第9話 ナドレの町【前編】





 タイムリミットの三日を過ぎ、翌日我々も他の冒険者たち同様『コホセの町』を出発する準備を整え終える。

 だが、今日から私はいつもより準備が増えた。


「はい、おっけ〜」

「ううう……」

「かわいーよー、オルガ」

「…………! あ、ありがとうございます……」


 髪を結い込まれ、最低限と言われる化粧をクリス様に施される。

 ま……まあ、いずれ飽きるだろう。

 自分ではとてもこんな毎日出来る気がしない……。

 でも……アレク様に褒められるのはなんとなく……嬉しい。


「料理スキルは手に入れたけど、野宿の時にも作れるかなー? ね、オルガ」

「そうですね。とりあえず、食堂の主人に教わったレシピでなんとか頑張りましょう」

「さすがにボア肉飽きてきたもんね……。他の肉を優先して狩ろう」

「………………」


 ……やっぱり狩るのは肉なのか……。


「野菜も食べてくださいね」

「僕は食べるよー?」

「野菜キラ〜イ」

「もう、クリス様。野菜も食べないと大きくなれませんよ」

「ボクらもう大人だも〜ん!」

「野菜は美容にいいんじゃないの?」

「野菜食べるくらいなら果物食べる〜」

「果物って……。果物の魔物なんているの?」

「……そもそも全て魔物で補おうとしないでください……。果物くらい食材屋で売ってますよ、多分……」


 まず町の中心、噴水広場に今回の奪還作戦に参加予定の冒険者たちは集まる。

 そこで勇者のパーティーを先頭に、三日程度をかけて『ナドレの町』へと移動を開始するのだ。

 町長や役人たち、そして宿屋や食堂、武器屋や防具屋……それなりに多くの町人たちが見送りに現れた。


「町長、短い間だが世話になりました」

「皆様、どうぞご武運を」

「よし、ではアレク君、隊列について説明を頼む」

「はーい。まあ、素人の集まりに軍隊の様な動きは初めから期待しないので安心してねー。ただし、分かりやすく勇者パーティー以外のパーティーは番号で呼びまーす。いいですかー?」

『はーい』


 ……み、皆さん意外とすんなり受け入れたな。

 アレク様の言い方が優しいからだろうか?


「まずパーティーレベルの低い順から第一部隊、第二部隊……」


 と、順番に指差しながらそれぞれのパーティーに番号の名前を付けていく。

 名前が部隊なのを冒険者たちは「なんか軍隊みたいでかっこよくね?」とプラスに受け取ってくれた様だ。

 まあ、冒険者たちからすると国家で認められた実力を持つ騎士や軍隊には少なからず憧れを持つ者が多い。


「レベルの低いパーティーの人たちや全員メンバーが初顔合わせなどのパーティーには先頭、左右、後方を任せまーす。理由はレベルアップと性格相性の調査の為でーす。こいつとァウマが合わねーって人は申告してくださーい。パーティーの組み直しなどの参考にしまーす」

『はーい』

「では第一から第三までの部隊は先頭でしゅっぱーつ。次は勇者トールのパーティーを、第四と第五が挟むようにしてしゅっぱーつ」


 …………す、すさまじい統率能力……。

 今更だが、アレク様本当にすごいな。

 ならず者のような冒険者たちもすんなり言う事を聞く。


「……彼の統率力はすごいな。冒険者たちが完全に言いなりだ……」

「そりゃそうですよ。この町に来た怪我人はクリス様が治してくださいましたし、アレク様とオルガ様は町に食糧を毎日のように届けてくださいましたからね」

「ああ、あの方々のおかげで毎日腹一杯食えた。寝る所も、町の役人たちとかけ合って用意してくれたしな。クリス様には怪我も治してもらったし」

「俺は腕を元に戻してもらったんだ! また戦えるのはあの方のおかげさ!」

「アレク様はクリス様のお兄さんなんだって言うから……そりゃあ言う事聞いておかねぇとな」


 トール様の左右を挟むパーティーの冒険者たちが口々にお二人を褒める。

 ……それがなんだか誇らしい。

 そうだよな、やっぱりお二人はすごいよな。


「オルガ、僕等は後方中央だよ。一番陣形が良く見えるからね」

「分かりました。前方中央の一番レベルが低いパーティーが強敵に遭遇した場合はどうするんですか?」

「すぐに左右のパーティーに回り込ませる。前方中央の真後ろには勇者トールのパーティーがいるから、一撃でやられなければ応援が間に合うはずだよー」

「なるほど」

「僕らは後方の一番レベルが低いパーティーの支援。左右に弱いパーティーがいるから、オルガは右側をお願いねー。僕左側見てるからー」

「怪我しても死んでなければボクが治してあげる〜」

「うおおお! クリス様ー!」

「聖女様ー」

「頼もしーい! ヒューゥ!」

「お美しいです! クリス様ぁぁぁ!」


 な、なんだ、前後左右のパーティーから雄々しい歓声が……!

 ク、クリス様への褒め称える声……いや、気持ちは分かるが……なんか間違ってる!

 主に性別と職業!


「聖女より天女がいいな〜。はい、みんなやり直し! せ〜の!」

『天女様〜〜‼︎』


 ……そもそも『女』ではないのだが……。

 アレク様を見ると笑顔で首を左右に振る。

 ……ですよね……。



 ***



 ――――『ナドレの町』。


 『コホセの町』を出発後、約三日。

 昼と夜以外歩き詰めだったが予定よりも早く到着した。

 『スドボの町』に集まっていた冒険者たちは、まだ到着していないようだな……。


「金髪勇者ー、バカトールー、ここの町長に広場で野宿していいか聞きに行くよー」

「え、宿屋に泊まればいいじゃないか?」

「バーカ。トールバーカ。この町にもステンドから難民が来てるんだよー。僕らが泊まれる部屋なんてあるわけないでしょー」

「うっ」


 ア、アレク様……勇者になんて口の利き方を……。


「それに怪我をした冒険者も多いし……クリスー、メガネと治癒回りよろー」

「分かった〜。メガネ〜、回診するぞ〜」

「ローグスなのだよ! 全く、いい加減名前を覚えるのだよ、君たちは!」


 とか言いながらも付いて来てくれるのか。


「……しかし、空気が重いな……」

「町全体がどんよりとしてるわね。ワタシ魔女だから嫌いじゃないけど……やっぱりステンドに一番近い町だからかしら?」

「ここでこれほど重たいとなると、ステンドは――」

「うーん。……オルガ」

「はい」

「クリスかメガネのどちらかに、この町の宿屋や食堂の方を回って、この町にいる冒険者たちを探してもらってくれるー? ……ステンドに一番近い町って事は多分、重傷者が多いはずだ。……亡くなってる人も多そうだけど……助けられる人もまだいるかもしれない。僕ら町長に町の詳しい状況を聞いてくるよ。ついでに奪還作戦の事もねー」

「! 分かりました」

「それと、クリスに食堂が見付かったらしまってたボア肉を食糧として提供させてー。犬騎士と魔女のおねーさんは料理スキルのある奴らを集めて食事作り開始させてー」

「そうね、分かったわ」

「うん! 任せてくれ!」


 ……我々が『コホセの町』の付近へ食糧を届けて回っていた時、『ナドレの町』や『スドボの町』までは行けなかった。

 そう考えると、この重々しい空気は…………。

 町は閑散としていて人も歩いていない。

 コホセほど大きな町ではないので、余計だ。

 コホセから一緒に来たパーティーを一つ一つ回っていたクリス様とローグス様を追いかけて、アレク様の指示を伝える。

 なんとなく、急いだ方がいい気がした。


「クリス様! ローグス様!」

「あれ、オルガ〜、どうしたの〜」

「実はアレク様から……」


 二人にアレク様の指示を話すと、ローグス様がパーティーの方を引き受けてくださる。

 私はクリス様と町を一回りして、宿屋や食堂を探す事にした。

 大体の町は入り口に商業施設が密集しているが、宿屋や食堂は比較的安全な町中にある。

 我々が探すのはその宿屋や食堂。

 町の中の大きな道を歩いていると――。


『ぎしゃぁぁぁ!』

「魔物‼︎」


 剣を構える。

 なんだ、この魔物……。


 スキル『鑑定眼レベル1』発動!

 【リトルワイバーン】レベル52。

 属性『風』

 ワイバーン系の下位種。

 鋭い牙と爪を持ち、空を自在に飛び回る翼竜。

 ドラゴン系の魔物の中では下位種だが、魔物全体では上級に位置する危険な肉食系の魔物。


「――――っ!」


 レ、レベル52……⁉︎

 サラマンダー程ではないが、なぜこんなレベルの魔物が町中に……⁉︎


「町に人の姿がなかったのはこういう事か! アレク!」

「⁉︎」

「町の中に魔物がいる! ボクらが遭遇したやつのレベルは52! 他にもいるかもしれない!」

「クリス様……」

「アレクに連絡したから、ボクらはこいつをこの場でやっつけるよ!」

「はい!」


 耳に手を当てただけでアレク様と連絡?

 よ、よくは分からないがアレク様に知らせてもらえたのなら、我々はこの場でこの魔物を倒す!


「それにしても、竜族! 久しぶりにドラゴンのお肉が食べられる〜っ!」

「⁉︎ え、た、食べるつもりなんですか⁉︎」

「食べるよぉ! ボクらはドラゴン肉が一番大好物なんだからねぇ〜‼︎」

「…………」


 テ、テンションがいつもと違う。


『ぎしゃぁぁ‼︎』

「っ!」


 そんな事を気にしてる場合じゃない!

 瞬歩でワイバーンの真後ろに跳ぶ。

 引き抜いた剣をその最中、翼目かけて振り下ろすが…………。


「!」


 避けられた!

 瞬歩で動いたのに……なんというスピード!


『ぎじゃあああぁ!』

「オルガ! ブレスだ! 動かないで! 水防御壁ウォーターバリア!」


 クリス様の言う通りその場で止まる。

 私の頭上からサラマンダー並みのファイヤーブレスが降り注ぐ。

 ……サラマンダーよりレベルが低いはずなのに……威力は変わらないぞ⁉︎

 なんて奴……これがドラゴン系の魔物!


「……自動回復オートヒール!」


 クリス様の補助魔法。

 剣を持ち直し、構えたまま宙を漂うリトルワイバーンを睨み付ける。

 空を飛ぶ魔物……キラービーやチュンチュなどの大型虫や小型鳥の魔物とは経験があるがドラゴン系は初めてだ。

 鱗の硬さはサラマンダー並みだと思われる。

 翼を狙うしかないか。

 いや、奴の反応速度は瞬歩すら見切った。

 前からの攻撃は通用しないかもしれない。


『ぎぃいいじゃぁぁ!』


 大口を開けて加速して襲いかかってくるリトルワイバーン。

 速い!

 瞬歩で下がるがすぐに追い付かれる。

 咄嗟に剣でリトルワイバーンの口を止めるがすさまじい力……!

 ミスリルの剣でなければ砕かれていた。


「くっ」

「オルガ〜! 全身強化オールヒートアップ!」

「ありがとうございます!」


 パワー、スピード、防御力……体の全てが強化される補助魔法。

 クリス様から離れすぎたが、あの人の魔法効果範囲本当に広良いな。


「ぐっの、おおぉ!」

『ぎぎぎぎが……!』


 力が先ほどよりも腕に込められる!

 これなら、押し返す!


「はあ!」

『ぎぁ!』


 押し返し、口が離れた瞬間リトルワイバーンがバランスを崩す。

 ここだ!


「鶴突剣!」

『ぎうぁ⁉︎』


 長い首を掠め、左翼に突き技で穴を開ける。

 だが、敵もバランスを崩しながらも私の右脚を長い尾で叩き付けてきた。

 偶然か、しかし。


「っぐ!」


 ダメージ981!

 私のHPは5780。

 今ので4799に減った。

 しかし、自動回復オートヒールで100ずつ回復していく。

 だが、なんという攻撃力……。

 防御力だって全身強化オールヒートアップで上がっているんだぞ。

 左翼を怪我したリトルワイバーンは飛び方がぎこちなくなる。

 接近戦は危険だと判断したのか、リトルワイバーンは上空へと上昇すると口を閉じて天を仰ぐ。

 あの態勢はファイヤーブレス!


「っ」


 まずい、あの規模をあんな上空からやられては町に被害が…………!


「僕の従者に何してくれるの…………」


「…………アレ……⁉︎」


 リトルワイバーンの、その更に上……。

 アレク様⁉︎ と、飛んで……⁉︎


「ヴォルトシュート」

『っぎ!』

「!」


 指先がリトルワイバーンの頭に向けられた瞬間、か細い光の線に撃ち抜かれる。

 口からわずかに炎を吐き、白目を剥いて落下してくるリトルワイバーン。


「――――……」


 い、や、いや……つ、強いのは……知っていたが……。

 アレク様が戦えばその瞬間、一撃で、対峙した全ての魔物は事切れる。

 これまでずっとそうだった。

 落ちてくるリトルワイバーンを見下ろす目の冷たさは、これまで見た事もない。


「アレク様……」

「……大丈夫ー? オルガが攻撃受けたとこなんて初めて見たよー」


 ま、まあ、これまでは比較的レベルの差がある敵ばかりだったし……。

 サラマンダーの時はクリス様が防御魔法で助けてくれたので……。

 ……スタッと地上に降りてきたアレク様。

 今やっぱり、飛んでたな?


「アレク様は空も飛べるのですか?」

「飛空魔法は簡単だからオルガにも今度教えてあげるねー」


 にぱ、と……いつものアレク様。

 でも、さっきの顔は……。


「アレク……ごめん、ボク……」

「別にいいよー。クリスが連絡くれたから、他のパーティーや勇者たちにも町の中を警戒して進むように指示出せたもんー。教えてくれてありがとー」

「う、うん」


 クリス様の頭を撫でるアレク様。

 ……さっきのは見間違いだろうか?

 やっぱりいつもの、大らかなアレク様だ。


「あの、それでなにか分かりましたか?」

「うーん、役場がどこだか分からなくてねー……。……でも、まさか町中に魔物がいるとはー。予想はあったけど、レベル50超えはちょっとヤバいねー」

「……そうですね、コホセから来た冒険者のほとんどはレベル30前後……」

「…………。クリス、オルガ、一度レベル50以下のパーティー全員町から出すよ。勇者パーティーと僕らで町の魔物を一掃して安全を確保してから町に入れよう。僕が広範囲魔法でやっつけてもいいけど……あんまりやり過ぎて実力がバレるのやだしー」


 どういう事ですか。


「…………分かりました。アーノルス様たちと合流しましょう。アーノルス様たちは今どこに……」

「待って。……おーい、金髪勇者の人ー」


 ……うん、本当に他の方のお名前覚えませんね、アレク様……。

 トール様の事はバカ付きで呼ぶし……。

 わざとかな?


「一度町を入ってすぐの広場に集合してー。この町の安全を確保するからー。討伐部隊を編成するよー。よし、行こう」

「はい!」


 クリス様のように右耳に手を当てて独り言を話すアレク様。

 気になったので「あの、それは?」と聞いてみる。


「『思伝テレパス』という離れた相手に意思を伝える簡易魔法だよ。『思伝テレパス』を使えるもの同士なら会話も出来るけど、出来ないと一方的に話すだけだねー」

「そ、そんな魔法が……」

「少し難しいけど、覚えたいなら教えてあげるー」

「……で、では後日是非」


 便利そうだな。

 私でも覚えられるのなら覚えてみたい。

 だが今は町の広場へと急ぐ。

 すでにアーノルス様とトール様たちも戻ってきた。

 そして、私のHPも全快だな。


「アレク君、オルガ、クリス君!」

「町に魔物がうろついているというのは本当か⁉︎」

「はい、先程私とクリス様が遭遇し、アレク様が倒しました」

「あ!」

「⁉︎ どうしたんですか、アレク様⁉︎」

「……お肉持ってくるの忘れた……っ!」

「…………。あとで取りに戻りましょう……」

「食べられる魔物だったの?」

「ふ、普通は食べない魔物だと思います……」


 リリス様の怪訝な表情に、私も肩を落とす。

 ドラゴン系の魔物は鱗や牙、爪は高く売れるが……肉を食べた冒険者はいないんじゃないだろうか?

 そんな話は聞いた事がないぞ。


「なんにしてもレベルは50超え。魔物がいる事は想定してたけどレベルが想定外。レベル50以下の冒険者は一度町を出て待機ー。勇者パーティーと僕らで町の魔物をお掃除してからゆっくり休もうかー」

「確かに魔物がうろつく町でゆっくりは休めんな」


 と、アレク様に同意したのはトール様のパーティーメンバー。

 スキンヘッドの大斧使い、ディロ様。


「ふ、ようやく俺たちも暴れられるのか。道中は低レベル連中のお守りばかりで飽き飽きしていたところです」


 そう言うのは同じくトール様のパーティーメンバー。

 ドレッド頭の戦斧使い、ガロウ様。


「…………」


 今更だが……トール様のパーティー、本当に脳筋だな……。

 お供の方が両方斧使いとは……。

 魔法を使う魔物に遭遇した時、大変なんじゃ……。

 レベルでごり押ししてるのか……?

 いや、私も人の事は言えないが……。


「オルガ、君、怪我はしなかったのかい?」

「あ、少し……。けれどクリス様が一緒にいましたので……」

「そうか……」


 アーノルス様、私なんかの事を気遣って下さるなんて……。

 お優しいな、さすがは勇者。

 ……カルセドニーも村を出たばかりの頃は……いや、今は思い出に浸っている場合じゃない。


「それで、どんな魔物が出たのだね?」

「レベル52のリトルワイバーンという魔物です。ドラゴン種としては下位とありましたが、魔物全体のランクで言えば上位に位置します。スピードが速く、回避能力もかなり高い。ファイヤーブレスは以前戦ったサラマンダークラスの威力でした。素早く噛み付いてこようとするので、接近戦には注意が必要ですね」

「リトルワイバーン……! 西南の大陸序盤に出る強敵じゃない⁉︎ そんなのいるの⁉︎」

「ステンドの町から難民や冒険者を追ってきた可能性が高いねー……ここ、ステンドから一番近い町だからー……。……そう考えると……ステンドを襲った群のレベルは…………」

「っ…………」


 ――平均レベル、50以上……。


「…………それはまたあとで考えよう。今は町の人たちがどうしているのか、安全を確保して、町の人々の安否確認を急がねば」

「さんせー、異議なーし。じゃあ勇者パーティーの皆さんは町の大通り中央広場に向かって魔物を誘導してください」

「中央広場に誘導? どうしてだい⁉︎」

「僕が一気に魔法で始末しつつ美味しく食べられるように丸焼きにするからだよ」


 にっこりと。

 …………さっきの冷たい瞳のアレク様とは、また違った薄ら寒さを感じる笑顔……。


「……え、あ、あんたリトルワイバーン食べる気? た、食べられるの?」

「ボクらドラゴン肉が一番好物なの〜」

「好物……」


 全員がドン引き。

 ほ、ほらー、やっぱり普通食べなんですよー……。


「待ちたまえ。町にいる魔物が全てリトルワイバーンとは限らない」

「あ、それもそうか。でもドラゴン種だったら僕らにお肉取っておいてー!」

「ぜ、善処しよう……。では、私たちは右側の通りから町を一周してみよう。その最中リトルワイバーンに出くわしたら、アレク君たちのいる中央広場へ誘導。それ以外ならその場で退治する」

「了解!」

「うむ」

「オッケーぃ」

「よし、我々は左側の通りだ! 行くぞディロ、ガロウ!」

「おうよ!」

「はい!」


 勇者のパーティーが左右に分かれて道を進んでいく。

 我々はレベル50以下の冒険者たちを町の外へ誘導してから、中央広場に向かう。


「久しぶりのドラゴンのお肉〜」

「うふふふふ……楽しみだなぁー」

「……………………」


 リトルワイバーン……今はお前たちに同情を禁じ得ない…………。



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