セミはまだか

 七月上旬の朝。

 梅雨の晴れ間ということで、今日は暑くなりそうだが、何やら物足りない。


 不覚にもしばらく気付かなかった。


 セミの声がしない。


 仕事に追われてると、今日が何月何日何曜日だかよくわからなくなることはある。それに、今年2024年は五月頃から夏日になることもあったので、季節感まであいまいになってしまっていた。


 子供たちの短縮授業が始まって、ようやく本格的な夏が近付いていることを思い出した。


 で、セミは?


 例年ならもう鳴いていてもおかしくないとは思うのだが、具体的にいつ頃から鳴き始めるかは記憶に残っていない。記録としてはパソコン上に残してはいるが。


 ひとまず筆者のメインフィールドである関西のうち、兵庫県では近年までセミ類の初鳴・終鳴のデータが取りまとめられていたので、それを見ることにする。


 それによると、兵庫県ではニイニイゼミとクマゼミはだいたい六月下旬に鳴き始める。

 これは初鳴のデータであって、夏が来たなあと思えるくらいに数が増えるにはもう少し時間が掛かるかもしれない。

 ただ、七夕を過ぎてもまったくセミの声が聞こえてこないというのは、やはり出現が遅いと言わざるを得ないのではないか。

 

    ◆


 七月上旬にセミの鳴き声を聞かないまま地元関西を離れ、七月中旬が始まったころには、四国南部の現場が始まっていた。

 そこでようやく、ニイニイゼミとクマゼミの声を今年初めて聞いた。


 さて、すでに何度か環境調査員と昆虫のエッセイで書いたのだが、南の方には初夏から鳴くコオロギがいる。

 そのうちの一種がナツノツヅレサセコオロギ。

 鳴き声はリ、リ、リ、リ、リ……と、短い音を同じペースで長く響かせるもの。この声は、本州で夏の終わりから秋にかけて鳴くツヅレサセコオロギという種とよく似ている。


 ニイニイゼミは遠くで鳴いている。クマゼミは断続的にしか鳴かない。他のセミは鳴いていない。

 というわけで、ナツノツヅレサセコオロギがメインをつとめる四国南部の梅雨明け前のフィールドは、まるで秋のような様相を呈していた。


    ◆


 そして仕事が終わり、関西に帰って来た。

 一応、兵庫県南東部の数カ所でクマゼミは鳴いていた。

 また、街なかでは少ないが、現場で山に行けばニイニイゼミは普通に鳴いている。

 場所により、ヒグラシも鳴き始めた。


 ただ、まだ雨が多いせいもあるのか、クマゼミは本格的に増えていないようだ。



参考文献

近藤伸一, 2021. みんなで調べようセミの初鳴き、鳴きおさめの日 -2013~2020-. きべりはむし, 44(1): 80-91.

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