第1話 8月2日①
ここに今日俺の身に起こった珍妙な話の顛末を記そうと思う。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
早朝のことだ。
近所の畑で日課のジョギングをしていた。
爽やかな空気を深く吸い込んで走るのは気分がよく、流行るのもよく分かる。
思わず口笛でも吹きたくなった。
「〜♪」
お隣さんは趣味で畑を耕していて、大根だけを育てていると以前聞いたことがある。
だからなんとなく気になってその大根畑の傍の道を選んで走っている時、珍しいものを見つけた。
「二股の大根だ。人間っぽい形してるなぁ。」
なぜか土の上に奇形の大根が転がっていたから、思わず足を止めてしゃがみこみ、それを持ち上げて確認してしまった。
二股の大根だ。加えて胴のところに小さな突起が2つ、ツイッターにあげたらバズりそうな人型をしている。
携帯を持ってこなかったのが惜しまれる。
顔を上げると、その大根の周りにも土の上に転がった人型の大根が沢山あった。
その時は収穫の途中で引き抜くだけ抜いて、何か用事が出来たのかな、なんて呑気に思ってた。
ーーー大根が動き出すまでは。
最初に起きたのは手に揺れを感じたこと。
手元を見たら、持ってた二股大根がその足のような所をジタバタと動かしていた。
びっくりした俺はその大根を放り投げた。
そしたらその大根、地面にぶつかる時ふぎゃって音をだしやがった。
俺は急に目の前の大根に恐怖を覚えて、慌てて立ち上がろうとしたんだ。
だけどよっぽど慌ててたのか、尻もちをついちまった。
お尻を強く打ち付けた俺はそこをさすりながら、音を出した大根を確認したんだ。
半日経った今でも、あの衝撃は忘れられない。
大根の胴にマジックで描いたような顔があったんだ。
それも、おじさん顔が。
奴は自分を放り投げた俺に怒ったらしく、その眉を三角に尖らせて、突進してきた。
その時まだ俺は尻もちを着いていたから、奴がスポーツ選手のような綺麗なフォームで走ってきたのに対して何の反応も出来なかった。
「痛っ…くない?」
そのまま飛び蹴りでもしてくるかと思い目をつぶってしまったが、いつまでも痛みが来ないのでおそるおそる目を開けた。
すると、大根がその小さな体をコマみたいに回して手のような突起を俺のすねにぶつけているのが見えた。
その姿にほっこりしてしまい、もう恐怖はどこかへ飛んでいってしまった。
まだクルクルと回ってる大根を両手でガシッと掴むと奴は一瞬止まってからジタバタと暴れ始めた。
「おーよしよし、よしよーし」
親戚の赤ん坊を抱っこする要領で暴れる大根を宥めていると、しばらくして動かなくなった。
奴はその太いマジックペンで描かれたような眉を丸く曲げて俺の顔をクリクリとした目で見つめてきたので、俺もにっこりと笑い返してやった。
その時だった。
大根を両手に持って立っていた俺の足にドンドンと何かが当たって来たのだ。
足元を見た俺はその瞬間フリーズした。
何故かって?
ーーーそこに畑一面を埋め尽くす動く大根達がいたからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます