第28話

「アンタどうしたの?」


「え? 何が?」


「なんか、いつもより元気が無いっていうか……いつもの由羽じゃないみたいって言うか……」


 私がそう言うと、由羽は顔を上げて話し始めた。


「なんか……最近……モヤモヤするって言うか……あいつの事ばっかり考えてるっていうか……」


「それは見てればわかるわよ。で、何が言いたいの?」


「いや……だから……なんて言うか……」


 私が由羽にそう尋ねると、頬を赤く染めながら口ごもってしまった。

 なんとなくだけど、私はこの子が何を言いたいのかわかる気がした。

 だから私は由羽の変わりにその答えを口にする。


「どうせ、まだ好きなんでしょ」


「……まぁ……うん」


 ようやく認めた……。

 私は深いため息を吐く。

 すると由羽は顔を真っ赤にして話し始めた。

「し、仕方ないでしょ……なんか……モヤモヤするんだもん……」


「はぁ……なら、今からでも言えば良いでしょ? 電話でも春山君の家に行ってでも」


「い、いや……それはなんか図々しいじゃない……私が振ってる訳だし……」


「まぁ……確かにそれはあるわねぇ~」


 ま、多分春山君はそんな事気にしないと思うけど、この子は少し自分の独占欲の強さを自覚しないといけないし……少し意地悪しちゃおうかしら。


「春山君、今度アンタの家にバイトにくるんでしょ? じゃあその時ほまた惚れさせれば良いでしょ?」


「そ、そんなの……どうすれば良いかわからないわよ……」


「じゃあ、正直に言うしかないわね、やっぱり好きですって」


「ん……そんな事……言っても良いのかな?」


「私は正直に言うのが一番だと思うけど、でも春山君がそれにどう答えるのかはわからいわ。必ずしも元カノだからって良い答えが貰えるわけじゃないし」


「そ、そうよね……」


 ま、そんな訳は絶対に無いけど……だって春山君、絶対に由羽の事まだ好きだもん。

 だから直ぐに清瀬さんと付き合わないんだろうし。

 まぁ、こう言って脅しでもしないと、また付き合っても、この子がわがまま言って春山君が愛想尽かす可能性もあるし……今回は由羽に頑張って貰わないとね。

 私はそう思いながら、注文したアイスコーヒーを飲む。


「……ちょっと……頑張ってみる」


「そう……なら私も応援してあげる」


「いつもありがとね」


「と言うわけで、まずはこちらをご覧下さい」


「え?」


 私はそう言って由羽の目の前に自作の資料を出した。


「な、なにこれ?」


「アンタが春山君とよりを戻す為のプランよ」


「ぷ、プラン?」


「まずはこの資料からね」


「し、資料?」


「まずはアンタの武器を確認しておきましょうか」


「あ、あの……さっきから何を……」


「アンタは春山君とよりを戻したくないの?」


「い、いや……戻したいけど……」


「じゃあ、真面目に聞きなさい!」


「は、はい!!」


 私は由羽に栗原君にした説明と同じ説明をした。





 今日は何かがおかしい。

 そう思ったのは登校してから間もなくだった。


「お、おはよ……湊斗……」


「お、おう……おはよう」


「ね、ねぇ……今日、お昼……一緒に食べない?」


「え? あ、あぁ……良いけど……」


 朝から藍原には飯に誘われるし……。


「ねぇ、春山君。映画の日、終わったら私の家に来ない?」


「え、別に良いけど……それより買い物とかの方が楽しいんじゃ……」


「ううん、家に来て欲しいなって……ダメ?」


「いや……全然良いけど……」


 清瀬さんはなんかいつも以上に積極的な気がするし……。

 ボディータッチも多いし……。


「なぁ湊斗、藍原さんあっちにいたぞ」


「なんで俺にそんな事を言うんだよ」


「あ、春山君。由羽ならあっちに居たわよ」


「なんだ白戸まで……」


 直晄や白戸さんはニヤニヤしながらそんな事を度々言ってくるし……。

 なんなんだ?

 俺は違和感を感じていた。

 なんだか周りの皆の様子がおかしい。

 

「なぁ、朝からなんなんだよ」


「え? 何の事だ?」


 俺は気になり、休み時間に直晄に聞いてみた。


「とぼけるなよ、何を企んでるんだ?」


「別に何も企んでないけど」


「嘘つくな! お前も白戸もおかしいだろ!」


「そうかな? あ、そう言えばさっき藍原さんがトイレに……」


「もう良いよ! なんで藍原の位置情報をいちいち報告して来るんだよ!」


「いや……別に何も……」


「嘘つくな! なんかあからさま過ぎるんだよ!」


「いや、本当に何でもないよ。湊斗こそ、今日は僕じゃなくて藍原さんとご飯食べてたじゃん」


「そ、それは誘われただけだよ……」


「仲よさそうだったけど、何を話してたの?」


「今日のバイトの話しだよ、変な話しなんてしてねーよ」


「ふぅ~ん……良かったじゃん、また藍原さんと仲良く出来て」


「ま、まぁ……嫌み言われたり、喧嘩したりよりは良いけど……」


「けど?」


「なんかいきなりあぁ言う態度で来られてもな……なんか裏があるんじゃないかって思っちゃって……」


「……なるほど……」


「何がなるほどなんだ?」


「別に、それより今日のバイト頑張ってね」


「お、おう……」


 なんだか上手くはぐらかされてしまった気がする。

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