第17話

 「あなたは私にとっての恩人です、シイマさん。あの言葉のおかげで目が覚めました。」


 俺はレソにそう言われ、そっぽを向くしかなかった。ちょっとした辱めを受けているようだ。


 「それ以上言わないでください。僕なんてそんな大した人間じゃないですよ。」


 とレソに言うと、


 「いえ、そんなことはないです。むしろ、あなた達はもっと大したことをしそうですよ。」


 と返された。この世界に来た目的からすると、的を射ている気がする。


 「それでずっと考えていたのですが、お願いがあるんです。」


 「なんですか?」


 これはもうR-18まっしぐらだな。


 「その・・・私のことは呼び捨てで呼んでもらっていいですか?それから、いつものように話をしてください。」


 「え?」


 「ええ。・・・ダメですか?」


 「アッハハハ・・・」


 俺は笑うしかなかった。


 「な、なにがおかしいんですかっ。」


 レソは自分がからかわれていることに気がついた。


 「だって、そんなことだけで畏まってるから、滑稽だなーって思ってさ。」


 「こ、こーいうのは慣れてないから仕方ないじゃないですか。」


 慣れてないのはお互い様だ。俺だって、異性との交流はずっと避けてきたから、しゃべる口調すら分からない。


 けど、せっかくの異世界だ。少しは自分を変えてみるか。


 「分かったよ、レソ。」


 と俺がそう言った瞬間、彼女が急に固まった。


 「どうした?」


 と俺が聞くと、レソはハッとして、


 「いや、私のことをそんな感じで呼ぶ人を思い出しまして・・・。」


 と言った。一応聞いておこう。元カレくらいだったら、そいつを忘れさせるくらいの体験にさせてやろうじゃないか。童貞だけど。


 「それって誰?」


 「私の主人です。」


 ・・・え?


 「しゅ、主人?」


 「そういえば言ってませんでしたね。私、結婚してるんです。」


 ・・・は?エロ展開は?俺のこのムラムラはどうすんだ?俺は8割がそれ目的だったんだぞ?


 その瞬間、イーギが、


 「プ、プクククク・・・。」


 と口で腕を隠して笑い始めた。なるほど、そういうことか・・・。


 そう思いながらレソに顔を向き直すと、レソが涙を流していることに気がついた。


 「ど、どうしたんだ?」


 俺が戸惑いながらレソの様子をうかがうと、


 「いや、あの人のことや、子供のことを思い浮かべると、急に寂しくなって・・・うう。」


 と言ってきた。これですべてが腑に落ちた。レソの家が大きい理由も、イーギがくすくす笑っていた理由も。そして、レソがどうして自分を押し殺していたのかも。


 「レソ、アンタは主人や子供に会わせる顔がないから、その人たちのことを忘れて、別の顔を作ってたんだな。」


 「はい、はい・・・。」


 レソはそう言って泣き崩れ、俺に抱きついてきた。


 「頑張ったな、レソ。もう大丈夫だ。」


 俺はその人の代わりとして、レソの頭をなでてやった。




 レソが落ち着いて泣き止んだのを見て、俺はレソに一つ断った。


 「ちょっとイーギと話があるから、席を外していいか?」


 「ええ。いいですけど・・・。」


 許可を得た俺は、イーギを連れてレソの家を出た。


 レソの家の裏側に行った俺は、早速イーギの胸ぐらをつかんで家の壁に押しやって、魔女裁判の尋問をすることにした。


 「おいてめえ、いつから分かってた?」


 「あの女のことを調べ始めたのハ、俺達がそいつを助けたときダ。何があったのかラ、そーいうことが分かったんダヨ・・・ケケッ。」


 「なるほど、それを前もって知った上で、白々しい演技をして、俺のガッカリを待ちわびてたんだな?」


 「そういうこっタ。楽しませてもらったゼェ、オイ!」


 そこまでは分かる。


 「けどお前、それだけじゃ説明できない部分があるんだよ。」


 「なんダ?」


 「お前は俺の反応を楽しんでるんだよな。それも俺の内側の反応だ。それを知るために、俺にテレパシー使っただろ。」


 「ああ、使ったナ。」


 「よし、死ね。」


 「待テ待テ!だから前もって謝ったじゃんかヨ!それニ、こんなおもしれー状況で使わない手はないダロ!」


 「正直、あの状況でテレパシーを使うのはまだ分かる。俺も使う。けどな、俺の失念でお前が得するのがなんか気に食わねえんだよ。」


 「ハッ、残念でしター!お前のリアクション、見事だったゼェ!これだけで飯が何杯も食えるワ!愉悦、ゴチになりまース!ギャハハハハ!」


 「このヤロー・・・。」


 「そんなにムラムラしてたんなラ、寝取っちまえばいいだロ。まあ、お前には無理なことも知ってるんですけどネー!」


 「いっぺん死んでみるか。」


 この発言の後、俺はイーギをフルボッコにした。  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る