第21話・魔法使いの誘い


 私は……セシル君に言われるままサインをしたあと。無理矢理ついてきたバーディスと一緒に個室に入る。防音室らしく、秘密の会話をするためだけに彼が用意された部屋に案内して貰える。


 中は普通の部屋であり、ただ。四面の壁には魔方陣が書き込まれ。音など漏れを防ぐ役割をしていた。一瞬でその魔方陣を目に入れ。頭に残す。


 便利な魔方陣図形を盗み抜く。根本を知ればいける。応用すれば……いや。やめておこう。


「……エルヴィスさん。何か魔方陣で気になる事あるんですか?」


「あっいえ……便利な魔方陣ねと。応用できそう」


「……見て学びとる事が出来るのですね。独学にしては深く見ている」


「ええ。あなたが書いたのですか?」


「もちろん。商売道具です」


「定価と仕切り教えて」


「嫌です。ヴェイス家がそんな商売始められても困ります」


「ですね」


 椅子に私は座り、セシルに向き合う。バーディスはふんぞり返りながらセシルを睨んだ。


「手短に。セシルさん。私が先に要件があったのに横から邪魔したのですから。わかります?」


「……ごめんなさい。質問の返答が来たのでエルヴィス嬢に一刻も早くと思い。伺ったのです」


 私は首を傾げる。質問の返答とはなんだろうか? 何かよからぬ事だったのはわかる。


「質問って何をされたのです?」


「知り合いに歌を聞こえた方がいる場合。また、その方が魔法使いに成りたがらない一般人の方であればどのような事をすればよいかを聞いたのです。夜の会からの返答はこれです」


「なによ、白紙じゃない」


 一枚の手紙をセシルは取り出して見せてくれる。バーディスは白紙と言ったが私には文字が見えていた。


「魔力を感じとれる方が読めるのです」


「読める。私……えっと」


 内容は魔法使いとして必ず名簿に記さなければ大罪となるので名前を登録すること。その理由だけ口に出す。


「魔法使いは大きな災害をもたらせる者であり、危険なので管理が必要である。もし、被害をもたらした場合は情状酌量の余地無しで処刑される場合があり。また他国との戦争では必要戦力としてお願いする場合がある。王命であり、登録は絶対とする」


 綺麗な文字が書かれていたのを読み上げたあとにセシルを見ると深々と頭を下げる。


「本当にすいません。知らないと言えばよろしくのでしょうが。我が家に迷惑を被るため。話させていただきました。エルヴィス嬢……申し訳ないのですが。名簿に登録させてください」


「……登録したらどうなるの? 戦争に出ろって?」


「5年一回、どこでもいいので我が家の舞踏会か、家にお伺い。顔出していただく義務が発生します。魔法使いの証を常時お持ちください。それだけです。戦争は強制ではありません」


「……セシル君の家ってそういう管理屋なの?」


「はい。魔法使いを取り締まる。魔法使いを殺す事もする家です。夜の会の老人会の座を持つ家です」


 私はバーディスを見る。バーディスは鼻を掻いて暗い顔をした。


「私、聞いてもよかった話なの? それ……」


「噂で広く知られてます。事実なのかも曖昧な物だけどそこにはあります。そして、探求に世界を護る術を探す者達です。大いなる災いから。有名でしょう。大いなる災い」


「ええ、魔王ですわね。だから、私達はほとんど戦争をしなくなった実話です。まぁ、我が家もそんな話はちらほらと聞こえますが……聞いてもいい話なんですね」


「聞いてもいいですが。関われない方も多い話です。商家のヴェイス家も知らないぐらいです。あと、ヒナトも名簿に登録済ませてます」


 バーディスはセシルの説明に納得し、ふんぞり返る。偉そうにしているが私は気にせず。ただ視線を落とした。ヒナトの名前で思い出したのだ。


「……ヒナト」


 喧嘩している事を思いだして胸が苦しくなる。非常に悲しい。


「……エルヴィスさん。ヒナトなら校門でお待ちです。ヒナトには先にお話を持っていきました」


「……ヒナトが?」


「ええ、エルヴィスさんを待っています。その前にこれをお願いしたいです」


 セシルが別の用紙を取り出して私の手元に置く。バーディスはそれを覗くが読めずに諦め。私を見る。読めと言うのだろう。


「……えっと。女性婚約者名簿登録書? えっ!? なに!? セシル君!? 俺に!?」


「……その、先を越されたのですけど。我が家は魔力を少しでも感じれる方でないと結婚を許されないのです。その結婚出来る方の名簿に名前を入れ差してください」


「セシルさん!?」「セシル君!?」


 バーディスと私は彼の名前を驚きながら呼んだ。私はそれがどういった意味かを知り彼の瞳を見つめる。


「……ハルトとヒナトと勝負しようと僕も思ってる。ハルトから聞き、自分もエルヴィスさんの事、えっと……だからお願いします」


「……エルヴィス。モテるね」


「ああ、えっと……ヒナト怒るよね……」


「ヒナトは僕の言葉を聞き。ため息をついてました。君もかセシルって言っていつものように背中を押してくれました。校門でお待ちです。何か、吹っ切れた感じでした」


「……お、怒られるかな?」


「……怒った感じじゃないで。謝りたいと言ってました」


「そそ、そっか。サイン……しなくても」


「……扉に魔方陣書き込んでるですよ。実は……解錠に時間かかると思います。ヒナト帰るかもしれません」


「セシルさん!? あなた!? いつものあなたならそんな事をしないわよね!?」


「バーディスさん。しません……だけど。本気なのを見せる事が出来ます」


「まぁ!? ふふ!! めっちゃ面白い!! エルヴィスに対して3人も!! ふふ!!」


「バーディス、俺が困るからって楽しそうだなぁ……」


「めっちゃネタ長に困らない」


「……わかった。書く。だけど……わからない。ごめん」


「はい。ヒナトを越えるように頑張ってみます。エルヴィスさん」


 私はサインをし、すぐに席を立った。一目散に部屋を出て校門へ向かう。二人に謝り、置いて帰った。






 ヒナトは校門に背中を預けて腕を組み、制服に帯剣したスタイルで立っていた。私は夜中、扉の前で居たのに出てこなかった彼を今日初めて見たことでドキドキとした。すぐに近付き。深々と頭を下げる。


「ごめん!! ヒナト!! 本当にごめん!!」


「……兄上」


「今日もセシル君の話に乗ってしまった。こんな尻の軽いお、お、女が兄上とかゲロを吐きそうかも知れないけどごめん!! えっと……その」


「兄上、頭を上げてください」


「……ヒナト?」


 私は顔を上げる。すると今度は深々とヒナトが頭を下げた。そして……


「昨日、兄上に怒鳴ってしまい。そのまま何も言わず。窓から登校したことを謝ります。すいませんでした。そして……私のワガママで兄上を心配させてしまい。申し訳ありません」


「ヒナト……」


 深く頭を下げたヒナトに私は胸を撫で下ろす。怒っていないようで安心する。


「わかった。二人とも悪かったで決着つけよう。はぁ……口も聞いてもらえないかと思った」


「そんな事、したくないです。私も大人げなかった。兄上……お詫びに今日はケーキ買って帰りましょう。お小遣いから出します」


「……えっ大丈夫です。大丈夫大丈夫。俺も悪かった」


「本当にいらないのですか? 自分だけ買って帰ります」


「……買って帰るなら俺の分も欲しい」


「はい、兄上。行きましょう」


 ヒナトが歩きだし。私はその背中をついていく。そして……背中に言葉をかける。


「ヒナト……魔法使いの名簿登録する。ヒナトは知ってたんだな。ずっと」


「知ってたけど。黙っていました。遠からずいつかは触れるでしょうと思ってたのです。それよりも兄上……」


「ん?」


「婚約者に私は含まれますからね」


「……」


「頑張っていきます」


「……」


 私はその背中にしっかりとした返事が言えず。ただただついていくことしか出来なかった。

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