第65話 見捨てられた土地
当初、ラフレシアへ逃げのびる経路として、カラカシス山脈の峠を北に抜けるルート、西のトレヴェシア海から海上に出るルートの2つの候補があった。
当初から予想されたことだが、第一候補の山越えは、不可能だと分かった。
生き残ったウィスタリア人や、アムスデンジュン人から得た情報だと、アザレア市と、
ラフレシア領北カラカシスの都市、ウラジカラカシスを結ぶ山越えの街道の峠では、
今も相当規模のアムスデンジュン軍が防備をかため、ラフレシア軍を足止めにしているらしい。
そんな所を通り抜けるのは不可能だった。
とすると、海上ルートからの脱出しかない。
今も隊列は、すずかけ村を過ぎて更に西、トレヴェシア海を目指して進んでいた。
このルート上に、アムスデンジュン軍がいる可能性はごく低い。
中央盆地を西に抜けてしばらく行くと、そこからトレヴェシア海まで3日程度の行程には、カラカシス全体でも、最も不毛な土地のひとつが広り、ほとんど人間が住んでいないからだ。
安全なのは結構だが、そのかわりこの地域に入ったら、食料の補給は期待できず、そもそもラフレシアに脱出する手段が見つからないかもしれない。
破滅の袋小路に向かっている懸念は誰の胸にもあったが、他に道は残されていなかった。
長い長い難民の列が、緑濃いウィスタリア盆地から、灰と紫の見捨てられた土地に吸い込まれて行った頃、
アムスデンジュンからウィスタリア東部にかけて、タマリスク本国からの援軍が続々と到着していた。
無統制状態が続いていたウィスタリアに残留するアムスデンジュン騎兵も、彼らの下で統制を取り戻し、各地に隠れ、あるいは逃亡したウィスタリア人を追い始める。
彼らはやがて気付く。
ウィスタリア領内で、複数の小隊が遭遇し、手痛い反撃をおって放逐された、数千規模の難民の群、『
オステオスペルマム市でタマリスク、アムスデンジュンの兵士を殺して逃亡したという、大胆不敵な集団との類似に。
誰もが呆気にとられた。
あの時は、タマリスクの指揮系統も混乱していて、被害状況もはっきりせず、難民たちはコルムバリアに逃亡したのだと思われていた。
しかし、砂漠の遊牧民を使っての捜索でも、手がかりは得られず、情報が錯綜するなか、オステオスペルマムでの事件の存在自体、信憑性を疑う声が出ていた。
それがまさか、
つくづく、ウィスタリア人の考えることというのは意味が分からなかった。
ともあれ、『不可視の士師』のウィスタリア人も、優先目標に加えられ、探索任務専門に投入された特殊兵が、獰猛な猟犬の群れのように、彼らを追い始める。
はじめはゆっくりと、やがてスピードを上げ、着実に距離を詰めていった。
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