第27話・回想、覚悟の上の遠い日の過ち
トントンと自室にノック音が響く。私は慌ててドアを開けるとそこには木箱転がすメイドの女性が一人立っていた。この家の雇った家政婦であり。私は彼女のその荷物に心を辺りがある。
「エルヴィス様、アントニオさんからお荷物です」
「来た!! 早い!! 3日かかるって言ったのに!! 流石です!!」
「在庫があったようです。どうぞ、エルヴィス様」
「はい!! そうそう、部屋の中を見ちゃだめだよ?」
「わかりました。それでは失礼します」
私は台車に乗ったそれをそのまま部屋に入れ、ドアを固く閉めるため鍵と閂を着けた。まだ気恥ずかしいがやることは変わらない。
「どれどれ……」
箱から折り畳まれた服と女性の束ねられ整えられた赤色髪を取り出す。赤色の髪は本当に綺麗な色で……仄かに魔力が残っていた。誰かの髪であることはわかってる。
それを私は被り用意された服を着ていく。白い子供用の服を着終えた私はその姿を鏡で見続ける。大丈夫だろうか? 大丈夫なのだろうかと私は何度も不安になるがこの手がダメなら違う手と勇気を生む。
「騎士たる者の教え。『敵に挑む前に後ろの者の事を思い出せ』だもんね。後ろ……いないけど」
私は騎士の物語を思い出す。私にも出来ると言い聞かせた。やることは変わらない。
「よし、いこう」
頬を叩き。私は閂を取ってドアから廊下へ走り抜ける。そして……
ぐにゅ
「あう!?」
スカートを踏み前のめりに倒れてしまった。
「くっ……スカートってこんなに走りにくいの……いえ、我慢」
私は立ち上がる。慣れないスカートに翻弄されながら。
*
トントン、ガチャ
「……」
僕の部屋に誰かが入ってくる。髪が長く、スカート姿でメイドの一人だろう人が。
「……えっと……こんにちは」
「……」
「挨拶しようね」
その人は優しい声音で僕に近づく。そして……ベットに座る僕の隣へ来る。近くで見ると睫毛が長く二重まぶたの綺麗な顔。ちょっとひきつった笑みを向ける。
「お名前は?」
「……名前は……クライン」
「クラインね。そうねぇ、私はニイと言うの。ちゃん付けで呼んでね」
「ニイちゃん?」
「んんん、そうそうそうそう!! 良くできました!!」
名前を読んだだけでニイちゃんは凄く綺麗な笑みをし、僕の頭を撫でてくれる。不思議な暖かさにドキドキとする中で、ニイちゃんは僕の手を掴む。
「遊ぼう!! 何する?」
「遊び?」
「そうそう!!」
「……やったことないからわかんない」
「あっ……ん。そうか……そっか……なら本読む?」
「字読めない」
「わかった!! 読めないのね。読んであげる!! 教えてのあげる!! お兄さんに任せなさい!!」
そう言って。僕の手を引き机に座らせる。そのまま、ニイちゃんに言われるまま。筆の持ち方を習い、そして教えられるまま文字を書く。
「偉い偉い。しっかりと書けてる書けてる」
褒められ続ける中で、非常に暖かい時間がすぐに過ぎていく。褒められる反応が嬉しくて嬉しくて……ずっと顔を伺って筆を走らせた。時間が過ぎていき、ご飯の時間が訪れるのを忘れるほどに。
「エルヴィス様、クライン様。お食事のお時間です。食堂でお食べになりますか?」
「サンドイッチなら、持ってきてあとね……」
メイドにニイちゃんは耳になにかを囁き。メイドの女性は優しい笑みをニイちゃんに向ける。僕はその様子をずっと見ていると……
「かしこまりました。ニイ様」
「間違っちゃダメよ?」
「はい」
微笑みを浮かべたまま、メイドは下がる。ニイちゃんは僕にまた微笑み。そして……サンドイッチが来るまで文字を教えてくれる。
「にしても……クラインは物覚えがいいね」
「……?」
「それもわからないって表情。価値観も何もかも教えて貰えなかったのね!! よしよし、兄ちゃん頑張るからね!!」
「う、うん」
元気よく。とにかく元気よく。ニイちゃんは僕の近くに居続ける。それが自然となるまで僕はずっと一緒に居るようになるとはこの時全く考えもしなかったのだった。
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