49 空の卵
2021年の10月某日。
筆者が見た不思議な光景を、備忘録としてここに書き記そうと思います。
その頃、私は突然発症した病気のため、4年務めていた介護職を辞めることになりました。
なんとか前向きになろうと、
元々好きだった業界へ転職することを決め、
なんの後ろ盾もないまま、面接に挑みました。
その時、正直に病気のことを話したこと、
また、相手方より、
「応募が多くどんな結果になるかは言えないが狭き門である」ということを伝えらたこともあり、就職に対して大きな不安を抱いていました。
病気もあまり聞いたことのないものでしたから、調べてもあまり情報が出てこず、この先どうなるのかという悲壮感で、毎晩泣いていたのを覚えています。
日勤のため車で出勤している最中も、
どこか上の空でした。
ただ、もうすでに身体的負担が限界にきていた介護の仕事を辞められるということで、若干心は軽かったように思います。
先のことを考えていても仕方ないし、
取り合えず今日は介護を頑張ろうと片側二車線の高架橋に合流して、スピードを上げました。
出勤ラッシュにかぶらない、お昼の時間だったので車はまばら程度。
見晴らしがよく空が一面に見えていました。
しばらく走っていて、私はある雲の群れに目がいきました。
秋の雲ですから、いわし雲というか羊雲というか、とにかく大抵はふわふわとしていたのですけれど、その中に一つだけ、白くまん丸いものが浮かんでいたのです。
異質だったのは、それが真珠のような光沢を放っていて、もともと白いというのに、一部分太陽にあたったところがさらに白く光っていたこと。
(なんだ?あれ。)
思わず見入っていると、その玉がくるんくるんと上下に回転しました。
2回程回ったちょうどその時。
その玉はほぐれていきました。
何を言っているんだとお思いでしょう。
でも、ほぐれる、以外にあの光景にぴったり合う言葉が思いつかないのです。
例えがおかしいかもしれませんが、くしゃくしゃになったストローの袋に水を掛けると広がっていく、あんな具合で、玉だったものは縦に伸びていき、とうとうあるものに姿を変えました。
それは、顔がない全身真っ白な、翼が生えた人間。
両手を左右に開き、誰かを迎え入れるようなポーズを取っています。
(え?うそ!?信じられない!)
瞬きをしても、それは確かに空に浮かんでいました。
驚きはこれだけじゃありません。
それが手を広げてから数分もしないうちに、
足元に眩しく光る飛行体が現れて、
2回点滅したかと思えば、ふっと跡形もなく、翼の生えた人型と飛行体が姿を消したのでした。
あれは何だったのでしょうか。
気になってこの話をTwitterにて上げたところ、天使ではないかとの意見がありました。
天使、確かにそうかもしれません。
この翼人を見て数週間後、
あれだけ就職するのが絶望的と思われた希望先の職場から、合格通知が届きましたから。
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