第25話・回想起きたこの場所がわからない


「大丈夫ですね。ヴェイスさん。無理矢理、飲ませましたので、少しづつ目を醒ますでしょう」


「そうか、大丈夫だったか。ありがとう先生」


「ええ、ではこれで失礼します」


「ああ、忙しいのにすまない」


「……ん……んんん」


 声が頭に響き、誰かに担がれるのがわかった。力なく……ただ横になる。手に力が入り、次第に足が動かせられる事を感じ取る。


 深く沈み込むような所で僕は横になっており、眩しい光が瞼を越えて目に入り。そして、目を少しづつ開けていく。すると鮮明になった目線の先で男の顔が映り……


「ひっ!!」


 驚いて飛び上がってその顔から逃げるようにベットの端によって転げ落ちる。立ち上がって壁のすみに逃げ込み震えた。知らない男性、知らない人がまた、いた。また、僕は……いじめられると思い身を震わせ続ける。


「……ごめんなさい、ごめんなさい。許して」


「大丈夫、もう君をイジメる者はいない……」


「ごめんなさい!! お母さん!! ごめんなさい!! ここどこ!? お母さんのとこへいく!!」


「……つっ!?」


 僕はただただ。泣き叫ぶ。知らない部屋で知らない男に恐怖し。ずっと……ずっと……震え続けた。






 廊下で私は父上に呼び出された。ひどく疲れた表情の父親に首を傾げて父上の元へ近寄った。


「エルヴィス。ただいま父上の命により到着しました」


 オモチャの剣を腰につけて私は騎士の真似事をする。もちろん遊びの一貫である。


「よくきた。エルヴィス……兄弟は欲しくないか?」


「兄弟ですか? それは……」


 私は満面の笑みで答えた。


「はい!! 欲しいです!! しかし、母上は懐妊したと言う話はないですし……今からですか?」


「……エルヴィス。実は昨日から一人。養子にと拾って来たのだよ」


「昨日から……医者なども出入りしておりました。私が思うに養子とは……父上の何かと言うことでしょうか?」


「あまり詮索するのは悪い癖だ。ただの養子に迎いいれただけの事」


「……わかりました。お父さん……悪い事したんですね。何をしたか教えて下さい。知っているいないでは……」


 私は大きい大人の父上に迫る。父上はしゃがみ本当に苦しそうに声を出す。誰にも聞かれないように。だけど私はそんなの無理だと理解する。自ずと噂で流れるだろう。


「愛人と言うか、腹違いの息子なんだ。その母から買い取った……あまりにも可哀想な子だから」


 父上がそういうので私は身を引き締める。ちょっと見てこようと思ったのだ。


「……わかった。お父さん。会いに行ってもいい?」


「ああ、空き部屋に居るよ……ただ、刺激しないであげてくれ」


「はーい」


「エルヴィスだけは心配だからついてきなさい」


「はーい!! どんな子かな!! どんな子?」


「……」


 口をつぐむ父上に私は不安が生まれる。言えないのかと……そして。その男の子が寝ている部屋の前につき、私は扉を開けた。すると……部屋の片隅に座っている同じぐらいの男の子を見つける。それを指差すと父上は頷いた。


「あの子なんだ!! 弟?」


「弟かもね。同年代だけどエルヴィスのが早い」


「うん!! わかった!!」


 私は部屋に元気よく入り……そして片隅まで行く。


「こんにちは!!」


 満面の笑みで、かっこよくポーズを決める。目の前の少年に向けて。顔をゆっくりとあげる少年と目が合い。


「……ひっ!?」


 角で震えられる。目の前の少年は何かに怯え……私は首を傾げる。


「えっと!! 名前は?」


「……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


「………」


 少年が後ろの父上を見て、頭を押さえて震えて泣き出す。ずっと謝りながら。その行為に今さっきまで浮わついた心はなくなり。不安な表情で父上を見る。


「エルヴィス……一旦離れようか?」


「……」


 私は頷き。部屋から廊下へと出る。父上も大きく悩む素振りをするので解決策があるわけでないことを考える。私はショックを受けている。拒絶反応に……あまりにもあまりにも強い拒絶に。


「エルヴィス……あれが弟だ」


「……」


「ごめんな。弟が嫌なら孤児院を探す」


 私は深呼吸をする。父上がショックを受ける私に気を使うのが感じ……そして大きく大きく首を振る。


「少し驚いただけ。お父さん……なんであんなに怖がってるの?」


「……それは」


 父上は言っていいものかを悩む。それに、私は1つ頬をつねり気合いを入れた。逃げちゃダメだと思う。


「お父さん。絶対に何かあったかを教えて」


「ダメだ」


「……」


 私はそのまま、お父さんの足を蹴る。力一杯、不満を込めて。


「大嫌いになるよ? お母さんに言いつける」


「ま、まて!! お母さんには内緒に……」


「……!!」


 お父さんが非常に弱々しく見える。そう、弱味があるのだ。


「お父さん!! 秘密にして欲しいなら教えて!!」


「……はぁ、エルヴィス。これは相当重い話だ。非常に……」


「覚悟出来てる!! だって……」


 私はドアを見つめる。そして怯える弟を思い出し、胸を張り。父上を見上げ強く宣言する。


「お兄さんになるんだから!!」


 そう、お兄さんに私はなるんだと。




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