第13話 ララとケロとコカトリス肉

 しばらく竜と触れ合った後、ララは旅に戻ることにした。


「さてと。私はもう行くね」

「りゃりゃ」

「しばらくは安静にして、ゆっくり休むないとだめ」

 ララは竜を置いて行こうとした。


「りゃりゃぁ!」

 竜は離れたくない様子でララに必死にしがみつく。


「だめだよ。悲しいけど」

 とても可愛いので、ララにも一緒に行きたい気持ちはある。

 だが野生動物なのだ。連れて行かない方がいい。


「りゃーあ、りゃりゃりゃ」

 竜が甘える声を出すので、ララは困ってしまった。


「うーん。瀕死だったし、ここで放置したら……」


 またコカトリスや、他の獣に襲われるかもしれない。

 まだ魔王城近郊。生息する魔獣たちも尋常ではなく強力だ。


 そんな魔獣に襲われたら、今度こそ助からないかもしれない。可哀そうだ。

 一度、助けたのなら最後まで面倒を見るべきなのかもしれない。


「じゃあ、一緒に行く?」

「りゃありゃっりゃ!」


 嬉しそうに竜はララに体をこすりつけた。

 その時ララの視線に、コカトリスの死骸が目に入った。


「あ、そうだ。コカトリスの死骸、このままにしない方がいいね」

「りゃあ」


 ララはコカトリスの死骸を解体していく。


「それにしても凶暴なコカトリスだったね」

「りゃあ?」

「死骸を放置したらアンデッドになるかもだからダメなんだよ」

「りゃあ」

「それにコカトリスの爪とか鶏冠とさかは錬金術の材料になるし」


 兄に教わった通りに、ララはコカトリスを解体していく。

 めぼしい素材を回収した後、死骸を炎の魔法で焼却した。


 そしてララは竜と一緒に歩きだす。

 竜はララの肩の上に乗って嬉しそうにしている。

 そんな竜のお腹の音がグーっとなった。


「ん? お腹空いてるの?」

「りゃりゃ」

「さっき取ったばかりのコカトリスの肉、食べる?」

「りゃありゃあ!」


 嬉しそうに竜は羽をバタバタさせる。

 ララは足を止めて、コカトリスの肉を食べることにした。


「ちょっと待ってね」


 ララは鞄からコカトリスの肉を取り出した。

 ちなみにララの鞄は錬金術の練習がてら自分で作った「魔法の鞄」だ。

 中身が不思議な空間になっており、容量が非常に大きくなっている。

 それに中に何を入れても質量が変わらない。

 その上、中に入れた物の状態も変化しない。


 非常に貴重な品だ。

 とはいえ「魔法の鞄」は失われた技術ではない。

 大きな街なら買える。

 だがとても高級だ。一つの値段が優秀な冒険者の年収ぐらいするのだ。

 余程の豪商や王侯貴族以外、「魔法の鞄」は使わない。


 とはいえ、ララは魔王の娘にして侯爵なので、王侯貴族である。

 使用していても、何もおかしくはない。


 だが、ララの「魔法の鞄」は容量が規格外の多さだった。


「えっと、焼いたお肉と生のままのお肉、どっちがいい?」

「きゅきゅぅ?」

「とりあえず野生の竜だから、生で食べたいかな?」


 ララは生の肉を一口サイズに切って、竜に差し出す。


「りゃむ、はむはむはむ、りゃむう」

 一生懸命、竜は肉を食べる。

 ララは、ひな鳥に餌を与える母鳥になったような気分になった。


「血もいっぱい流れていたし、いっぱい食べて体力つけないとね」

「はむはむはむ、りゃむ!」


 そしてあまりにも竜がおいしそうに食べるので、ララも空腹を感じた。

 コカトリスの肉を焼いて、自分も食べる。


「うん。普通の鶏肉より、たんぱくな味だけど、おいしいね」

「りゃりゃ」

「コカトリスは頭部の形だけじゃなく肉の味も鶏に似てるんだねー」

「りゃむ」

「焼いたお肉も食べたいの?」


 一生懸命、竜は口を開けている。いよいよ、ひな鳥のようだ。

 ララは自分も食べながら、竜の口にも焼いた肉を入れていく。

 食べっぷりから考えるに、竜は焼いた肉の方が好きらしい。


「君、名前あるの?」

「はむはむ。りゃむ?」


 竜は一生懸命に肉を食べながら首をかしげる。

 それを見てララは竜に名前はなさそうだと思った。


「そうだねー。うーん。ケロかな?」

「りゃあー?」

「ケルベロスからとったんだよ。」


 ケルベロスは、別名を地獄の番犬という。

 頭が三つあり炎を吐く恐ろしい犬の魔獣だ。


「コカトリスなんかに負けないケルベロスみたいに強い竜になるんだよー」

「りゃあ!」


 食事を終えると、ララとケロは移動を再開する。

 特に急ぎの旅ではないとはいえ、ララの進みはあまりにも遅い。


「ふんふーん」

「りゃありゃーあ」


 ララは元の道がどちらにあるかわからないぐらい迷っている。

 だが迷っていることにすら気付いていない。

 だから暢気に元気に歩いていった。


「あ、珍しい薬草があった! 採集していこうね」

「りゃあああ!」


 ララとケロはご機嫌だが、気が気じゃないものが一人いる。

 魔王からララの護衛を任された近衛騎士である。


 騎士は焦っていた。

 魔王からは「どうしようもない状況まで、見守るだけにしろ」と命令されている。

 とはいえ、ララは街道からどんどん離れていっているのだ。


 そろそろ「どうしようもない状況」と言っていいのではないだろうか。

 騎士は悩んだ結果、もう少し見守ることにした。



 騎士が見守ってくれていることにも気づかずに、ララは歩く。

 本来ならば歩きにくいはずの、道なき道をどんどん進んでいった。

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