青春の充実度は友達の数に正比例しない

 俺、一瀬いちのせひろの高校時代の青春物語は、自分のほか、三人の登場人物でほぼ事足りる。

 いまさら交友関係の狭さを恥じるつもりはない。

 何より、それを不満に思うことが全くなかったのだ。


 あの頃はそれでよかった。

 

 全ては、四人の中で完結していた。

 遊びも、勉強も、行事も、そして恋も。

 

 何の変哲もないよくある話だ。

 消極的な男女ふたりと皆に愛される学級委員の男女ふたり。


 俺はいつも背中を押され、手を引かれる側だった。

 そんな幸運に身を任せるだけで、俺は退屈しない日々を送ることができていた。

 自分は何もしていないのに。

 

 いつか、俺も人の手を引ける人間になれるだろうか。


 いつか、あの人みたいに……。


 思えば、三人と仲良くなったきっかけを作ってくれたのはあの人だった。

 俺がそんな彼女を好きになったのはある意味、当然の流れだったように思う。


「告白すら、させてくれなかったけどな」


 まあどうせ未練なんてものは、死ぬまで続くわけじゃない。

 だから無理に次の恋愛なんか探す必要などない。


「と、言い聞かせ続けてもうすぐ二年だが……」


 自嘲するような乾いた笑いが零れる。いざ呟いてみると二年ってのは長いな。

 生まれたての赤ちゃんが二歳になるな。それはそうか。


「ちょっと大通りでも歩いてみるか」


 久々に感傷的になってしまっていたらしい。

 なんとなくまだ帰りたくなくて、少し遠回りしてみることにした。


「うげ」


 大通りに差し掛かると、街路樹に飾られたイルミネーションの光が目に飛び込んでくる。しかし驚くべきは、その街行くカップルの多さだった。誰も彼も幸せそうに、愛する人に愛を囁いている。ように見えるだけだが。


 感傷に浸るどころか、一周回って憎しみが沸き上がってきた。

 全員爆散しないだろうかなんて考えてみたが、寧ろ虚無感に胸を埋め尽くされた。


 はあ。

 小さくため息を吐くと、その水蒸気は街の空気で忽ち水滴に変わり、白を帯びて煌く景色に消えていく。

 周りを見渡せば、会話に花を咲かせ、笑顔も咲かせた恋人たちからも白が漏れ出している。それはまるで雪が空に舞い上がっていくように見えた。


 ぐっと伸びをして、空を仰いでみる。千葉と違ってオリオン座さえ見えない夜空は、まるでバケツをひっくり返したようだ。見入った俺は、思わずその場で立ち尽くす。

 

 こんな退屈なまま、大学の四年間が終わってしまうのか……。

 

「あ、ごめんなさい」


 急に立ち止まったので、誰かが背中にぶつかってしまった。謝ろうと振り返る。


「こちらこそすみま……え」



「あっ、ひさしぶり」



 この日俺は、彼女に再会した。

 運命的なタイミングとしか言いようがなかった。


「た、たちばな……?」

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