タツキチの話し 〈蛇〉

翌日、よう子は事務所の応接間でコーヒーを飲んでいた。


そして、当たり前のようにタツキチとセイヤのコンビが目の前にいた。この二人はちょくちょく、よう子の事務所に来るのである。


「いやあ、昨日は大変でやしたよ。親分は失神しちまうし。」


そういえば、救急車が来ていたなとよう子は思い出した。



「救急車で運ばれてたの親分さんなの?」


「そうなんすよ、倒れたはずみに頭打っちまいやしてね。下の女医さんにも見てもらいやしたが、ちゃんと大きな病院で見てもらった方がいいって言われやして。」


「ホントはあっしらは病院なんて場所は嫌いなんすけどね、病院で見てもらって、だけど、親分も別に異常なしでやしたよ。」


「異常なしなら良かったけど、じゃあ何で倒れたんだい?」とよう子は聞いた。


「それが異常な話しなんすよ、親分すごい蛇が苦手だったんでやす。」


やくざの親分が蛇が苦手というのも可愛いお話しではあるが、異常という程ではあるまい。


「へえ、異常ってのはその蛇がでやすね、突然、うちの事務所の中に現れたんでやすよ。」


確かに、ビルの一室の事務所に蛇が出るというのは普通ではない。誰かのいたずらだろうか。でもそれでも異常という程ではない。



「親分はね、蛇が苦手でやしたようで、見た瞬間に失神しちまったんでやす。」


「親分が失神したのにも驚いたでやすが、それより驚いたのはその蛇、しゃべったんでやすよ。」


タツキチは蛇がしゃべったと言った。確かにそれは異常だ。だいぶラリってるようだなとよう子は思った。


「蛇がしゃべるの?」よう子は念のため聞き返した。


「へい、しゃべりやしたね。なあセイヤ。」


「しゃべりましたね。」セイヤは頷いた。


やばいね。二人とも。よう子は思った。



「蛇は何て言ったんだい?」


「"ここはどこにょろか?"とか、"男が落ちて来なかったにょろか?"とかしきりに聞いてきたでやす。」


これまで生きてきてこんな気味の悪いことは初めてでやすね、とタツキチは言った。


「幸いなことにセイヤが蛇を掴むのが上手くて、こうギュッと両手でつかんで、外に逃がしてきたでやす。」


と蛇を掴まえるようなしぐさをしてタツキチは言った。





-----------------------------

≪登場人物紹介≫

・シロ ・・・ 本当の名をゲンカイ・ナダという。

・クロ ・・・ 本当の名をクロ・ト・ジュノーという。ジュノー王国の王子。

・アオ ・・・ 本当の名をアポトーシス・オルガという。〈死神〉と呼ばれることがある。


・灘よう子 ・・・ 東京で探偵をやっている。

・鴨木紗栄子 ・・・ 灘よう子に仕事を依頼する。

・鴨木邦正 ・・・ 鴨木紗栄子の伯父。

・黒戸樹 ・・・ 鴨木紗栄子の夫だった人物。

・蒼井瑠香 ・・・ 医者。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る