないとはこのことだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます