第9話

 駅までやってきた僕たちは、物陰に隠れて湊斗達の様子を見ていた。

 見ていて思ったが、湊斗は終始笑顔だった。 きっと楽しいのだろうが、ここまで嬉しそうなのは珍しい。


「なんかずっと笑ってるな」


「そうね、なんか楽しそう」


「なんなのよあいつ! ニヤニヤして! もう!!」


 こっちは終始怒ってる……。

 はぁ……なんかもう帰りたいなぁ……。


「ねぇ、藍原さん。もう見ない方が良いんじゃ……イライラするだけだよ?」


「イライラなんてしてないわよ!」


 いや、絶対にしてる。

 僕は白戸さんと目を合わせ、ため息を吐いて藍原さんの腕をそれぞれ掴む。


「え? な、何よ!!」


「もうこれ以上は見ない方が良いと思うよ」


「イライラするのって体に悪いっていうしね……」


「な、何するのよ! 離して! 離しなさいよ!!」


 僕と白戸さんは、藍原さんを引っ張って駅を後にした。

 このまま湊斗と清瀬さんの様子を見せ続けたら、藍原さん何するかわからないしな……。 僕と白戸さんは、そうして藍原さんを駅から連れ出した。


「湊斗のやつぅ……随分楽しそうに……」


「はいはい、じゃあ明日何をすれば良いかわかる?」


「湊斗を殴る」


「違うわよ」


 藍原さんの物騒な物言いに、白戸さんは肩を落としてそう言う。

 なんでこんな事になってるんだか……。

 

「そんなに気になるなら、よりを戻そうって明日でも言えば良いじゃん」


「なんで私が! あんな奴もうどうでも良いのよ!」


「じゃあなんで後を追ったのよ……」


 藍原さんは本当に何がしたいのだろうか……。

 僕はそんな事を思いながら、白戸さんに耳打ちをする。


「ねぇ、藍原さんってこんなに面倒臭い人だっけ?」


「違うわよ、春山君が絡むと面倒になるの……」


「あぁ、そういう事……」


 僕はなんでこの二人は別れたのだろうかと疑問をに思いながら、怒り狂う藍原さんを白戸さんと抑えて、帰宅した。




 

「ただいま」


「あら、おかえり。遅かったわねデート?」


 家に帰ってきて、母に最初に言われたのがこの言葉だった。

 俺は清瀬さんを送った後、そのまま真っ直ぐ自分に自宅に帰宅した。

 

「ち、ちげーよ! ちょっと寄り道して帰って来ただけだ……」


「嘘ね、女の匂いが制服からプンプンしてくるわよ」


「え!? 嘘!」


「嘘よ」


「おいコラ! ハメたな!!」


「その反応……本当にデートだったのね……今日はお赤飯が良いかしら?」


「やめろ……別にデートじゃ……付き合ってねぇし……」


「あら、じゃあ何彼女になる予定でもあるの?」


「そ、それは……てか、そんなの母さんに関係無いだろ!」


「まったく……青いわね……」


 俺は母さんにそう言って、自分の部屋に逃げて行った。


「はぁ……なんでうちの母さんは全部わかるんだよ……」


 俺はそんな事を考えながら、ベッドに寝っ転がった。

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