第34話・回想の終わり……そして……


 私は……自身、エルヴィスの事をずっと思い出しながらバーディスに話をして時間が過ぎていく。その瞬間は非常に時間が早く過ぎている気がしていた。あまりに早く早く時間が過ぎてしまった。


 バーディスはそんな中で静かにメモに話を書き込んでは笑みを溢す。


「ありがとう!! エルヴィス!! 創作がはかどるわ!!」


「いえ、こちらこそ。楽しい楽しい時間をありがとう」


 満足した。ヒナトを知ってもらうこと。隠していた事を話をすると胸の重しが取れたような気がするのだ。話をするのは楽しいことがわかった。


「それにしても……エルヴィス。それはヒナト君に不利益になるかしら?」


「昔は本当に甘えん坊でしたし。それを言いふらされると恥ずかしいでしょう。腹違いとかありますから。叩ける材料を用意するのは少しね」


「……エルヴィス。あなたのその過保護は確かに異常だけど。もう大きいのだからそこまで根に詰めなくてもいいわよ。それよりもあなたは婚約者二人もいるでしょ」


「ええ、そうですね」


「そっちの方が大変な気がします」


「ううむ。本当にそうなんですよ!! こう、好意を向けられたの実は初めてで悩んでます」


「……ヒナト君かわいそう」


「あれは家族愛でしょう。兄弟仲良いだけです」


 そう、兄弟の仲良いだけである。私はそう思うのだ。





「というのが僕の人生で兄上と歩んだ道だ」


 強く強く想い出を語った。親友二人の表情は少しだけ重く受け取ったように感じられる。心境的には大分有利なのだと察して。心の底で安堵した。


 まだ負けた訳ではない。


「聞いた感想は聞かないでおきます。ですが……兄上を愛するなら。これを越えて貰いたいと思います」


 二人は二人でどこか大いに悩みだす。気持ちで負けている気がしてるのだろう。


「………エルヴィスさんが何故、魔法に無頓着なのかわかりました……本当に興味がないのですね」


「はぁ……いい人だが。ここまでヒナト想いだと。なかなか大変そうだ」


「………大変なのはこっちです。兄上が格好いいと思う男性像を目指したのですが。なかなか振り向いてくれません」


 我ら3人は大きくため息を吐く。


「どうしよ」


「恋敵だと面白いとか思ってたが……重たいな」


 本当に進展はないだろう。しかし、そういいながらも少し笑いながら。その日はお開きになるのだった。







 私たちは学園の前の馬車に乗り込む。我が領内で頭角を示した愛娘を連れて……下校する生徒をずっと眺めていた。


「お母様。明日からこちらですか?」


 白い衣装に身を包んだ金色の乙女である彼女に私は撫でながら頷く。


「ええ、あなたのお兄さまもこちらにいます」


「クラインお兄さんですね。ヒナトと偽名を名乗り、いつしか自由のために努力しているお兄さんですね!!」


「ええ、そうです」


 私の息子がここの学園に来ている。そして、その姿を見つけた。綺麗な金髪に鍛えられた逞しい体、優しい笑みを向けて女子生徒に挨拶する姿を。その両脇には友達だろう二人の男の子と一緒に歩いていた。


 富裕層の通う学園ではないが、我が子は何処か高潔な雰囲気を持っている。そう、もう立派な騎士のよう。


「あれですね。クラインは」


「はぁ~格好いいですね。お母様」


「ええ、そうね」


 私はそう言いながら、我が子を見続ける。買い戻す我が子を。

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