第4話 お願いだから、パクらないで!

 前回のあらすじ

 映画の撮影で、佐那美のせいで今度は眞智子が地面に頭突きを食らわす自体に。

 怒った眞智子が佐那美の頭を脳天唐竹割り。その日は結局病院(眞智子の家)送りで終了。

 次の日の被害者は僕だった。まさか的場で撃たれた矢を回避して、最終的に管理者に怒られた。

 映画の撮影は連続で続く。


――本題に移る。

 

 撮影終了後、僕と美子はくたびれてソファーに倒れ込むわけであるが、今日に限って美子の様子がおかしい。いつもなら僕にべったりの美子が、何か考え事をしている様でソファーに寄りかかったままずっと下を向いていた。


 「どうした?何か考え事してるみたいだけど」


 美子は僕の顔をチラ見した後再び下を向く。

 こういうときの美子はもの凄く集中して考えている時だ。


 「さっきからずっと何か引っかかっているのよね――何だろうこの違和感」


 「佐那美さんの件か? なんかあいつ企んでいる感じがするんだよな」


 「やっぱり変よね? もっとも佐那美ぐらいなら大したことないんだけど、マサの野郎や家元(元家のこと)がバックに付いているとなると、何となく嫌な予感がするのよね」


 「嫌な予感とは?」

 「うん……今日はケーブルテレビ局脇の駅だった場所で、佐那美の馬鹿をお兄ちゃんが馬乗りになっているシーンがあったでしょうよ。このシーンってどっかで見たことあるんだよね」


 「そう? 僕はわからないけど」


 「うーん。なんだったけかなぁ……」


 美子はかったるそうに立ち上がるとそのまま自分の部屋に戻っていった。

 それから小一時間が経ったころだろうか、美子がドタバタと階段を下りてきて、怒った表情で居間に戻ってきた。


 「お兄ちゃん!」


 「ひゃあ、ごめんなさい――」


 美子の表情でビビってしまい理由も分からず詫びを入れる僕、相変わらずヘタレである。


 「違うわよ。佐那美の奴が企んでいる事わかったわ! 今、眞智子にも電話入れた。これから佐那美の家に行くわよ」


 「殴り込み?」


 「ちがーう! あの馬鹿女、よりによって『あの』パクリをしていたのよ」

 

 「『あの』パクリ?」


 「とにかく行くわよ。おにいちゃん、その制服のままでいいから」


 美子はそう言うと僕の手をグイグイ引っ張って表へ、気がつくと佐那美の家に到着していた。そこでは既に眞智子が『これから、ひと狩りに出かけるぞ』と言わんばかりの黒いオーラを漂わせてたたずんでおり、美子が佐那美の部屋をあごで指示すると、眞智子は指をポキポキ鳴らし臨戦態勢に入った。



――それから2分後、僕らは佐那美の部屋にいた。



 佐那美の部屋の入口で正座して座っている元家。完全にブルっており涙目になっている。一方の佐那美はケタケタ笑いながら自分の椅子に腰を掛けていた。


 「佐那美、今までの画像データを私らに見せなさい」


 「あんたが考えている事くらい、私らわかっているんだから」


 眞智子と美子が語気強めに詰め寄る。


 「あら、わかっちゃった?!」


 「『わかっちゃった?』じゃあねえよ」


 「さっさとパソコン出しなさい。どうせ既に編集済みなんでしょ」


 彼女らの追及に観念したのか佐那美は大きなため息をついた後、入口付近にいた元家に対して「元家、パソコン持って来なさい」と指示した。


 「姉さんダメだよ。僕、マジで殺されちゃうよ!」


 「いいから。下手な隠し立てをするとこの怖い先輩達何するかわからないわ。責任はあたしがとるわ」


 「ホント?」


 元家は佐那美の顔色をうかがう。佐那美はニッコリ微笑みながらコクリとうなずいた。やっぱりそういうところは『お姉さん』しているんだろうなぁ。

 そこまでいわれちゃ眞智子と佐那美もうなずくしかない。

 元家は一度自分の部屋に戻り、ノートパソコンを持って戻ってきた。

 美子は元家のパソコンを奪うように取り上げると、佐那美の机の上に載せ、勝手に電源を立ち上げた。

 そして元家に対して親指をつきたてパソコンを指示する。『画像をだせ』と指示しているようだ。

 元家は編集中の画像を開こうとする。そのファイルを見ると『(仮)SCHOOL DEATHS』というものになっていた。


 「――やっぱり」


 美子はボソリとつぶやいた。


 「このSCHOOL DEATHSって何?」


 僕は美子に尋ねる。美子は僕の問いに対して――


 「簡単に言うと『アニメをふんだんに使った恋愛ゲーム』なの。でも選択次第では残酷な結末になる――ネット上でその話題見たことがあったのよね」


――と答えた。

 すると元家は「池田さん曰く題名はSCHOOL DICEで決まりだそうです」と悪びれる事なく口を挟んできた来たので、誰のせいで頭来てるんだよとばかりに美子が「そんな事聞いてない。無駄口叩くとマサと一緒に海にし○めるぞ」と淡々と且つ凄みを利かせ、それに恐怖した元家が半べそ状態になった。

 彼はビビりながら動画をクリックする――


 ――まずペディストリアンデッキの動画。

 美子の顔色が一瞬に青くなる。僕も血の気が引いた。

 そりゃそうだろう。


 眞智子の持っていた新聞の棒はいつの間にか日本刀に姿を変え、眞智子が一振りすると、美子の首がゴロリと斬り捨てられ、美子の首からおびただしい血液が辺り一面噴き出すシーンになっていたからだ。


 この画像を見た美子は咄嗟にハンカチで口元を抑えた。

 そして美子の返り血を浴びた眞智子は僕に抱きつき、背後からその刀で僕ごと眞智子自身を貫きお互い血しぶきをあげ絶命するシーンとなっていた。

 なるほど、だから僕も眞智子と一緒に倒れる必要があったのか。

 よくもまあ、このようなグロい画像に編集したものだ。でも通常こういうものは控えめになっているんだがなぁ。


 ――次のシーン。眞智子が地面に激突するシーン。

 これもやばい編集だ。

 眞智子が屋上からバンジージャンプするシーン……ではなく、佐那美に突き飛ばされ落ちていくシーンに編集されていた。

 眞智子の顔はあのケロロ目で、僕に悲しいそうな表情で落ちていき、最後は地面に激突し頭が割れ、脳が飛び出すシーン。

 僕はたまらず窓を開け、そこで嘔吐した。

 美子はその場で血の気を失い卒倒した。


 「――お、おまえ、なんてこんな編集しているんだよ!」


 僕は気を失っている美子を抱きかかえたまま、これの総責任者である佐那美に対して声を荒げ抗議したが、その本人も「うえええ……」とどこからか用意したビニール袋に吐きだしている始末である。

 命じた本人は全くどう編集していたか確認していなかった様だ。


 「それじゃあ、今日のシーンはどうなるんだ?」


 僕は元家に問いただす。元家は「もう出来ています」と言って『ANEKIDEATH』という画像をクリックする――


 すると廃線駅だった場所はいつの間にか、うちの近くの駅に編集され、僕が佐那美を押し倒して、ホームから突出した佐那美の頭を通過中の特急列車にぶち当たり轢殺するシーンに変更されていた。

 殺人鬼と化し、血まみれになった僕の後ろには吹き飛ばされた佐那美の頭が転がり、その頭が半分に割れ目玉が飛び出している。


 僕はもう一度窓を開け内容物を外目掛け吐きだした。

 いくら映画で慣れっこの僕でもこれはきつい。それにリアルヤンデレの美子にしてもこれを作るように指示した佐那美でさえ、自分や周りの人のあのような惨殺シーンを見せられ正視に耐えなかった様だ。


 さて、これをどう収拾つけようかと考える。

 今までジッと画像を見ていた眞智子がその答えを出してくれた。


 「おい、これかなりエグイ編集やっちまってるどさぁ。これ見る人喜ぶのか?」


 眞智子は淡々と元家に質問する。


 「私の親は医者だから慣れているけど、普通は気持ち悪いんじゃないの?」


 えっ、個人医院ってこんなにエグイもの見慣れているの?

 どんな状態で個人医院にそんな大惨事の死体運ばれるんだ??

 ――と突っ込みつつも、眞智子が言うとおり、これは非常に気持ち悪い。こんなエグイもの誰も見たくない……ましては自分の身近な人の惨殺シーンなんて。

 だがこれを作った元家は彼女の問いに対して、予想外の答えを出してきた。


 「そうですか? 割とリアルにできたと思うんですけどね」


 悪びれるわけでもなくあっけらかんとしている元家。

 非情のクリエーターってところだろうか。

 確かにもう少しエグイところ抑えれば、映画としては成立するのだろうが、正直高校生レベルの文化祭にこんなもん流せません。

 参ったなぁ……そう思っていたところ――


 「まあ、あんたにしてはがんばったんじゃないの?」


――と激励の声。美子である。

 美子はフラフラの状況で立ち上がると、ニッコリ微笑みながら元家の手を掴み、引っ張り上げた。

 何するつもりなのか。まあこういうことで美子が他人を褒め称えることって皆無なのだが、少しは相手を気遣うようになったのだろうか――って一瞬でも思ったことを後悔することになる。


 「とりあえず――――――私、気持ち悪くなった。それ以上に眞智子はどうでもいいとしても兄さんに迷惑かけた事がムカついた。だから一発、ぶん殴るね」


 美子は微笑みながら彼の手を強引に引っ張ると、すぐさま手を放し、グウで顔面を1発ぶん殴った。その場で鼻血を出してノックダウンする元家。

 「うわあああ……美子さん、ついにやっちまったぁ――」

 おもわず口にしてしまう僕、美子は僕の言葉にぴくりと耳を動かすと、今度は僕の前に歩み寄りニッコリ微笑みながら


 「お兄ちゃん、安心して。少なくとも私はそうならないから」


 美子はそう言うとうれしそうに僕の腕にしがみつき、頬をすり寄せた。

 まだちょっと酸っぱい臭いが残っているので今は遠慮してもらいたいのだが、まぁかわいいから僕は許すよ――でも、その姿を見て他の人はどう思うだろうか。

 案の定『カッチーン』という反感の小声が二箇所から聞こえた。


 「はぁ~そうきたの。この前、あたしに向かって得物振り回して『ぶっ○してやる』って追いかけてきたわよね。そりゃあんたは殺人鬼だからそうならなくてもそうする側だもんね」


 佐那美である。今まで吐き気で項垂れていた彼女がようやく攻撃に加わった。

 そして眞智子もここぞとばかりに参戦する。


 「それってさ、本当は礼君を独り占めにしたいので邪魔な私らをこ○すから、自分はそうならないって言いたいんじゃないの?」


 流石は喧嘩友達、ポイント掴んでいるぜ。学年1位は伊達じゃあないなぁ、どっちが優等でどっちがビリだかは言うまでもないが……

 さすがの美子も弱り目をピンポイントで突かれると、顔を真っ赤にして――


 「うるさいわね、あんたらが○ねば、ハッピーエンドで終わるんだよ。だから早く○ね。そうすれば手を下さないで済むから」


――と暴力的な発言ではぐらかす事しかできなかった。


 ちなみに弓道場での僕の惨殺シーンは美子に突き飛ばされ、弓道ガールズの矢に貫かれて死ぬシーンとなっていた。

 彼女らのグロいシーンにくらべれば僕のはほんの序の口にしか過ぎない。佐那美が後日『神守君のシーンは加減させた』と語っていたが、それでもまともな死に方ではないな。

 しかし、美子の手によるもの――というのはちょっとまずかった。


 美子は「なんで私がお兄ちゃんを○すのよぉ!」と泣きながら、どこからか本物の得物取り出し暴れる事件を起こした。


 幸い、僕と眞智子で止めたので警察沙汰になるまでもなく、元家の心の傷だけで事態は収拾することができた。

 ――ただ、美子を止める際……色々あったもので、僕は再びモミーという名称で呼ばれることとなった。

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