第10話・兄上に対する新たな動き


 早朝、隔離部屋に到着したヒナトは先に学校に来ていた二人に挨拶をする。ヒナトより早く来ることに珍しい事もあるんだなと彼は思う。


「おはよう。二人とも」


「おはよう、ヒナト」


「おう、ヒナト!! おはような!!」


「朝、早いですね」


「まぁな。セシルとな話し合ったんだ。この部屋に放課後、令嬢を呼ぼうと思って紙に書いてるんだ」


 ヒナトは腕を組み、首を傾げた。


「あまり、イメージがよくないから。いれないと言っていたでしょう」


「……ヒナト。確かに先輩方せいで。身分の低い令嬢を招き入れて好き勝手にするという事など。あまりイメージが良くないのは多い。問題にもなっていました。ですが……まぁ、いいのではと思う人が居るのです」


「セシルがいいと思う人ですか。気になりますね」


「セシルに同意見で俺も気になった。一昨日でな」


「ハルトも気になるとは? 令嬢は捨てるほど抱けると言っていたあなたが気になる事ですか? 一昨日で私が去ったあとにそんな令嬢が……気になりますね」


 ヒナトは意見を聞き、興味を示す。入場許可みたいな物を先生にいい発行してもらうのだ。


「もともと、茶室が寂しく。ヒナトばかり淹れてもらってましたからね。たまには他の方をと」


「もしかして、婚約者ですか?」


「いいえ、居ませんよ……まだ」


「違う。おらんぞ……そんなやつ」


「まぁ、いいでしょ。名前を教えてください。一応自分もヨシとします」


「……名前……ハルトお願い」


「ああ? ビビりやがって。名前はエルヴィス・ヴェニス。桜髪の乙女だ。わかるだろう?」


「は? 聞き間違いですか?」


「エルヴィス・ヴェニス」


 教室に冷たい空気が流れる。ヒナトの表情が強張り、二人を交互に見た。


「……理由を聞きましょう。一応、私は賛成はしません」


「ヒナト、3人の理由はわかるな? 多数決だ。ヒナト」


「くっ……兄上をここへ呼ぶということですか?」


「一度来ているし、俺は話をしてみたいと思っただけだ。セシルだってな?」


「女体化の経過や、諸々と気になるので……監視……ごほ。検視をしたいと思います」


「……」


「いいじゃないか? お前もここに入れるために学校に呼んだのだろう? 目的が叶って良かったじゃないか」


「下校一緒だけで良かったです。ここへ入ると言うことは令嬢たちと仲違いするし悪目立ちします。あまり、好ましくありません」


「それは、先輩方が護らないからだ。俺は護るよ」


 ヒナトは色々と否定意見を口に出す。焦りみたいな物が彼を苛みなんとか説得しようとする。ヒナトにとってセシルとハルトは格好よく、兄上を奪うライバルになるのではと考えるのだ。


「……ヒナト。僕はまぁ取ったりしないよ。じゃぁ放課後で来ていただき。話をしよう……あと数人も呼び込んでもいいでしょうし」


「ああ、わかりましたよ……好きにしてください」


 ヒナトは少し、ワガママでぐずるような声で返し……大きくため息を吐いたのだった。





 放課後。誰かに呼ばれたことをエルヴィスはそれをすごい怪訝な顔で先生から聞き。細かな説明を受けた。なお、怪訝な理由はもちろん姫という言葉が気にくわないのであるが……


「姫探し……それで今日、その婚約者を選ぶと言うことですか?」


 エルヴィスは先生に問う。すると頬を押さえて先生は悩んだ。


「昔の言い方なんです。姫探し……ええ、そうです。この風習はもう辞めようとも言われてます。色々と問題が多いこともあり、体のいい使い捨てなどなど。非常に悪い話しかないのです。会うなら外で健全にと言いたいですが……なかなか……」


「辞めればいいのでは?」


「……卒業生が残せと圧力をかけるのです。令嬢たちの親族も。それで婚約を勝ち取った方もいます」


 エルヴィスは舌を打つ。察した彼女は令嬢たちを道具か何かと考えてる親御さんたちを心で軽蔑しそして胸を張って強い意思を示す。


「お断りします」


「……ごめんなさい。規則で呼ばれてるから……それも問題ね……強制力とか」


「退学でいいです。お断りします。拒否権あります」


「……ふぅ。本当に変わった破天荒な令嬢ね。かわいい令嬢ですよ。だから話を聞きたいと言うのですね」


「……」


 かわいい令嬢と言われ眉が吊るエルヴィス。我慢して作り笑いを顔に貼り、耐える。格好いいがいいと何度も何度も心で叫ぶ。


「じゃぁ、まぁ……お願いね」


「はぁ……もう。いいです。ヒナトを連れてそのまま下校します」


 そういい。エルヴィスは隔離教室に向かうのだった。なお、会う場所は隔離教室であることをエルヴィスは先生から聞かされてない。





「……兄上は来ないでしょう。嫌がる気がします」


「まぁ、俺は来ると思うな。ヒナト……お前がいるからな」


「まさか……にしても悪しき風習ですね。令嬢を呼びつけるなんてね」


「……ヒナト。君ならどうするんだい? 僕によってはありがたいと思うけど」


「私なら……会いに行きます。跪き、手を取ることもまた必要でしょう。心に決めた姫君なら」


 ヒナトは真っ直ぐにセシルを見つめていい放つ。金色の髪が太陽によって輝いているように見え、セシルは顔を反らす。


「……僕には無理ですね。そんな……こと」


「出来なくていいんです。セシルにはセシルの方法が必ずある。そう、教わりました」


「にしてもそろそろ来そうなもんだが……」


ドンドン!!


 扉が叩かれ、声が響く。


「失礼します。ヒナトに要件があり参りました」


「兄上……来てしまうんですね……」


 エルヴィスが扉を開け中に入るとヒナトは頭を押さえた。


「……ようこそ。エルヴィス・ヴェニス嬢。こちらへどうぞ?」


 ガチャ


 ハルトが立ち、鍵をかけて扉の前に陣取り。エルヴィスが怪訝な顔を向ける。


「なんですか? ヒナトを誘い帰ろうと思うのですが?」


「ヒナトの兄上殿。お茶でもどうですか? お話をお聞きしたいのですよ。俺は」


「ん? ん? お話? なんのこと?」


「……ヴェニス嬢。こちらへ。お茶菓子もございます」


 セシルが椅子を用意しエルヴィスはそれに座る。


「んんん? ヒナトどういうこと?」


「……兄上。先生からお話を伺ってませんか?」


「先生……呼ばれてましたね。姫探しですです。ペッ」


「兄上……その呼んだのはそこの二人です」


 エルヴィスはセシルとハルトの顔を交互に見たあとにヒナトに向き説明を求める目を向けた。ヒナトは渋々と言った表情で答える。


「姫探しとか婚約者を見つけると言うのは語弊があります。要は、お茶淹れなど雑用を頼んだりする使用人のような令嬢を欲しており。その人物に兄上が選ばれた訳です。使用人、婚約者を呼ぶのが通例ですが飽きのこなさそうな……変わった人を多数決で選んだ。以上です」


「……ヒナト。投票したのか?」


「いいえ、投票はそこのお二人です」


「はい?」


 エルヴィスは再度、二人を見る。セシルは鼻を掻き。ハルトは腕を組んでウンウンと頷く。


「……兄上。一応、断る事も出来ます」


「なるほど……理解した。確かに呼べばその令嬢は他の令嬢を出し抜く事になり。良縁を掴もうとする者の邪魔となる。出入りするだけで色々と影響があり……下手すれば村八分。生半可な令嬢では荷が重いな」


「「「……」」」


「まぁ、苛められる立派な理由になるだろうなぁ。しかし、そんな事を頼める者も居ないという事で白屋の矢が俺に立った。そういうことだな? ヒナトは優しい……俺の事を心配して反対したのだろう?」


「ええ……えっと。遠からずなんですが。ええ」


 セシルとハルトはヒナトを見ながら。確かに言ったなこいつと思いつつも勝手に解釈するエルヴィスに合わせた。


 二人はそこまで考えてなかったと思いつつ。軽い気持ちで呼んだ事に少し罪悪感を覚えながら各々、感情を隠す。


「……ええ、そうです」


「ああ。流石。ヒナトの兄上だ」


 ヒナトは二人にそこまで考えてなかっただろと目で訴えた。


「……非常に大変なのですが。ヴェニス嬢。お願い出来ませんか?」


「……うーむ。放課後など一時的な時間だろう。4つ条件を飲んでくれたら。やぶさかではない」


「おっ!! ヴェニス嬢。4つってなんだ?」


「一つ。部屋でヴェニス嬢とは呼ばないでほしい。エルヴィス。呼び捨てで……2つ目は暇があったときしか来ない。3つ目は俺を女扱いしないでもらいたい。最後にクローディア・バーディスさんも一緒に来させてください。お手伝いです」


「兄上、3つ目は却下です」


「ヒナト、俺は帰る」


「どうぞどうぞ」


「ヒナトダメだぞ!! すまんエルヴィス嬢!! あっいや。エルヴィス。3つ目はどうも容姿で難しい部分があるからさ!! 比較的緩和して貰えるとうれしいなぁ」


「……はい。僕も……女慣れるためにあなたで練習もしたいのでお願いしたいですね」


「……ヒナトの意見は?」


「兄上、意見をこっち投げないでください。二人には兄上を説明をしておりますので、そんな露骨な事はないので大丈夫です。反対はもう諦めます」


 ヒナトの意見にエルヴィスは頷いて椅子から立ち上がり。深く頭を下げる。キリッとした礼に3人はハッとする。空気が変わったのだ。


「では……何卒、弟共々よろしくお願いいたします。エルヴィス・ヴェニスです」


 エルヴィスの考える丁寧な挨拶に。セシルとハルトは立派な教育の行き届いた令嬢品位を感じる。ヒナトはその姿に……流石お兄さんと心で称賛した。


「兄上、学校でもよろしく」


「……こちらこそ。お願いします」


「あ、ああ……えっと。頼んだな」


「……最後に一つ。ハルト君」


「お、おうなんだ?」


「もう少し、名家に備わるような礼節を持てないのですか? 弟の親友という事で目を瞑ってましたが言わせてください。あまりいい噂も聞きません」


「……」


「「くく」」


「おい、笑うな。今、すごく申し訳ない気持ちなんだからな!! ああ、はいはい」


 エルヴィスはこの日から特待生の雑用係になったのだった。

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