第84話 金鷲と雛
岩だらけの険しい道が虚空から現れてくる、空と大地の接するその一点を、アマリリスは見つめ続けていた。
空はその青の深さのあまり、まるで暗いように見え、
ただ、太陽だけが白く、とてつもなく大きく思えた。
太陽の使者のような一羽の金色の大鷲が、強烈な光の中を上下に舞っていた。
背後でどしゃっ、というような音がして、アマリリスは振り返った。
「ピスキィ。。」
ヒルプシムが、水を汲んだタンクを地面に放り出し、その傍らにへたりこんでいた。
アマリリスは自分のタンクを急斜面に立て掛け、ヒルプシムの方に降りていった。
無言で従姉妹の顔を覗き込んだ。
ほこりだらけの顔は、唇も眉もへの字にゆがみ、音もなく流れる涙が、その両頬にふたすじの川を作っていた。
以前ならイライラして仕方なかったヒルプシムのどん臭さではあった。
今さらのように、ヒルプシムが一人ぼっちになってしまったことを思い出した。
父はオステオスペルマム脱出の時の戦闘で、母親は、逃走の途中に熱病で、命を落としていた。
「泣かないで、ピスキィ。」
アマリリスはヒルプシムのかたわらにひざまづき、彼女の髪についた土埃を払った。
そしてその頭を優しく抱いた。
「あなたを助けたい。
かならず、この岩山から救い出してあげる。
一緒にカメリアに行こう。
映画女優でもいいし、二人で山羊を飼って、畑と果樹園を作ろう。
あたしと、あなたのカレシも呼んで、みんなで暮らそう。
だから泣かないで、ピスキィ。」
アマリリスは静かに話しかけながら、ヒルプシムの巻き毛に頬擦りしていた。
ヒルプシムを力づけようとして励ましているのではなかった。
アマリリスは立てとは一言も言わなかった。
ただ、ヒルプシムが必ず救われるのだということを信じたかった。
そうでなければ、この世にはあまりにも慈悲がなく、愛する心も、魂の善良も幻想でしかなく、
それらを信じたまま死んだ人たちが報われない、信じて生きている自分達に望みがないと思った。
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