第14話「獲ったどーーーーー!」

 ───私を舐めるなッッ!!!!!


 ダンッ!!! と踏み込み、軽戦車から飛ぶエミリア。


 そして、最後の踏み込みとともに、すでに跳躍しているギーガンと空中で睨み合い……──────激突するッッ!!


 ギーガンの気合一閃!!

 「ふん!!」と、ばかりに振り下ろされた大剣を彼女は両手で挿みこんだ。


 ガシィィィイイイ……!!!


「むっ……! この剣は───!?」

「ぐはははははは! 気付いたかッ。こいつは、お前の剣よ!!」


 ゴテゴテと装飾を施された剣は、確かにオリハルコンの輝きを放っている。


 そして、削り取られてはいるが……微かに、魔族のものである紋章が───。


「このッ! 私の剣に余計な装飾を──!」


 怒りに満ちた表情でエミリアはギーガンを睨むも、奴は全く怯まないッ。


「ふんッ! 薄汚い魔族の分際で分不相応なものを使っているから、ワシが再利用してやったまでよ! むしろ、」


 ───ありがたく思え!!


「ふざけるなッ!! 我ら───魔族の戦士に代々受け継がれる、栄えある剣に何という醜悪な装飾を!………………恥を知れッ」

「ぬかせ、小娘がぁぁあ!! この紋様の美しさが我が帝国の力の証じゃぁあ───!」


 ギリギリ……と、力を籠め剣を奪い返そうとするエミリア。

 空中で二人は絡み合い今も滞空している。


「笑止───。その文様には、なんの軍事ミリタリー的価値アドバンテージもない!!」


「ならば、勝ち取ってみせるがいいッ!!」


 ───おうよ!!!


 小柄なエミリアと巨躯のギーガン。

 一見してギーガンのほうが有利に見えるが……。


「───私を誰だと思っている!!」


 膂力はドワーフに次ぐ、怪力の持ち主──────。


 ───ダークエルフの、

「エミリア・ルイジアナだぞッ!!」


 ブンッ!!


 両手で白羽取りした大剣を、力任せに引っこ抜くと空高く舞い上がる。


 そして、勢いのまま空中で激突する二人。


「ば、かな……!」

「アンタが、ね」


 ガッッ!!


 驚愕に顔を染めるギーガンの頭を、両足の太ももで挿むように、そっと包み込み抱締めるエミリア。


 巨躯の将軍と小柄なダークエルフ。


 まるで祖父と小さな孫の様に見える二人は空中で絡み合い、ギーガンはエミリアの鼓動と温もりを間近で感じた。


(ダーク……エルフ───)


 至近距離で見つめ合う二人。

 そっと、ギーガンの頭を撫でるエミリアは、ニコリとほほ笑む。


 不覚にも、ギーガンはそれを美しいと感じてしまった。だが、次の瞬間!!───彼女の顔がキッ、と鋭いものに代わる。


「捕・ま・え・た……」


 ミリミリミリ……! と、怪力を感じた頃には頭部に激痛が走り、エミリアの膂力に負けて空中ですら押し返されていく。

 そのまま、帝国軍が壊滅した方へと飛んでいき───。


「ぐ、が───は、放せ……!」


「帝国軍指揮官──魔族領侵攻部隊の長……そして、我らが大敵、」


 ギーガンの抗議など耳を貸さず、エミリアは冷たい目でギーガンを見下ろすと、言う。


「……数多の同胞を殺戮し、今もなお、その地位にいる───すなわち、我らが怨敵ッ」


「ま、まて!! よせ!!」


 ギリギリ……ミシミシ……!!


「め、命令だ!! へ、へへへへ、陛下の命令だ! 上司の指示なのだ!!」


 わ、ワシは……。

 ワシは──────!!


「ワシは悪くないッッッ!! ワシは微塵も悪くなどない!! ワシは──────」


「はッ」 


 まともな言い訳を言うのかと思えば……。


「んなわけ、」




 あるかーーーーーーーーーーーーー!!!




 ブチィ!!

 力任せに首根っこを引っこ抜くと、ギーガンの身体を蹴り飛ばす。


 ギュルギュルと回転する身体が、陣地手前に、急造した応急地雷原にドスーン──と。


 首を見れば、まだ口をパクパク動かして、何やら言っているが───もう幾ばくも命の火はないだろう。


 それでもまだ、どう見ても言い訳を言ってやがる……。


 もっとも、肺がなければ空気を送り出せない。

 どうやっても、しゃべれはしまい。


「聞くに耐えないわ」


 ドスーーーンと、体が地雷原に転がったのを見据えて、

「くっだらない男……。最後くらい気概を見せなさい」


 ミシミシと、手に持つ顔面を握りつぶす様に構え──────ぶん投げた!!


 ブンッッと!


 身体のすぐそこ───地面に敷設された地雷目掛けてッ。


 ぱくぱくぱくーーーーーーー!! と口が動いている。


 多分、やめろーーーーー!! とか言ってるのだろうが、


「帝国軍は終~了─────さようなら、最後の将軍。派手に吹っ飛びなさいッッ!!」



 そして、地雷に顔面が着弾────、地雷の信管を叩いて、ドカーーーーーーーーン!


 と、首が空に舞い上がっていく。


 爆風の中に見えた顔が、「嘘ぉぉぉぉおおん?!」って感じで歪んでいく。


「良かったわね───帝国軍では戦死者は二階級特進するんでしょ? きっと、アナタがナンバーワンよ」


 あははははははははははは!


 ひとしきり笑うと、エミリアはクルリと身を翻して着地。


 あとには、ベチャベチャと、地雷で生焼けに焼けたギーガンの肉片が降り注ぐのみ。


きったないシャワーね……」


 それはそれは楽しげに、ニッコリとギーガンの最後を見つめてエミリアは笑った。


 そこにタイミングよく、空に舞い飛んでいた剣がクルクルと回転しながら落ちてくる。


 パシリッッ! と、見もせずにそれをキャッチしたエミリアは、柄に唇を当て小さく呟いた。



(おかえり……)



 そして、言う。




 さぁ、

「お次はロベルト──────」



 そうとも、勇者パーティの知恵袋。

 賢者ロベルト───次は、お前の番だ。

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