Love Out of Lust【愛してるがほしい】

北条むつき

第1話お洒落

「ねえ……ねえってば!」

「ん?」

「聞いてるぅ!?」


 イヤホンを耳から外し、私の方に向き直す佑月ゆずき

昼の日中、私、紫苑しおんの部屋。いつもジャレ合った後は、イヤホンで音楽を鳴らし一人の時間に浸る佑月。

 私のことは放ったらかしだ。女としては、もっと愛に溢れた行為のあとは、しんみりその太い腕の中で、ゆっくりと眠りたい。だから私はあえて佑月がお気に入りの曲が入ったところで声をかけてワザと向かせる。


 ニコリとする佑月だが、心持ちか疲れを見せていた。それもそのはず、私の部屋に来たのは、仕事が終わってからすぐだ。それも海外での仕事。飛行機を降りてその足でスーツケースを持ち、その疲れた体を私で癒すため、いつもすぐにここに来る。

 来るのはいつも突然のこと。私は基本自宅での仕事が多く、買い物や友人と外出する以外は家にいることが多いため、佑月は来る前に連絡など寄こした事など無い。いつも突然現れ、唐突に私を求める。その唐突加減が私にとっては魅力なの……。だってあなたのその太い腕と引き締まった体を体感出来るのは、短くて3ヶ月に一度。長ければ半年以上先なのだから。


 弓黒佑月ゆみくろゆずき。彼の仕事はプロのスノーボーダー。世界中の冬山を撮影のため転々しながら、夏になると帰って来る。日本では冬場の事が多い。ただし日本でのスノーボードは仕事として請け負わない。それは、マージンが全然違うからだと彼は言う。

 私には、そこらへんの事はさっぱりわからない。ただいつも思う事は、危険な雪山に登り、そこから滑降。雪崩を受けながらの撮影や、岩肌が見える岸壁を滑り降りる恐怖を聞かされた時は、流石にびっくりするし、危なく無いのかと尋ねる。

すると佑月は簡単に「危ないよ」と答えるのだ。

「そんな危ないなら何故続けてるの?」と尋ねた私に佑月ゆずきは笑顔になり、「それ辞めると俺じゃなくなるから!」と端的に言いのける。


 そんな微笑みを見せながら言われてしまうと、余計に心配になる。心とは不思議なものだ。「安全第一のヘルメット持参しろ」と冗談半分に言ってみた事がある。すると佑月は、「お洒落じゃなきゃスノーボーダーじゃねーよ!」と怒鳴った。それほど佑月にとってスノーボードは大切なお洒落な仕事なのだ。そんな彼も過去には色々と叩かれた事件があった。

 それは、彼がまだ10代の頃の話だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る