加トのべる

加東春

天才

若者たちが道端でたむろして不平不満を漏らしていた。

「あんな能力を持てるなんて、やっぱりアイツは天才なんだって。」

「そうだろうな。オレたちが頑張ってもできなかったことを、平然とできるんだ。天才じゃないと説明がつかない。」

彼らはかつての友人を妬んでいた。

「それはさ、その能力が無くたって生きていくことはできる。オレの両親や祖父母だってそうだったさ。」

「でも、世の中で成功してるやつは多くがその能力を持っている。そう考えるとなんだか悔しいぜ。」

「アイツの親もそういうことができるから豊かな生活を送っている。親が天才なら、子どももやっぱり天才なんだな。」

彼らの不平不満は次第にエスカレートした。

「しかもアイツ、「少しコツを掴めば誰にだってできる」なんて言いやがる。冗談じゃないよ。」

「全くだ。凡人の苦労を知らない、想像力の欠けた天才だから言えることだ。誰にでもできるなんて気安く言うんじゃないよ。」

「あーあ、なんだか嫌になるな。結局世の中は持つ者と持たざる者に分けられるわけか。これから先もずーっと、その能力を持つ者は成功して富を蓄え、持たない者は貧しい生活を送ることになる。努力では覆すことのできない理不尽な世界だ。」

「これ以上考えてもどうしようもないな。仕事に戻るか。」

溜め込んでいた不満を吐けるだけ吐き捨て、「天才」ではない彼らはしぶしぶと仕事に戻った。

「天才」が持つ能力、それは文字の読み書き能力だった。今から500年程前のお話。

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