第52話
*
「はぁ~! 楽しかったぁ!」
「それは良かった」
僕と白戸さんは、湊斗達の事を忘れて水族館を楽しみ、その勢いでショッピングに向かった。
白戸さんはすっかり湊斗と藍原さんの事を忘れてしまった様子で、ショッピングを楽しんでいた。
僕は白戸さんに振り回されながら買い物に付き合い、少し疲れていた。
今は休憩を兼ねて、駅前の喫茶店に来ていた。
「いやぁー久しぶりに遊んだって感じがしたなー」
「良かったね、買いたい物は買えた?」
「うん、バッチリ! 荷物持たせちゃってごめんね」
「別に良いよ、そんなに重たく無いし」
僕はそんな事を言いながら、注文したアイスティーを飲む。
「あれ? そう言えばなんで私って栗原君と買い物に来たんだっけ?」
「本当に忘れてるんだ……」
まぁ、忘れても良いかもしれないな、今頃湊斗も藍原さんも帰り道だろうし。
「あ、そう言えばこの前の女の子はどうしたの?」
「え?」
「ほら、駅でラブレータをくれた女の子よ、返事はもうしたの?」
「え? いや……連絡先も知らないから、休み明けにでも返事をと思ってたところだよ……」
また、この話題か……彼女にとっては気になるのだろう。
まぁ仕方ないよな……僕の気持ちなんて分かるはずもないし。
「ふぅーん……そうなんだ」
「うん、まぁ断ろうと思ってるけど……」
「そうなの?」
「うん、その子の事、よく知らないし」
「やっぱりモテる男は違うねぇ~」
「別にモテないよ」
モテても本当に好きな人にモテなかったら意味が無いしな……。
僕たちは飲み物を飲み干した後、店を後にして二人で駅に向かった。
ただのデートになってしまったが、僕はこれで良かったと思っている。
「明日は何してようかなー」
「藍原さんに会いに行ってみたら? 多分、今日湊斗に何か言ってるだろうし……」
「あぁぁぁぁ!!」
僕がそう言った瞬間、白戸さんは何かを思い出したかのように大声を上げた。
ようやく今日の目的を思い出した様子だ。
「そうだ! 今日は由羽と春山君のデートを覗き見するつもりできたんだった!」
「あぁ、今思い出した?」
「水族館を楽しみ過ぎて忘れてたわ……」
「まぁ、良かったじゃん。僕たちは僕たちで楽しかったんだし」
「うぅ……でも気になるわねぇ……明日由羽に根掘り葉掘り聞かないと……」
「あはは、そうだね」
そんな事を言っている間に電車が到着した。 俺と白戸さんはその電車に乗って、自宅に帰る。
「ねぇ……」
「ん? なにかな?」
「人を好きになるって……どんな気持ち?」
「え?」
どうしたんだ急に?
白戸さん何かあったんだろうか?
「どんな気持ちか……」
今、僕が彼女に抱いている気持ちをそのまま教えれば一番分かりやすいだろうか?
「えっと……一緒に居ると安心出来て、ドキドキして……常に緊張してるような……そんな気持ちかな?」
「ふぅーん……栗原君は過去に好きになった女の子に告白とかした事ある?」
「え……ないよ」
まぁ、好きな人は目の前に居るしね。
それに僕の初恋は白戸さんだし……。
「なんで告白しなかったの?」
なんで……か。
「関係を壊したく無かったんだよ……その子とはそのまま関係が丁度良いと思ってたから」
「そっか……やっぱり告白したら、今までの関係では居られないのかな?」
「多分ね……難しいと思うよ、お互いに気まずいし」
「そっか」
そうだよ。
僕はそれが怖くて、今も君に何も言えない。 それに比べて湊斗はどうだろう。
自分の気持ちに素直になって、藍原さんに告白していた。
そして、今回は藍原さんがこれまでの関係を無しにして、改めて湊斗に告白しようとしている。
僕は……臆病者なんだろうな……。
「でもさ……」
「ん?」
「私は栗原君なら大丈夫だと思うよ」
「え……」
「だって、栗原君は良い人だもん! 私が保証する!」
そう言って胸を張る白戸さん。
そっか……俺は白戸さんにとって、良い人なのか……。
もしかしたら、白戸さんなら俺が告白して、振られたとしても、友達としていままで通り付き合ってくれるのかもしれない。
「ありがとう、じゃあ頑張ってみるよ」
「うん、応援してる!」
白戸さんがそう言ったのと同時くらいに、僕たちの下りる駅に到着した。
僕と白戸さんは駅を出て別れ道に向かう。
「じゃあ、今日はありがとうね」
「うん、僕も楽しかったよ、ありがとう」
「それじゃあね」
そう言って、彼女が背を向けた瞬間、僕は考えてしまった。
このままで良いのだろうか?
このままの関係で、僕は本当に良いのだろうか?
いつか、彼女に彼氏が出来るのを黙って見ている事が出来るのだろうか?
そんなことを考えて居ると、僕の体は勝手に動いていた。
気がつくと俺は白戸さんの腕を掴んでいた。 白戸さんはそんな僕を見て、少し驚いている様子だった。
「えっと、どうかした? 何か言い忘れた?」
そう言って僕の顔を真っ直ぐに見る白戸さん。
そんな彼女の顔を見た瞬間、僕は思わず声に出して言ってしまった。
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