第49話
黒い渦が回る門に向かって飛び込んだ俺は、怖すぎて目を瞑ったまんまでその門に入っていった。
目を開けて、今いる場所がさっきまでとは全く違うものであることを把握した。正面に広がるのは、いつかの教科書で見たような峡谷だった。
レンガ色の岩が絶壁を作り出し、太陽のまぶしい光によって、荒い岩肌に影を演出している。雲一つない青空と文字通りに一望できる景色に、解放感を覚えずにはいられなかった。
だが同時に、何か心に響くものがあった。景色による感動ではない。一体、何なんだ?
その正体を考えていると、
「わぁ・・・。すごい眺めね。」
という声がしたので後ろを振り向くと、イーギとクリプッセンがいた。門の仕組みはなんとなく想像はついたが、念のためにクリプッセンに聞いてみることにした。
「なあ、クリプッセン。あの門ってここにつながってるのか?」
「まあ、半分正解で、半分不正解よ。」
「・・・え?じゃあ何だってんだ?」
俺が改めて質問をすると、クリプッセンは説明を始めた。
「デリン・セラ城に囲まれている門にはそれぞれに特殊な場所につながっていて、さっきくぐった門は意識を具現化する空間につながってるの。」
なんだよ、そんな空間。まさしく・・・
「ただのチートじゃねーか。ムチャクチャが過ぎるだろ。」
「まあ、確かにそうね。でもここ、私達の世界じゃないのよ。」
「・・・はぁ?」
まったく意味が分からない。どういうことだ?
「詳しく説明するとね、どうやらこの空間は私達の世界の外側らしいのよ。そして、この空間には形がないから、私達が思い描く情報を具現化することで空間に形ができているらしいのよ。」
「・・・。」
俺は呆気にとられていた。無理もない。さっきまで中世でファンタジーな世界を満喫していたのに、ここにきてトンデモなSF要素を食らえば、誰だってそうなる。
「と、とにかく。あの門をくぐると、好きな所に行けるってわけ。分かった?」
「ウンワカッタ!」
「絶対分かってないやつね・・・。でもシイマ、アンタってこんな素晴らしい場所を知ってるのね。見直したわ。」
そう言われて、俺はとある疑問を抱いた。
「確かに知ってはいるけど、別にこれといって意識した覚えはないな。」
そう。確かにこの光景は学生の頃に教科書で見たことはあるが、この空間に反映するほどに意識したことはないはずだ、ということだ。なぜなんだ・・・?
すると、イーギが俺に答えを伝えてきた。
「お前、自分が行きたかった場所すら忘れちまったのカヨ。」
その一言で、全て思い出した。
「ああ、そうだったな。」
俺は、この景色を憧れていたんだ。学生の頃、教科書で、テレビで、ネットで見て、そこに行きたいと思っていたんだ。
けどしばらくして、自分の行きたい場所を忘れていったんだ。「いきたいところ」が、いつの間にか「いかなくてはいけないところ」にすり替わっていったんだ。
忘れてた。そして、思い出した。この光景を見て、なぜ感動以外に響くものがあるのかということに。
「・・・ヘヘッ。」
「ど、どうしたのよ。急に笑い出して。」
「いやぁ、なんでも。あ、そうだ。そういやこの空間って、意識したものを具現化するんだったよな?」
「ええ、そうだけど・・・。」
クリプッセンの答えを聞いて、俺は別の風景を頭に思い描いた。意識の具現化を経験したのなら、どれを具現化するかを選ぶことくらいできるようになるはずだ。
この考えは正しかった。具現化したい光景をイメージした瞬間、見えている光景が急に白くなって姿を消した。そして次に俺達の前に現れたのは、文字通りの銀世界と小さなたき火。そして、
「ア、アレって何!?」
優雅にたゆたうオーロラだった。薄まっては濃くなっていく、まるで意思を持って動いているかのようなオーロラに、俺達は心を奪われたまま、しばらく上を向き続けていた。
しかし、しばらくしてから
「ここ、すっごく寒いんだけど。」
とクリプッセンがグチを言ってきたので、
「そうか。そんじゃ、あったかい場所に移ろうか。」
と言って、俺は今いる空間を白い砂浜に変えた。すると、
「わあ、ステキね!ちょっとここで遊ばない?」
とクリプッセンが提案してきたので、
「よし、乗った。」
と返し、このビーチで遊ぶことにした。
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