組長の見合い2
「ど、どうぞ……」
「申し訳ありません。お構いなく」
にっこり微笑む可憐な少女は
組長を見るとどこか面倒臭そうでで幸とも目を合わそうとしない。一体わざわざ押しかけてきて何の用なのだろう。ニコニコと出されたコーヒーを飲み寛ぐ少女の目的がわからず構えてしまう
「えっと……あれ? 町田さんは?」
幸はふと町田いない事に気がついた。確か光田が買い物をして一緒に来ると言っていたはずだ。幸の言葉に組長が「あー大丈夫だ」とだけ呟く。バツが悪そうで頭の後ろに手を当てている。しかし……。
待合のソファーに座る二人は本当にお似合いだ。じっと見ていると心が幸の視線に気づき柔らかく微笑む。
「この方が司さんの思い人ですね?」
「ちがう。俺の
「さらっと嘘ほざかないでくださいね」
心が幸の顔を見てほうっと感銘の声を出す。手を前に組み微笑む心の姿は絵になる。
「幸さんのお肌はすごく艶やかでらっしゃるのね、何か秘訣でも?」
「あ、美容鍼をしているからかな……」
幸が自分の頰を押さえる。お世辞でも嬉しくて思わず微笑んでしまう。心は美容鍼に興味があるらしくそこからは女子会のようなキャピキャピした会話が続く。
「これ、昨日自分に刺してみたの。ほうれい線に入れるとシワにいいのよ? 少しちくっと痛むけど芸能人に人気で──」
時折自分が鍼を刺している時の顔を自撮りしていたので、自分の携帯電話にある画像を見せようと手渡す。心は興味津々でじっと画面を見ている。
「ほら、司さん、これが美容鍼ですよ」
隣に座っていた組長に画面を見せると興味がなかったらしくそっぽ向いていた組長の顔色が強張る。突然食い入るように私の携帯電話の画面を見つめると、ギリっと奥歯が軋む音が聞こえる。ヤクザといえど鍼が刺さっているのは見たくないのかもしれない。
心はなぜかご機嫌なようで満面の笑みでゆっくりと立ち上がる。その横で同じように組長も立ち上がる。一斉に二人のヤクザがゆらりと立ち上がる様子を幸は茫然と眺めていた。なぜだろう、嫌な予感しかしない。
「司さん、幸さんとお友達になってから……というのはぶっ飛ばしても構いませんわね?」
「もちろんだ、おれも遠回りなんてしたくねぇ」
「気が合いますわね、私たち」
心は徐ろに丸椅子に座って様子を見ていた光田へと近づく。笑顔で見下ろす心に光田は固まってしまっているようだ。
そりゃそうだろう……。突然演劇鑑賞中にスポットライト当てられた客のようにあんぐりと口を開ける。
「光田様、いけませんわ。おイタしちゃ……」
「へ? 大分?」
県名か何かかと聞き返そうとした光田の頰を掴むと口付けをする。光田が持っていた雑誌を床へと落とす。人のキスシーン、しかも濃厚なものを直接見るのは初めてだ。時折光田の曇った声が聴こえて震えそうなぐらい恥ずかしくて顔を押さえる。
な、なな、な、なんじゃこりゃぁぁあ!
心の中でかの有名な俳優の名台詞が出てきた。
「先生も──おイタはいけねぇな」
幸が真っ赤な顔して見ていると突然その顔を包み込み組長がその赤い唇に噛み付く。もう頰の紅潮が心たちのキスのせいなのかどうかわからない。組長の長い指が白い首筋をやさしく掠めた。ようやく顔が離れていくと組長がいやらしい笑みを浮かべた。
「なん、なんで──」
「なんでじゃありませんわ」
振り返ると光田が抗議の声をあげ、真っ赤な顔して口元を押さえている。幸が組長の口付けに翻弄されている間に光田の髪は乱れてシャツのボタンも幾つも外されている。白い光田の首筋にはキスマークまでつけられている。横で可愛く微笑みながらフリルのついたハンカチで口元を押さえる心の仕業だろう。
「この短時間でなかなかやるな」
「イヤだわ、司さんこそ噛みつき方がワイルドでしたわ」
お互いの仕事を健闘し合っているふたりを呆然と見つめる幸と光田だった。
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