第72話 説明
一時間目の授業が終了した。
終了するなり、クラスにいる一人の女子生徒が席に座っている秋山の元に駆け寄ってきた。
「ス、スタンプ押してほしいの…」
そんな一言を言って秋山にカードを渡そうとしていた。
「あ、うん。いいよ…でも、こんな目立つ所でやってもいいの?」
「え…?」
その生徒は辺りを見渡していた。同様に俺も見渡すと、それなりの人数の生徒がこちらを注目しているように見ていた。
もしかしてこのクラスだけでも結構な人数が参加しているのか…?
その女子生徒はハッと気がついて、顔を赤くして慌てたようにそのカードを制服の懐にしまっていた。だが、もう遅いだろう。
「や、やっぱりいいよ…また後で」
そうしてその生徒は自分の席の方へと戻っていくと、秋山は再び目を細めながら俺の方を見ていた。
「ねえ、何か言うことないの?」
「えっ…何かって…」
もはやこうなると、何を言うべきかも思い浮かばなくなっていた。
「別に…ないかな」
咄嗟に出たそんな一言を口にすると、秋山は目を丸くして驚いた顔をしていた。
「はぁ〜!?」
その驚いて発した大きな声に反応して、周りの生徒達はこちらを見ていた。
そんな周りの反応を見て、自分でも騒ぎすぎてしまったと思ったように秋山は顔を赤くして反省した様子だった。
「ちょっと来て!」
秋山は立ち上がって、いつものように俺の腕を掴んで引っ張るようにして教室の外へと連れ出した。
そして、人けのない廊下の広場へと連れてこられた。
急いで来たので、秋山は膝に手をついて息を切らせていた。
そして息を整えてから下げていた顔を上げてこちらにさっきまでの睨むような視線を向けた。
「わかってるよね…!私の言いたいこと…」
そんなことを強い口調で言われたので俺は観念した。
「ああ…わかってるよ」
「じゃあ説明して!」
「…事情、知ってたりするんじゃないのか?」
「一応はね…会長からも聞いたし…。でも、勇綺の口からちゃんと言って!どうしてこんなことになってるの!」
「色々…訳があるんだよ」
「訳って…?」
「佐野って生徒のこと…俺よりも知ってたりするんじゃないのか?」
「ま、まあ知ってることは知ってるよ。生徒会選挙の時、一際張り切っていたのを覚えてるからね」
「…そんな頑張っていた奴がだ、思い通りに上手く行かず生徒会に入れないのはおかしいとは思わないか?」
「それは…だって、でも…みんなからの票で決まってしまったことなんだし…」
だとしても、その努力が報われないのは俺は気に食わない。
「…俺は納得できないんだよ。努力したものがその成果を得られずに、何も欲しようとしたわけでもない俺みたいなのがその場にいるのが」
「そんなこと…は、だって…!」
「…俺は、どんなことをしてでも佐野に勝ってほしいと思ってる…」
「勝ってほしい…って、それってつまり自分は生徒会を抜けたいってこと!?」
「…そういうことになる」
そう発言すると、秋山は怒っているような悲しんでいるかのような、複雑な心境をしている表情になっていた。何か言いたそうだが言うことはなかった。
大凡の見当はついている。裏切られたかのように思われてもいるのだろう、それでもこのように辞めようとしたことはこれが初めてでもない。何を言っても今は意味はないとも考えてもいるのだろう。
「悪いが、俺が生徒会でいるのもここまでにしたい」
そして、俺はそんな言葉を放ってからその場を立ち去り教室へと戻って行った。
去り際に見えた秋山は、とても悲しげな表情をしていた。
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