第23話・回想、お母さんは笑ってくれる


 ハルトとセシル、二人を見ながら……俺はどこから話そうかと考える。


「結構……聞いてて嫌になれば退室してもかまいません」


 話をする前にそう付け加える。聞いて気持ちいい物でもない。


「関係ない。大丈夫」


「……関係ないです。ヒナトの話はしっかりと聞きます」


「では……自分が実は母親から捨てられ話からしましょうか。クラインと呼ばれていた時から」


 過去を話始める。まだ本当に今よりもっと子供だった時を……







「クライン、そこで待ってなさい」


「はい……お母さん……」


 ある日の午前、お母さんはいつもの部屋で僕を置いて出かける。そして……数分後に男を連れてくる。


 男は毎日毎日違う。お母さんはいつも違う男を連れて来てはその男はいつも僕に硬貨袋を渡してくれる。耳に残る笑いと僕のお母さんを見つめて。


「小僧……見とけよ」


 そう、男は言い。お母さんは服を脱ぎ始める。男も同じように脱ぎ始め。部屋のベットにお母さんとともに乗り。いつもいつも動いていた。


 僕は部屋の角でそれが終わるまでみていた。


 金髪を男は引っ張り、お母さんの声と男の声が部屋に響く中をただただ……僕は静かに待っていた。


 何をしているのかわからない。ただそれが何なのかわからないまま。ずっと……見つめる。


「はははは!! 小僧!! お前の母さんはいいなぁ!! 大きくなったら筆を下ろししてもらえ」


 時間かわからない。ただ、お母さんとくっついて男が離れ。頭を撫でられた後に男が着替え部屋を去っていく。


「……はぁ……はぁ……」


 お母さんの息の荒れた声だけが静かに木霊する。僕は水瓶からコップに水を入れ……お母さんに持っていく。お母さんの目は虚ろで……そのままコップを掴み飲み干したあと。


がしゃん!!


 コップを壁に投げつけた。割れたコップが床に散らばりそして……お母さんはベットの縁で顔に手をやり。泣き出す。


「どうして……どうしてこんな……こんな!!」


 泣くお母さんに僕は足に手を添える。だけど……すぐにふり払われた。


「つっ!? お母さん?」


「……くそ!! くそ!!」


 お母さんは立ち上がり……割れたコップの破片を取り出す。


「お母さん?」


「……憎い……あの女……あの女……」


 僕の声は聞こえてないのか……近付いて足に触れる。するとお母さんは僕に笑いかけてくれる。


「……クライン……ああ。そう。ふふ」


 お母さんは僕の手を掴んだ。そして……ガラスの破片で腕を切る。


「つぅ!? 痛い!? お母さん!? お母さん!?」


「……痛い? お母さんも痛い……痛いの……」


「うぅう……」


 お母さんは手にガラスの破片を突き付け。血を床に溢す。それを僕にかけ……そして静かに笑う。


「はは、汚れた。汚れたね」


 お母さんは泣いている僕を見て喜ぶ。僕はそれを見て……


「うん、ぐぅす……へへ……」


 笑いながら泣くのだった。






「……クライン」


「はい、お母さん……」


「お母さんちょっと出掛けて来るからね」


「う、うん」


「いい子で待ってるのよ」


「はい……お母さんすぐに帰って来て」


「……」


ガチャ


 僕は個室に残される。何もすることなく。皿に乗ったパンを食べる。何もない部屋で窓の外を見ると……向かい側の建物の壁が見えるだけだった。鉄格子の隙間から……路地の外の声を聞く。お母さんの声と誰かを男の声がし……今日もお母さんが泣くのかなと思ってしまう。


「お母さん……」


 覚えがあるお母さんは優しかった。優しかった。今のお母さんも優しい。


「……」


ガチャン


 昔のお母さんを思いだしていると。扉の空く音が聞こえ振り向く。男の人が5人ぐらい入ってくる。一人は司祭の衣装を着ており僕は首を傾げる。


カチッ


「……?」


「この子、ええでしょ?」


「ええ、神様に届けられるには惜しい」


「ん?」


「ああ、お母さんの友達です」


「お母さんの友達?」


 窓から。降り、僕は近づく。


「そうそう……んん愛らしい」


「?」


「では……」


 男の人がスルスルと脱ぎ出し、僕は身の毛がよだつ。何故か怖いと感じ。少し下がる。だが……男に手を捕まれ口を……ふさがれる。


「もご!? もご!?」


 そして、そのまま僕はベットに連れて行かれ……想像を絶する痛みを味わく事になった。






「ははは、よかったよかった。司祭さん、回復させてやれ」


「そうですね。回復しましょう」


「おい、焼けたぞ」


「いいな、いいな」


 僕は泣け叫び。お母さんを呼び続けた。だけど……次第に力尽き。ドロドロな体のままベットに横たわる。


 下半身の痛みが引く中で……体力も回復していく。何か暖かい物が僕の体を包んでくれた。


「大丈夫です。では……音が漏れないようにしましょう」


「もうした。じゃぁ……何処から焼く?」


「そりゃ……太ももから」


「……」


 僕は二人の男に捕まれて吊るされる。そして……何か熱した棒が目の前に見せつけられ体が震えた。


「嫌!? お母さん!! お母さん!!」


「ククク。かわいい悲鳴ですね。じゃぁ、罪深き……淫乱の娼婦の子に神の裁きを」


ジュウウウウウウウ


「ああああああああああああああああ!!!!!」


 僕は泣きながら叫び。太ももに当てられた棒の痛みに身を揺らす。ベリベリと皮膚が剥げ……血が出るなかで目の前の男の人がそこを修復する。


「ひぃ……ひぃ……。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいゆるして……」


 僕は何度も何度も謝る。そして……何度も何度も泣き叫んだ。お母さんに助けを求めながら。






「ほれ……お金だ」


「……けほ」


 窓に光がなくなった頃。僕は……口のなかから胃液を吐き出す。臭い、臭い液を無理矢理飲まされたのが逆流し、床を汚した。


「……」


 何度の味わう痛みに僕は反応が薄くなる。痛みも次第に何の感じなくなる。近付いてくる人影に僕は声を出した。


「お母さん……」


「あら……私よりいっぱい貰えてる。ちっ……こんなガキにねぇ」


「……」


「クライン。これで体をお拭き……お母さんこれでちょっと用事を済ませるわ」


 お母さんはまた何処かへと出かける。僕の伸ばした手に布を乗せて。そして……その日から僕は……毎日……体を拭う事になった。







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